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6話

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 貴族の中には、相手の行動を制限するため結婚に魔道具の指輪を使う。
 結婚指輪の魔道具による契約は、私が前世を思い出す前から結ばれていたものだ。

 契約を解くためには夫ザロクの強い意志が必要だけど、私を利用するため離婚は考えない。
 それは冷静な状態の話で、ここまで追い詰めれば離婚したいと思うはず。

 今は漫画本編の時間になっているし、ザロクは漫画通り私を討伐することで聖女と結ばれるつもりでいる。
 この日のために準備をしてきたから、会話で更に追い詰めていこう。
 
「ザロク様。貴方の頭の中で「リラに屋敷を消された」のは二度目の出来事なのに、動揺しすぎじゃないですか?」
「うっ……」

 私はあえて、今まで捏造してきた夫ザロクの発言のみを使う。
 どこまで怒っているのかを知ってもらい、更に今後の発言を予測させよう。

「暴走したリラが城に攻撃するかもしれないと王家や聖女を不安にさせていましたけど、私は貴方の推測を実行しても構いませんよ」
「馬鹿な!? そんなことをすれば処刑になってもおかしくないぞ!?」
「私は龍化して逃げればいいだけです。今まで虐げてきたザロク様とその一家や、私を見捨てた家族がどうなっても構いません」

 これは紛れもない本心で、だからこそザロクに突き刺さる。
 今後の行動を想像し、今は私を討伐するための準備ができていない。
 それは漫画と違い悪事を働いていない私を侮り、いつでも討伐できると考えていたからだ。

「聖女レミル様は発展途上だから、成長する時を待っていたみたいですけど……それより先に、私が蛮行に及ぶとしましょう」
「そ、それは――」
「――それが嫌ならお互いの結婚指輪を破壊し、婚姻を解消してください。私は準備ができています」

 離婚してくれるのなら、私は暴力的な行動をとらない。
 それでも元夫となるザロクは、これから苦しむこととなる。

 警告したけど、ザロクはまだ私と離婚したくないようだ。

「うっ……待て! 考え直せ!!」
「考え直す? 今日の私の行動とさっき話したこれからの行動は全て「貴方が周囲に話していたリラ」の行動でしょう?」
「そ、それは――」
「――離婚する気がないのなら、貴方の嘘を真実に変えるだけです」

 そう言って結婚指輪を見せつけるのは、言葉ではなく行動で示せと伝えたいからだ。

 ザロクは自身の左手を眺めて、震えた右手で結婚指輪に触れる。 
 離婚すると意志を強めたことにより、私とザロクの結婚指輪が砕けていた。

「ほ、本当に俺と離婚する気でいたのか……?」
「演技と信じて確認したかったみたいですけど、これでようやく自由になれました」

 離婚できるかが一番の問題だったけど、切り抜けられたことに安堵する。

「離婚できて気分がいいので、消し飛ばした屋敷の代金を払いましょう」

 屋敷は私の所有物だから払う必要はないけど、これは今後を見据えての行動だ。
 龍化した時に取っていた白銀に輝く鱗を一枚だけ、私は茂夫ザロクに投げ渡す。
 手の平に収まる程度の大きさで、受け取ったザロクは激怒した。

「ふざけるな! さっさと消えて後悔しろ!!」

 ザロクは龍鱗を握りしめると、それは粉々になって風が吹き飛んでいく。
 魔力で身体能力を強化したから、怒りに任せて握り潰すことができたのでしょう。
 数年経てば生えてくるから気にしないけど、やはり物の価値が理解できていないようだ。

「後悔するのは貴方の方です」

 やることは全て終えたから、私はここから出ていこう。
 目の前のザロクは今になって離婚したことに焦り、慌てた様子で叫ぶ。

「ま、待て! 伯爵家のお前が公爵家の俺と離婚して、どうなるかわかっているのか!?」

 さっきは消えて後悔しろと言っていたのに、脅せば止まると思ったのだろうか?
 何もわかっていない元夫ザロクに、私は言っておこう。

「わかっていないのは貴方です」
「……なに?」
「蛮行に及ばないと言いましたけど、浮気していたと広めるのは元妻として構わないでしょう」

 悪事を捏造されて評判を落としてきたことは、やり返すつもりでいる。
 私の場合は真実を公表し、ザロクの評判を落そうとしていた。
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