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3話

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 どうやらサリナは、自分が婚約者になることが決まっていたから、私を2人目の聖女にしたと思い込んでいるらしい。

 今まではサリナが命令してきたことは何度もあるけど、2年間こうして話をしたことは一度もなかった。

 どうせ最後になるのだからと、私はこの国の危機について話す。

「……サリナ。貴方も聖女なら、この国に何かが起こる予兆を察知したのではありませんか?」

「予兆を察知? 確かに時々察知するけど、全部私1人で解決できる程度の問題よ」

 違う……どうやらサリナの聖魔力では、そこまでの認識でしかないようだ。

 そしてサリナの発言を陛下が聞いて納得し、2人も聖女は要らないと考えたのでしょう。

 私が地味な聖女と周囲から呼ばれ、私の発言力がサリナよりも低かったせいで、陛下は私の発言を何一つ聞いていない。

 これは陛下や王子達、城に来る貴族達が私よりサリナが優秀だと思ったからだけど、誰も調べようとしないのだろうか?

 私は自分から行動して裏目に出たことが何度もあるから、自分からは行動しないと決めている。

 それでも……もうこの国を追放された身としては、これから起こる可能性を目の前のサリナに話しておく。

「モルドール国を中心とした周囲の国での天変地異、モンスターの活性化等、様々な異常現象が起きています」

「そうね。全部冒険者達や騎士隊、私1人で解決できる程度の異常現象よ」

「これから規模が大きくなるとは考えないのですか? さっきの陛下の反応を見て、何か隠していることがあると思わないのですか?」

 私は何かを隠していると確信していて、そのことをサリナに言っておく。

 それでも――サリナは私を見下しながら、醜悪な笑みを浮かべて。

「はいはい……全てこの場に残りたいだけの妄言ね。地味な上に行動まで醜いだなんて、憐れみを覚えるしかないわ」

 どうやら本気で言っているようで……ここまで愚かなことに驚いてしまう。

 もう会うこともないし流石に苛立ってしまった私は、サリナと最後の会話をする。

「私がこの見た目を止めて本来の姿になり、本来の力で活躍すればサリナが追い出されますものね」

「……っっ!? はぁっ!?」

 図星を突かれたことでサリナが動揺するけど、私は続ける。

「貴方がここに来たのも挨拶が理由じゃない……追い出された私が、この髪を切って本来の姿になることを恐れたから、貴方は私がこの見た目で国から出て行かないと安心できない小心者なのよ」

「だっ、黙って!」

 激高したサリナが叫び、聖魔力を右手に籠めて力強く握りしめ、私を殴ろうとする。

 私は聖魔力を籠めた顔でサリナの拳を受け止めると……まるで鋼鉄でも殴ったかのように、サリナは反動で仰け反り、右手を痙攣させながら激痛で床に転がって。

「痛たっ!? 痛いぃっっっ!? ど、どういう、どういうことよ!?」

「私と貴方では力の、魔力の差ががあり過ぎるんですよ……回復魔法で治しましょうか?」

 どうやらサリナは激痛を治すために回復魔法を使っているけど、あまりにも回復速度が遅すぎる。

 私の提案と意図に、私の方が強い回復魔法が使えると言われたことに気付いたサリナが、顔を真っ赤にして涙目で立ち上がり。

「くぅっっ……じ、自分で治すわよ!? さっ、さっさとここから出ていってよ!!」

 魔力の差を理解したサリナが叫ぶけど、私はそのつもりだ。

 ……さっきの説明をして、私の方が遥かに強いことを見せつければ、心変わりするかもと考えていた。

 結局、サリナは見下している私の言うことを聞く気がない。

「わかりました……さようなら」

 そう言って、私は自分の元部屋から出て行き、城を後にする。

 これからどんなことがモルドーラ国に起きたとしても、この国の聖女サリナがなんとかするでしょう。
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