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4話
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スキルの力による龍化は何度か試したことがあり、漫画でイラストを把握しているから問題なく体の一部だけを変化させている。
今の私は両眼を龍の眼に変えて――見た目はあまり変わっていないけど、龍の眼は威圧する力があった。
威圧して屋敷を消し飛ばすと宣言すれば、使用人達は態度を変える。
逃げ去る人達が半数だけど、残りの半数は私に向かって頭を下げてきた。
「今まで申し訳ありませんでした! 全てザロク様の命令です!!」
「精神的に弱らせれば何もしないと言われていました。屋敷を消すことはおやめください!」
私の発言を聞き、使用人達が本心を叫んでいく。
それなら私も、我慢した二年間について話すとしよう。
「貴方達は来客があった際に、龍化した私が屋敷で暴れていると話していましたよね」
「知っていたのですか!? そ、それもザロク様の命令で――」
「――貴方達の嘘を真実にすると言っているの。これからどうするかは貴方達が決めなさい」
嘘を真実にする。
それは、私が屋敷内だと暴れて迷惑しているという嘘以外の嘘もあった。
屋敷で働く使用人達は魔法が扱えて、暴れるリラをなんとか抑えていると話していた。
今までの私が何もせず我慢していたからこそ、使用人達の嘘を貴族達が信じ優秀だと思われている。
それも全て知っているからこそ、私の暴走を止める気があるのか聞いておこう。
「十分だけ待ちます。無意味な説得をするか、戦う決意をするか逃げるのか――それは貴方達が決めなさい」
固まって動く気がないから、再び忠告する。
今の私ははじめて暴力的な行動をとっているから、何をするのか使用人達には想像できない。
屋敷を守るため魔法を使い私を抑えていると嘘をついていたけど、それを真実に変える気はないようだ。
「今まで申し訳ありませんでした! ここで逃げたら私達を雇う人はいません!!」
「それは貴方達ができもしないことを自慢げに話した末路でしょう。私には関係ないことです」
「ひぃっっ……!!」
二人だけ残っていた偉い立場の使用人が謝罪するけど、聞く気はなくて威圧する。
全てを諦めても生きたいようで、説得を諦めたのか慌てながら屋敷から逃げ去っていた。
◇◆◇
屋敷を消すと宣言してから十分が経ち、屋敷には私しかいなくなっている。
使用人達からすればどんな方法で屋敷を消し飛ばすのかわからないから、とにかく離れなければならない。
恐らく何人かはザロクに報告していそうだけど、ここまで予定通りだ。
屋敷の前に複数の馬車が到着し、一人の美青年が私の元へやって来る。
長身で黒く短い髪……ラグドラ商会の次期会頭ハロルドで、年齢は私と同じと話していた。
「ハロルド様、時間通りですね」
「早く来ないで欲しいと言われたらリラの決めた時間通りに来るさ。屋敷から逃げた連中には目撃されていない」
「自分が助かることに必死だから馬車なんて見ない気もしますが、ありがとうございます」
最初ハロルドは敬語で話してくれたけど、私の方からやめて欲しいと言えば合わせてくれる。
二年もの間準備を手伝ってくれた人で、今日は来てもらう必要があった。
「念のため確認しておく……屋敷の金品は全部回収し、浮気の証拠があれば後でリラに渡せばいいのか?」
「はい。証拠は用意できていますけど、備えは多い方がいいですからね」
ザロクが悪事を捏造するにあたって住んでいる屋敷の所有権が私にあるから、金品を売り払っても自由だ。
今までも十分利益になっているけど、勿体ないから潰す前に欲しい物は回収してもらおう。
ついでに浮気の証拠も探してもらうため、ハロルドが待機させていた商会の人達が屋敷内を調べていく。
数時間が経ち大量の金品を積んだ複数の馬車が撤収して、私の隣にはハロルドしかいない。
ハロルドは飛行魔法が使えるから問題なさそうだけど、この場にいることが理解できず尋ねる。
「あの、どうしてハロルド様は、私の隣にいるのでしょうか?」
「屋敷を平地にする力を見たいからに決まっている。邪魔ならどこまで離れたらいいか教えて欲しい」
「私の傍なら問題ありませんけど、変わっていますね」
そう言いながら、私は完全な龍化をはじめて試みる。
漫画では追い詰められ我を忘れてから使えたけど、姿を知っているからイメージすることで可能だと思っていた。
部分的な龍化だと意識した人の部分が龍の姿になるだけだけど、完全な龍化は違う。
人を数人乗せても問題ない大きさとなって、背中にハロルドを乗せて飛翔する。
距離をとってから、口から閃光を出すと強く意識すると――白銀に煌めいた閃光はブレスと呼ばれるみたいで、屋敷を包み込み消滅させていく。
屋敷だけを消したいと意識したからか、他に被害は出ていない。
崩壊せず平地と化した場所を眺めて、ハロルドが呟く。
「二年間のリラにした仕打ちを考えれば、離婚すればこれだけで済むのは温いぐらいだ」
『離婚するまでもっと酷い目に合わせるつもりですが、この惨状を見ればザロクも離婚するしかなくなるでしょう』
龍の状態だと声が出せないけど、魔力を使い意思を伝えることができる。
周囲を見渡すと……遠くから、屋敷の跡地に向かうザロクの馬車が見えた。
『ハロルド様、ザロクが屋敷に向かっています』
「わかった。飛行魔法を使い、見つかることなく去るとしよう」
