私は執着していません

黒木 楓

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「お前は俺と婚約しているが、親が決めたことだから渋々だ」

 伯爵令嬢の私フィリア・ガドアースは、婚約者で公爵令息のギオウ・デュドラから蔑まれていた。

 長身で短い赤髪の美青年ギオウは、私の目の前で長い黒髪の女性と……デュドラ公爵家の侍女とキスをして、浮気を見せつけてくる。

 時間が昼だからまだマシな方で、夜になるとギオウは侍女と愛し合う。

 浮気をしている人は複数いて、婚約者の私は浮気を受け入れるよう命令されていた。

 これが半年も続き、私は立場の差から従うしかない。

「わかっています。あの、私に見せつける意味はあるのですか?」

「婚約者が浮気に関して寛容と知ってもらうためだ。それに、見られている方が高揚する子が多い」

 特に高揚しているのはギオウ様でしょうとは、言いたくなったけど止めた。

 婚約者のギオウは婚約が決まったばかりの頃は優しく、私の親も公爵家との婚約に喜んでいた。

 その時は嬉しかったのに、ギオウはすぐ本性を出してくる。

 権力や財力で綺麗な侍女達を愛人にして、それを受け入れる貴族令嬢の婚約者が欲しかっただけ。

 屋敷の部屋に呼び出されては浮気を見せつけられる現状が嫌だけど、耐えるしかない。

「辛そうな顔だが、お前は俺から離れることはできない。岩神の加護を授かったというのに、僅かな魔石しか作れないのだからな」 

「……わかっています」

 別れることができない理由を話すギオウは嬉しそうで、実際に彼の言う通りだ。

 加護を授かった人は大成するというのに、岩神の加護を授かった私は毎日数個の魔石が作れるだけだった。

 1年前に発覚した後は成果が出せず学園で憐れまれている中、クラスメイトのギオウは優しく接してくれる。

 それが嬉しくて婚約を受け入れたのに、実際はこうして浮気しても問題ない婚約者が欲しかっただけ。

 ギオウは本性を晒した後は「親が決めたから嫌だけど婚約しただけ」と学園で言い広め、私を蔑んでいる。

 学園の評判が悪いから、ギオウは私のことを好きではないと思わせたかったようだ。

 婚約から本性を見せて半年が経ち、婚約者の暴言に耐える日々を送っている。

「そしてこれから、俺はお前を捨てる。アニスと婚約するためだ」

 今後の人生が嫌になっていると、私達の関係が終わろうとしていた。

「……アニス様は、これを受け入れるというのですか?」

 クラスメイトで公爵令嬢のアニスと婚約すると聞き、ショックより先に疑問が口から出る。

 浮気を見せつける趣味のギオウが、他の人と婚約できるのだろうか?

「浮気については渋々納得したのが気になってな、アニスを抑える貴族令嬢はいて欲しい。そこで、お前は俺の愛人にしてやろう」

「……婚約破棄するのなら、その時点で関係は終わりです」

 ふざけた提案に憤るけど、立場が下だから冷静に拒絶する。

 学園で蔑まれている日々を送っているからといって、そこまでしたくはない。

 そもそも侍女と浮気をして公爵令嬢が嫉妬することを恐れ、抑えるため伯爵令嬢を愛人にするのが異常だ。 

 目の前の男は、欲望のままに生き過ぎでしょう。

 流石に無茶苦茶な提案と自覚しているのか、拒絶に対してギオウは驚かず肩をすくめた。

「受け入れてくれないようだが、 それなら受け入れるしかない状況にすればいいだけだ」

 発言の意味がわからず、その後は円滑に婚約破棄が決まる。

 そして学園では、なぜか「フィリアはギオウに執着がある」と噂になっていた。
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