私は執着していません

黒木 楓

文字の大きさ
上 下
6 / 12

6話

しおりを挟む
 私の作る魔石を取引している魔道具店に、カイン王子がよく来ているらしい。

 これを父が知っていれば会わせようとしただろうから、魔道具店に来ていることは誰も知らないのでしょう。

 来ている理由を推測し、私は確認しておきたくなっている。

「ヤガダさんとの会話を聞くに、カイン殿下は魔道具職人になりたいようですね」

「カイン殿下がここに来て1年になりますが、熱意があり魔道具職人として力をつけています。普通とは違う魔道具を作ろうとして、自前の魔石を使っていましたが失敗させて壊していました」

 そしてその魔石がギオウ経由で入手した私の作った魔石で、ヤガダは失敗作で壊すのは勿体ないと判断したらしい。

 他の魔道具職人は商品として作っているけど、カイン王子は普通とは違う魔道具を作っているようだ。

「色々と作りたい魔道具のアイデアがあるのだが、失敗ばかりだ。僕がいる理由は話したし、フィリアがここにきた理由を教えて欲しい」

「そういえばそうでしたね。領主様からは、フィリア様が用意した魔石がどんな風に使われているか知るために来たと聞いています」

 それは父に伝えていたことで、私の目的は他にある。

「確かに魔石の使い道は気になっていましたが、私の持つ岩神の加護を応用できないか試しに来ました」

「応用ですか?」

「はい。今まで魔石を数個作れる程度の力でしたが、他にも様々なことができるのではないかと推測しています。壊れた魔石はありますか?」

「それなら、僕が壊してしまったフィリアの魔石が幾つかある」

 そう言ってカインが部屋の端に置いていたカバンを持ち、中から砕けている数種類の魔石がテーブルに並ぶ。

 魔道具を作ろうとして失敗したことで、砕けてしまった魔石のようだ。

 壊れた魔石は力を発揮できなくなってしまい、眺めているヤガダが落胆して。

「これが全てフィリア様の作った魔石だったなんて……知っていれば、絶対に止めていました」

「確かに見覚えがあります。幾つかお借りしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「構わない。僕としてもフィリアの行動に興味がある」

 頷いてくれたカインを眺めて、許可を得た私は幾つもの魔石を両手で拾い上げる。

 壊れた魔石は効力を失った石となるから、普通は処分するらしい。

 残っていたことに安堵して魔力を籠めると、予想通りただの石が元の魔石に戻っていく。

「……やっぱり、無から魔石を作るより、元々魔石だった石を魔石とした方が消費魔力は少ないようです」

 私が試したかったのは岩神の加護による魔石の再生で、試したかったけど魔石だった石がなかった。

 魔道具店ならありそうで来てみたのは正解だったけど、ヤガダとカイン王子が唖然としている。

 私は思いつきで行動しただけなのに、魔道具職人からすればとんでもないことをしたようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を「ウザイ」と言った婚約者。ならば、婚約破棄しましょう。

夢草 蝶
恋愛
 子爵令嬢のエレインにはライという婚約者がいる。  しかし、ライからは疎んじられ、その取り巻きの少女たちからは嫌がらせを受ける日々。  心がすり減っていくエレインは、ある日思った。  ──もう、いいのではないでしょうか。  とうとう限界を迎えたエレインは、とある決心をする。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

【完結】婚約破棄?ってなんですの?

紫宛
恋愛
「相も変わらず、華やかさがないな」 と言われ、婚約破棄を宣言されました。 ですが……? 貴方様は、どちら様ですの? 私は、辺境伯様の元に嫁ぎますの。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

貴方は何も知らない

富士山のぼり
恋愛
「アイラ、君との婚約は破棄させて欲しい。」 「破棄、ですか?」 「ああ。君も薄々気が付いていただろう。私に君以外の愛する女性が居るという事に。」 「はい。」 「そんな気持ちのまま君と偽りの関係を続けていく事に耐えられないんだ。」 「偽り……?」

【完結】婚約破棄した王子と男爵令嬢のその後……は幸せ?……な訳ない!

たろ
恋愛
「エリザベス、君との婚約を破棄する」 「どうしてそんな事を言うのですか?わたしが何をしたと言うのでしょう」 「君は僕の愛するイライザに対して嫌がらせをしただろう、そんな意地の悪い君のことは愛せないし結婚など出来ない」 「……愛せない……わかりました。殿下……の言葉を……受け入れます」 なんで君がそんな悲しそうな顔をするんだ? この話は婚約破棄をして、父親である陛下に嘘で固めて公爵令嬢のエリザベスを貶めたと怒られて 「そんなにその男爵令嬢が好きなら王族をやめて男爵に婿に行け」と言われ、廃嫡される王子のその後のお話です。 頭脳明晰、眉目秀麗、みんなが振り向くかっこいい殿下……なのにエリザベスの前では残念な男。 ★軽い感じのお話です そして、殿下がひたすら残念です 広ーい気持ちで読んでいただけたらと思います

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

王太子殿下が欲しいのなら、どうぞどうぞ。

基本二度寝
恋愛
貴族が集まる舞踏会。 王太子の側に侍る妹。 あの子、何をしでかすのかしら。

処理中です...