私のして欲しいことを察してくれたようで、ハロルドが空を飛び離れてくれる。
着地して人の姿に戻ると、私の前に慌てた様子で夫ザロクがやって来た。
今の私は両眼を龍の眼に変えて――見た目はあまり変わっていないけど、龍の眼は威圧する力があった。
威圧して屋敷を消し飛ばすと宣言すれば、使用人達は態度を変える。
逃げ去る人達が半数だけど、残りの半数は私に向かって頭を下げてきた。
「今まで申し訳ありませんでした! 全てザロク様の命令です!!」
「精神的に弱らせれば何もしないと言われていました。屋敷を消すことはおやめください!」
私の発言を聞き、使用人達が本心を叫んでいく。
それなら私も、我慢した二年間について話すとしよう。
「貴方達は来客があった際に、龍化した私が屋敷で暴れていると話していましたよね」
「知っていたのですか!? そ、それもザロク様の命令で――」
「――貴方達の嘘を真実にすると言っているの。これからどうするかは貴方達が決めなさい」
嘘を真実にする。
それは、私が屋敷内だと暴れて迷惑しているという嘘以外の嘘もあった。
屋敷で働く使用人達は魔法が扱えて、暴れるリラをなんとか抑えていると話していた。
今までの私が何もせず我慢していたからこそ、使用人達の嘘を貴族達が信じ優秀だと思われている。
それも全て知っているからこそ、私の暴走を止める気があるのか聞いておこう。
「十分だけ待ちます。無意味な説得をするか、戦う決意をするか逃げるのか――それは貴方達が決めなさい」
固まって動く気がないから、再び忠告する。
今の私ははじめて暴力的な行動をとっているから、何をするのか使用人達には想像できない。
屋敷を守るため魔法を使い私を抑えていると嘘をついていたけど、それを真実に変える気はないようだ。
「今まで申し訳ありませんでした! ここで逃げたら私達を雇う人はいません!!」
「それは貴方達ができもしないことを自慢げに話した末路でしょう。私には関係ないことです」
「ひぃっっ……!!」
二人だけ残っていた偉い立場の使用人が謝罪するけど、聞く気はなくて威圧する。
全てを諦めても生きたいようで、説得を諦めたのか慌てながら屋敷から逃げ去っていた。
◇◆◇
屋敷を消すと宣言してから十分が経ち、屋敷には私しかいなくなっている。
使用人達からすればどんな方法で屋敷を消し飛ばすのかわからないから、とにかく離れなければならない。
恐らく何人かはザロクに報告していそうだけど、ここまで予定通りだ。
屋敷の前に複数の馬車が到着し、一人の美青年が私の元へやって来る。
長身で黒く短い髪……ラグドラ商会の次期会頭ハロルドで、年齢は私と同じと話していた。
「ハロルド様、時間通りですね」
「早く来ないで欲しいと言われたらリラの決めた時間通りに来るさ。屋敷から逃げた連中には目撃されていない」
「自分が助かることに必死だから馬車なんて見ない気もしますが、ありがとうございます」
最初ハロルドは敬語で話してくれたけど、私の方からやめて欲しいと言えば合わせてくれる。
二年もの間準備を手伝ってくれた人で、今日は来てもらう必要があった。
「念のため確認しておく……屋敷の金品は全部回収し、浮気の証拠があれば後でリラに渡せばいいのか?」
「はい。証拠は用意できていますけど、備えは多い方がいいですからね」
ザロクが悪事を捏造するにあたって住んでいる屋敷の所有権が私にあるから、金品を売り払っても自由だ。
今までも十分利益になっているけど、勿体ないから潰す前に欲しい物は回収してもらおう。
ついでに浮気の証拠も探してもらうため、ハロルドが待機させていた商会の人達が屋敷内を調べていく。
数時間が経ち大量の金品を積んだ複数の馬車が撤収して、私の隣にはハロルドしかいない。
ハロルドは飛行魔法が使えるから問題なさそうだけど、この場にいることが理解できず尋ねる。
「あの、どうしてハロルド様は、私の隣にいるのでしょうか?」
「屋敷を平地にする力を見たいからに決まっている。邪魔ならどこまで離れたらいいか教えて欲しい」
「私の傍なら問題ありませんけど、変わっていますね」
そう言いながら、私は完全な龍化をはじめて試みる。
漫画では追い詰められ我を忘れてから使えたけど、姿を知っているからイメージすることで可能だと思っていた。
部分的な龍化だと意識した人の部分が龍の姿になるだけだけど、完全な龍化は違う。
人を数人乗せても問題ない大きさとなって、背中にハロルドを乗せて飛翔する。
距離をとってから、口から閃光を出すと強く意識すると――白銀に煌めいた閃光はブレスと呼ばれるみたいで、屋敷を包み込み消滅させていく。
屋敷だけを消したいと意識したからか、他に被害は出ていない。
崩壊せず平地と化した場所を眺めて、ハロルドが呟く。
「二年間のリラにした仕打ちを考えれば、離婚すればこれだけで済むのは温いぐらいだ」
『離婚するまでもっと酷い目に合わせるつもりですが、この惨状を見ればザロクも離婚するしかなくなるでしょう』
龍の状態だと声が出せないけど、魔力を使い意思を伝えることができる。
周囲を見渡すと……遠くから、屋敷の跡地に向かうザロクの馬車が見えた。
『ハロルド様、ザロクが屋敷に向かっています』
「わかった。飛行魔法を使い、見つかることなく去るとしよう」
私のして欲しいことを察してくれたようで、ハロルドが空を飛び離れてくれる。
着地して人の姿に戻ると、私の前に慌てた様子で夫ザロクがやって来た。
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