聖女を愛する貴方とは一緒にいられません

黒木 楓

文字の大きさ
上 下
29 / 50

29話 ザロク視点

しおりを挟む
 リラをルアリサ国に連れ戻す計画は、エリオス国で活躍したばかりの頃からあった。

 今までは捏造した悪評を広めてきたが、それ以上にリラは活躍している。
 エリオス国に貢献しているから、今までは行動を起こしていない。
 それでも――リラが回復ポーションを作れると知ったルアリサ国は、俺の屋敷が破壊された出来事を理由に働かせるつもりのようだ。

 謁見の間で、対面している国王とマーシュ王子が話す。

「エリオス国はリラを手放す気がない。その考えを変える必要がある」
「まさかリラが回復ポーションを作れるとは思わなかった。もはやエリオス国に乗り込むべきだろう」

 聖女レミルはリラを排除したいようだが、利用価値がある。
 俺の屋敷を消したことを理由にして連れ戻すつもりだが、上手くいかないことはわかっていた。

「屋敷を破壊した出来事はエリオス国も把握しているだろう。これはただ奴等と会うための建前だ」
「この城でリラが俺達にしたことをやり返す……それにはザロクが適任だから、俺と同行してもらうぞ」

 謁見の間にリラがやって来て俺を追い詰めると、聖女レミルが激昂して攻撃魔法を繰り出した。
 一年前とは違い今度は俺がエリオス国に乗り込み、リラを挑発して攻撃させたいようだ。

「話し合いの場にリラがいなければ、ザロクは捏造した悪事を話すことでエリオス国にリラが脅威だと思わせればいい」
「ザロクは人とは思えない言動を平然ととるからな。初対面の奴なら、問題なく騙せるだろう」

 マーシュ王子の発言は酷いが、事実だから言い返せない。
 これからの行動を聞き、尋ねておかなければならないことがある。

「俺の役目はわかりましたが、その場合はリラの攻撃を受けろということですか?」
「お前は龍の杖で強くなり、リラの攻撃を受けても耐えられる。死んだらむしろありがたい」
「リラの鱗一枚以下の価値なのだから、命を賭けるのは当然だろう。死んだとしても、常に龍の杖で苦しむ生活よりマシだ!」

 回復ポーションを飲んで全快すると、龍の杖による痛みでどれだけ苦しかったのかわかってしまう。
 この場で反論すれば、どんな目に合うかわからない。

「……わかりました。俺としても、リラを連れ戻したいと思っています」

 回復ポーションで全身の痛みや頭痛がなくなったことで、リラが必要な存在になっている。
 どんな手を使ってでも連れ戻したくて、利益を得たい王族も焦っているようだ。

 このことをレミルが知れば、どんな行動をとるかわからない。
 知られないように行動し、俺とマーシュ王子はエリオス国に向かおうとしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

処理中です...