私は執着していません

黒木 楓

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2話

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 魔法が使える人は少ないけど、魔道具と呼ばれる物が存在するから、魔法は身近なモノだ。

 魔道具を使えば魔石を経由して人の体内に宿る魔力が使え、魔法と同じことができる。

 岩神の加護を授かった私は魔石を数個だけ毎日作れるけど、他の人に比べて加護の力が弱いせいで蔑まれていた。

 水神の加護は雨を自由に降らせるし、火神の加護は危険な魔物を簡単に倒すことができる。

 私が作り出せる魔石は小さくて性能も他の魔石と変わらないから、他の加護持ちと比較されて蔑まれるのは当然だった。

 少し伸ばしていた金髪が加護を授かった時に茶髪となり、鑑定魔法を受け岩神の加護を僅かったことが判明する。

 私のガドアース家は稀に魔法使いが産まれる家系で、加護を授かる可能性はあったようだ。

 最初は家族も喜んでくれたけど、期待外れで魔法が使えた方がマシだったと言われてしまう。

 学園でも加護持ちなのに功績を出せない無能扱いされていた中で、公爵令息のギオウだけは魔石に興味を持ってくれた。

 そして魔石の取引をするようになり、親同士が婚約を決める。

 あの時が一番幸せで……それからすぐ、ギオウの本性を知ってしまう。

 侍女達と浮気をしている上にギオウは公爵令嬢のアニスと婚約するから、もう関係が終わることが嬉しくもあった。

 それなのに――婚約破棄が決まってから数日が経ち、私は学園に登校すると教室で異変を知る。

 周囲の蔑む視線はいつものことだけど、数人の生徒がギオウを励ましていたからだ。

「フィリア様に執着されているみたいですね。どうなされるおつもりですか?」

「俺はフィリアのことはどうでもいいが、何をされるかわかったものではない。傍に置くしかないかもしれないな」

「それはフィリア様も妻にするということですか? アニス様が納得しないでしょう」

 クラスの生徒達とギオウの会話が聞こえるけど、まず私が愛人になることを納得していない。

 どうして数多の女性と浮気をしているギオウに、私が執着していると思われているの?

 重婚は認められているから話を聞く生徒達はそこまで驚いていないようで、ギオウの懐が広いと思い込んでいるようだ。

 本性を隠しながら、ギオウは隣の席に座る私を眺めて溜息を吐く。

「アニスは渋々納得してくれた。クラスメイトということもあり、仕方なくという感じだな」

「ギオウの仰る通りです。フィリアは立場を理解しそうですし、執着があるというのなら愛人にしておきましょう」

 いつの間にかギオウの席に来ていた短い銀髪で凜とした女性のアニスが、私を憐れむように眺めてくる。

 公爵家同士だからか、ギオウとアニスはお互いが呼び捨ての仲だ。

 どうやら別れる直前に聞いた「愛人関係を受け入れるしかない状況にする」というのは、私に執着があると思わせたいらしい。

 執着しているのは元婚約者ギオウの方で、私は現状が許せない。

 それでもこの場で「私に執着はありません」と言っても、誰も信じないでしょう。

 それなら……誰がどう見ても、執着していないと知ってもらうため準備する必要がある。

 侮っているから愛人になると確信しているギオウを、私は後悔させたかった。
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