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2章

57話

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 ルートの剣が人を操る魔道具に変わっていると、私は今日まで気付けなかった。

 あの剣は以前の剣と見た目が同じだけど……性能が違いすぎる。
 魔獣が現れた時やダンジョン探索でルートがあまり動かなかったのは、剣を見られたくなかったからに違いない。
 
 倒したり剣を破壊した場合、その瞬間魔道具は最後の力を使う。
 それによって……ルートの精神が壊れ、私達を精神的に追い詰めようとしていた。

 友人を手にかけたくないレックス殿下は躊躇して、ルートには迷いがない。
 そのせいで、レックス殿下が追い詰められていく。
 この状況を、打破する方法を――私は、レックス殿下に魔力で伝えた。

『ルート様の動きを止めてください』

「わかった!」

 レックス殿下は即断してくれたけど……問題は、今のルートを止めることができるかどうかだ。
 魔道具の力で強くなっているルートより、レックス殿下の方が僅かに強い。
 殺意を込めて全力で向かってくる相手の動きを、止めることができるだろうか?

 そう考えてしまった時――レックス殿下の行動に、私は驚くこととなる。

「――っっ!?」

 レックス殿下が剣を捨てて、ルートの正面に立つ。

「レックス君!? 無茶だ!!」
 
 その行動にルートが困惑して、ロイも叫ぶ。
 固まったルートはすぐさま思考を切り替えたのか、レックス殿下に対して剣を振り下ろす。
 剣の速度が明らかに遅くなっているのは、剣を振り落とす力を必死に弱めているからだ。

「ルート様の魂が、必死にレックス殿下を斬らないよう抵抗しています!」

 カレンが叫ぶけど、レックス殿下はここまで考えていたのだろうか。
 今のレックス殿下は無防備で、ルートの魂が魔道具の力に抗って止まろうとしている。
 きっとルートが操られている状況を打破したくて、本能で制御しようとしているに違いない。
 レックス殿下がそこまで考えているのかわからなかったけど――次の行動で、私は理解する。

「斬り合いの最中、何度か躊躇っていたからな……これで動きを止める!」

 ルートの剣による一閃を、レックス殿下は両手で受け止めていた。
 ――白羽取り。
 今のルートを動かしているのは、洗脳の力を持つ魔道具の剣だ。

 魔法具の剣をルートが手放すことはできず、離さないよう抵抗している。
 レックス殿下の力は魔道具で強化されているルートと同じぐらいで、お互い動けなくなっていた。
 その姿に応えるため――私は膨大な回復魔法の光を杖に纏わせ、ルートの剣に当てることで直接流す。

「これで魔道具に直接聖魔力を流せば――ルート様を元に戻せます!」

 ――剣の魔法具を無力化すれば、この問題は解決する。
 
 レックス殿下無防備になってルートに迫り、動揺させながらも斬りかかり、それを白羽取りで止めた。
 もし斬られていたとしても、私の回復魔法があるから大丈夫だとでも思ったのだろうか。
 そんなことを考えてしまうと、呻き声が聞こえる。

「ぐっ……私はもう、生きてはいけない……」

 苦し気な、生きることを諦めた声を、ルートが漏らしている。
 自責の念に駆られて、命を絶とうと思っていそうだ。

 闇の魔力がルートの体内を巡っているから、その力を使えば自決できる。
 今までは意志で抗っていたのに自決を考える辺り――魔道具の力によるものだ。
 この状況だと、私はもう声をかけることしかできない。

「ルート様――そこまで自分を卑下しないでください。私達には、貴方が必要です!」

「リリアンの言う通りだ! お前は十分に強い!」

 私とレックス殿下の言葉を聞いて――聖魔力の力によって、剣が砕けていく。
 ルートは膝をついて倒れて、私達は近づく。
 そして――正気を取り戻したルートは、私を眺めて呟く。

「私達。ですか……私とは、言ってくれないのですね」

「えっ?」

「いえ、忘れてください……私も、この想いは大切に秘めておきます」

 その発言が気になったけど、ルートは元に戻っている。
 私達は安堵して、ルートから何が起こっていたのかを聞くことにしていた。
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