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24話

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 私はラギンの婚約者クノエに案内してもらい、部屋に向かう。
 冒険者ギルドで一番偉いギルドマスターと呼ばれる人と、これから話せるようだ。

 歩いている最中に来た理由を伝えると、クノエが教えてくれる。

「リラ様とハロルド様が倒したいモンスターですが、今は地中に潜んでいるため倒せません」
「そうなんですか?」
「行動範囲は判明しているので、誰も近づかせないことで対処しています」

 普段は地中に潜りダンジョンの魔力を得て、偶に日光を浴びるため地上に現れるらしい。
 これからギルドマスターと話をして、目撃情報があれば知らせてくれるようクノエから頼むようだ。

「そうなると、今日の俺達は挨拶だけになりそうだ」
「ギルドマスターには尋ねたいことがありますけど、そうですね」

 話していると部屋に到着して、クノエが先に入り説明してくれる。
 その後は部屋のソファーに座ると、大柄の青年が私達と対面した。

 長い茶髪の青年がギルドマスターで、左腕にギプスを巻いている。
 実際は少し違いギプスのような魔道具だけど、実物を見るのははじめてだ。

「リラ様とハロルド様。私のことはギルドマスターと呼んで欲しい、その方がわかりやすいからだ」
「私はリラで構いません」
「俺も呼び捨てでいい。クノエから聞いていると思うが、アルラウネが出たら対処するから屋敷に報告して欲しい」
「助かる。ダンジョンの魔力を得ているから強力なモンスターで、近寄らない以外の方法がとれなかった」
「リラ様なら空からのブレスで余裕ですわ!」

 興奮した様子でクノエが力説するけど、私も同意見だ。
 それでもギルドマスターは不安そうにしている辺り、そんなに強いのだろうか?

「クノエ、君はラギン王子の婚約者なのに危機感がなさすぎる」
「リラのブレスは貴族の屋敷を一瞬で消し飛ばす破壊力があるが、アルラウネはそんなに強いのか?」
「むしろリラはそんなに強いのか……すまない。私は侮ってしまったようだ」

 そう言ってギルドマスターが頭を下げるけど、私が屋敷を破壊したことは知られていない。
 王子の婚約者だから、クノエは知っていたのだろうか?
 地上にアルラウネが現れたら屋敷に報告してくれるようで、ハロルドがギルドマスターを眺める。

「本来なら今日退治するつもりだったが、こうなると帰るしかなさそうだ……リラは、尋ねたいことがあるんだったか?」
「はい。ギルドマスターもそうですけど、冒険者ギルドには負傷している人が多いですね」
「ダンジョンの攻略が進むと、周辺のモンスターに異変が起きてしまう。特に踏破する直前が一番危険なんだ」

 ダンジョンの攻略が進んでいるのは、私の鱗で作られた装備によるものだ。

 強力な武器を手に入れたから、ダンジョンが踏破されるかもしれないとラギン王子から聞いている。
 その影響で周辺が危険になってしまったのなら、私はできることをしたい。

「……リラの手が聖女のように白く光っているが、どうなっている?」
「聖女の回復魔法をイメージしただけです。龍化スキルは魔力による再生能力があるので、応用すれば回復魔法が使えるのではないかと思いました」

 城でレミルの攻撃を受けた時に、私は魔力を使い肉体を再生させている。
 その際の回復に魔力を使った時から、聖女の回復魔法を再現することができるのではないかと思っていた。

「この光を浴びれば腕を治せるかもしれませんけど、使ってもよろしいでしょうか?」

 いきなり聖女でない私が回復魔法が使えるなんて、信じられないと思う。
 ギルドマスターに尋ねると、驚いた様子で頷いて。

「私の方から頼みたいぐらいだ。失敗しても構わない」
「わかりました――それでは、回復魔法を使います」

 右手の白い光を飛ばし、ギルドマスターのギブスらしき物に浴びせる。
 そうするとギブスがただの包帯になって、私は困惑するしかない。

「腕につけていたのは魔力で固まる包帯の魔道具で、魔力を流せば再び包帯に戻る」
「便利ですね」
「……私としては、リラが回復魔法を使えたことに驚くしかないな」

 そう言ってギルドマスターが左腕を動かし、骨折が完治している。
 ルアリサ国で聖女レミルが言った通り、私は回復魔法が使えるようになっていた。
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