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2章

72話

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 その後、数日が経ち――魔法披露会の準備は万全になっていた。
 私達は今までアクシデントの対処をしていたけど、捕えたロウデス教団員らしき人は記憶を失っている。

 ダドリックが怪しいと思いつつも、証拠が出ていないから無関係となっていた。
 そして遂に今日の夜は前夜祭で――ゲームはこの前夜祭の一日、魔法披露会の三日間を終えたらエンディングに突入する。

 前夜祭は貴族と招待された人だけが参加できて、カレンは平民だけどロイから招待を受けていた。
 ゲームだとレックス殿下が招待していたけど、婚約者がいるのに異性を招待したくないからと、ロイが招待したようだ。

 この日の出来事は私でも強く覚えていて、不安になり全身を震わせる。
 悪役令嬢リリアンが悪事を暴露されて、破滅する時だ。
 私はレックス殿下と、二人で魔法道具の異変がないか確認を行い、歩きながら話す。

「レックス殿下。もし私がロウデス教に操られたら、迷わず剣で倒してください」

「物凄く物騒な発言だな!? いったいどうした!?」

 動揺させてしまったけど、冗談で言っていない。
 ゲームだと破滅するからなんていえないから、考えておいた理由を話す。

「ダドリックが怪しいと思っていましたけど……今までアクシデントを対処していたのは、主に私やレックス殿下です」

「それで、どうしてロウデス教に操られることになる?」

「アクシデントの発生源は主に私達がいる校舎なので……私を操り、全て私が行ったと嘘の報告をさせる可能性があります」

「リリアンは気にしすぎだ。もしそうなった場合、俺が無実だと証言すればいい」

 レックス殿下は婚約者だから、証言しても信じてくれないかもしれない。
 それでも気遣いが嬉しく、私はお礼を言う。
 
「レックス殿下、ありがとうございます」

「魔法披露会を楽しみたいとリリアンは言っていた。それなら、夜にある前夜祭も楽しもうではないか!」
 
 本来ゲームなら、今日は刺客が襲いかかりカレンが対処する。
 ゲームなら主役カレンに迫る刺客を対処して、その正体が自棄になったリリアンだと判明する。

 懲りずに翌日の前夜祭でも暗殺を目論むも失敗して、悪事が全て発覚していた。
 国外追放を言い渡されて破滅して、その後は邪神復活のために利用される。
 それでも一命はとりとめたようで、国外追放されるのが悪役令嬢リリアンの末路だ。

 そして――私の目の前に、ナイフを持った少年が迫る。

「――リリアン!?」

 レックス殿下が前に出てくれるけど、それより先に私は杖を振るう。
 加減した暴風の魔法によってナイフを落し、男子生徒は吹き飛び倒れる。

 私は今まで警戒していたから、不意打ちでも問題なく対処できていた。
 捕縛して先生を呼び、私達は襲いかかってきた人の詳細を知る。
 この男子生徒は二年生……子爵家の人らしく、記憶がないと魔法道具で操られていた。 
 記憶が消えているけどロウデス教団員とは無関係で……恐らく、前夜祭で浮かれている隙を狙い操ったはず。

「これで……大丈夫でしょうか?」

 本来悪役令嬢リリアンの役目を、名前も知らない生徒が操られて前夜祭の前に行っている。
 ゲームとは違うと考えていたけど……それは、夜にならないとわからなかった。

   ◇◆◇

 夜になって――遂に、魔法披露会の前夜祭がはじまる。
 豪華な食事が並び、皆は明日の出し物やクラス代表が披露する魔法について話していた。

「遂に――この時が来ましたか」
 
 パーティドレスを身に纏い、私は呟く。
 私は隣でエスコートしてくれるレックス殿下が、困惑しながら話す。

「楽しみにしていると思ったが、リリアンは不安そうだな」

「今日の出来事を思い出しまして……何か起こるのではないかと、不安になってしまいます」

 レックス殿下には今日の出来事を理由にするけど、別の理由がある。
 この日のことは、ゲームの知識が曖昧な私でも覚えていた。

 ――悪役令嬢リリアンが、全ての罪を暴露されて絶望する日。
 誰かが罪を捏造して、私を追い詰めてくるかもしれない。
 何かあるのではないかと警戒して、私は最悪の事態を想像する。
 もしかしたら……レックス殿下の態度が、急変するかもしれない。
 どんな出来事でも対処する気でいたけど、私は不安になってしまう。

「あまりにもアクシデントが多かったからな……それでも、皆がいるから問題はないだろう」

「そう、ですね」

「この場にはダドリックもいないし、俺なら誰が相手でも問題なく対処できる」

 一学期の時点ではレックス殿下と互角の強さだったから、ダドリックを警戒していたようだ。

「今ならレックス殿下の方が、強いと思いますけど……魔力は、ダドリックの方が上ですね」

「ダドリックは一度リリアンを追い詰めているからな。観察者がいるとしても、何かしらの抜け道があると思うしかない」

 今までの言動から、レックス殿下はダドリックを怪しんでいた。

   ◇◆◇
 
 その後――前夜祭は何も起こらず、私は心の底から安堵していた。 
 私達は屋敷に戻ることとなっていて、流石にここから何か起きるとは思えない。

 レックス殿下の言う通り……ダドリックが関与できないから、この場では何も起きなかったのだろうか?
 とにかく今日を乗り切れたのは大きくて、私は馬車に乗る前に、レックス殿下に笑顔を浮かべる。

「明日からの三日間を、楽しみましょう」

「ああ。リリアンは何も気にせず、明日からの学祭を楽しめばいい!!」

 レックス殿下はいつも通りで――私は嬉しくなっている。
 婚約破棄を受けるパーティを乗り越えたことで、私はレックス殿下が好きだと強く想えるようになっていた。 
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