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9話

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 私が追放を受けた国……モルドーラ国の人々は、私のことはどうでもよさそうにしていた。

 隣に居る先輩聖女のサリナと比べて、サリナが居るから不要だと言われ続けている。

 そしてサリナに命令されたから、私は本来の姿を見せずに、本来の力も使おうとはしていなかった。

 本来の力を使わなかったのは、使わなくても大丈夫だったから……それでも、見た目に関しては違う。

 もし本来の姿を見せてもサリナの方がいいと言われる可能性があって、それは本当に嫌だった。

 比べられてしまうぐらいなら――この地味な見た目のままでいい。

 モルドーラ国を出てもその考えは変わらなかったのに……目の前のゼスタは、私を美しいと言ってくれた。
 
 それがとてつもなく嬉しくて、私は顔が赤くなっているのを自覚しながら。

「そ、そうですか……」

「急に髪に触れたのは本当に悪いと思っているが、これだけは伝えたかった……俺に償えることなら何でもしよう!」

 それなら……ずっと私の傍に居て欲しい。

 流石に口にすることはできなかったけど――真っ先にそんな考えが出た私自身に驚くしかなくて、更に顔が赤くなってしまうと。

「わ、悪かった。流石に強引過ぎたな……」

 どうやら私が辱めを受けたと思っているようだから、そこは否定しておきたい。

「いえ。急だったから驚いただけ……そこまで気にしなくてもいいですよ」

「そ、そうか……シーファよ。これからどうするつもりだ?」

 動揺して話を変えたいのか、ゼスタはそう尋ねているけど……これからどうするかは特に何も考えていない。

「モルドーラ国から出ましたし、どこかに移住できればいいと思っています」

 そう言うと、ゼスタは目を輝かせながら。

「それなら……この国の聖女にならないか? この国は聖女が居ないから神龍に狙われいる……もし聖女の立場が嫌でないのなら、力を貸して欲しい」

「……えっ?」

 この国は聖女が居ないから……私が聖女になる?

 今までのことを思い返すと、流石に聖女にはなりたくはない。

 ゼスタは私の見た目を美しいと言ってくれたけど、この国の人は私を地味な聖女だと思いそう。

 本来の姿に戻ればいいけれど、一歩踏み出せないでいる。

 この国とゼスタには悪いけど、断ろうと考えていた時――

「もしシーファが聖女になってくれるのなら、俺が護衛として傍で守れる。前衛の盾は欲しいと思わないか?」

「なります」

 ――もう聖女になりたくないという考えは、ゼスタの提案でどうでもよくなってしまう。

 ゼスタが傍に居てくれるのなら、聖女になる。

 そうしたいと一瞬で思ってしまったのなら、私の気持ちを信じよう。

「ほ、本当か!?」

「はい。私はこの国の聖女になります!」

 ゼスタが傍に居てくれる。

 それだけで……私は再び聖女になろうと、決意することができていた。
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