上 下
70 / 109
2章

51話

しおりを挟む
 あれから一週間が経ち、一度目のダンジョン探索は問題なく終わっていた。
 
 今日昼休みの後は、二度目のダンジョン探索の校外授業に向かうこととなる。
 私達は集まって先週のダンジョン探索を思い返すけど、危険な目には一切合っていなかった。

「今日、そして来週のダンジョン探索を終えれば、再来週には中間試験か」

「その後は魔法披露会の準備をするから、ダンジョン探索は三学期までないみたいだね」

 ロイの言うとおり、ゲームでダンジョンに潜るのは今日を入れて後三回だ。
 恋愛ゲームだからか、ダンジョンに関してもトラブルが発生するまで数行の説明だけで終わっている。

 気になっているのは、ゲームでのイベントがあまり起きていない点だ。
 本来なら主役カレンと攻略キャラの恋愛イベントだから、何も起きていないというのはわかる。
 私は魔法に夢中となってて毎日楽しく、カレンもゲームと違う日常を楽しめているようだ。
 それでもここまでゲーム通りならないことに違和感があるけど、私の行動によるものなのかもしれない。

「リリアンとしては、簡単すぎて物足りなさそうだな」

「そ、そうですね……」

「もう先生は最深部に行けそうだと言っていました。最深部に行くのもよさそうです」

 レックス殿下の発言に動揺していると、カレンが提案する。
 夏休みを経て遙かに強くなった私達を見て、先生はダンジョン探索は自由にして欲しいと言われている。
 時間通り戻ってくれば最深部に行っても大丈夫と言われたほどで、先週も行こうと思えば行けたはずだ。

「そ、それは……そうだね」

 ロイが複雑そうに頷いたのは、先週のルートがあまり動けていなかったからだ。
 先週はレックス殿下とルートが前に出て前衛を務め、私、ロイ、カレンは後衛で魔法を使う。
 中間試験の試験の地下五階に向かってすぐ戻ったけど、自信がついたことでロイも戦えている。
 ルートだけが動きが鈍くて反省している様子だったけど、最深部に行くとなれば更に思い詰めそうだ。

「……どうやらラギル様は元冒険者ということもあり、前衛でも問題なく戦えるようです」

 今まで喋らなかったルートがそんなことを言い出すけど、情報収集をしていたのだろうか。
 何も気にしていなさそうなことに、私は安堵している。

「一人で戦ってきただけはあるな……ラギルのチームは、試験でも余裕だろう」

 レックス殿下が話すと、ルートが頷く。

「どうやら平民ということもあり、ラギル様はあまりよく思われていないようです……私をダンジョン探索のグループから抜いて、ラギル様を入れるのはどうでしょうか?」

「えっ!?」

 ルートの提案に、私は想わず声を漏らす。
 それは先週から考えていたことで、どう言い出すか悩んでいたけど……ルート本人が提案したことに驚いてしまう。

「ラギル様と一緒にダンジョンを探索した生徒達から話を聞いていたのですが、リリアン様のグループに入るべきだと考えている様子です」
 
 それは平民と関わりたくないからで、カレンが私達のグループにいるからだ。
 護衛のルートがダンジョン探索のグループから外れると言ったことに、レックス殿下が驚きながら尋ねる。

「ルートよ。お前はそれでいいのか?」

「はい。護衛としてレックス殿下を守るため最善を尽くすのなら、ラギル様をグループに入れるのが最善でしょう。その間に、私は力をつけてきます」

 やる気に満ちた声で、ルートが話す。
 今まで気落ちしていた様子だけど、今はテンションが高そうだ。
 その様子に驚いているのはカレンで、何かあるのだろうか?

「えっと……ルート様、力をつけると言いましたけど何かしているのですか?」 

「はい。休日には滝行も行いました。お陰で精神が安定してきていると自負しています!」

「滝行……ですか」

「そ、そうか」

 ルートの発言を聞き、カレンとレックス殿下は唖然としていた。
 私も滝行という予想してなかった発言……それなのに聞いたことがある発言に驚いてしまう。

 これは確か、ゲームでルートが二学期に言ったことだった気がする。

「剣の鍛錬も私に相応しいものを選び、独自に様々なやり方を試しています」

「そ、それは、どうなんだろうな」

 ルートの発言を聞いて、レックス殿下が唖然としていた。
 二学期のルートは好感度が高いと、レックス殿下がいるのに主役カレンが好きだからと迷走する。
 まさか……ルートと恋愛関係にならないけど、ゲーム通り迷走するとは思わなかった。
 結果的にこれでかなり強くなっていた辺り、ルートは思い込みがそのまま強さに反映されるらしい。

 レックス殿下の護衛なのに、主が好きな主役カレンを異性として意識する。
 ゲームをしていても強引なイベントばかりだと思っていたけど、今はこうなってしまうのか。

「今の私はレックス殿下の護衛に相応しくありません……ダンジョンで他者を先導し、自信をつけてきます」

 確かにルートは真面目な性格で、自信をつけるとそれが強さになっていく。
 ダンジョン探索で別グループになるのはゲームでもなかったけど、これならもっと強くなるかもしれない。

「わかった。だが、ラギルが俺達のグループに入ってくれるかだがな」

「それはエドガー君に仲良くするよう言われてるはうだし、問題ないと思うよ」

 ロイの言うとおりで、ルートが話すとラギルはすぐ私達の元にやって来ていた。
 ラギルは私達を眺めてから、おずおずと話してくれる。

「レックス殿下のグループが四人になるので、ぼくが入るべきだと言われましたけど……恐れ多いです」

「今日は最深部に向かうつもりだ」

「最深部ですか! 行ってみたいと思っていました!」

 最初は複雑そうな表情を建前か浮かべていたけど、レックス殿下の発言でラギルは目を輝かせている。
 ダンジョン探索のグループはルートが抜けて、ラギルが入ることとなっていた。

 これで私とカレンは、ラギルがダンジョン内で魔道具を使わないか近くで警戒できる。
 それでも……ルートがカレンを好きでもないのに、ゲーム通り迷走しつつあるのが気になっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。が、その結果こうして幸せになれたのかもしれない。

四季
恋愛
王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。

我慢するだけの日々はもう終わりにします

風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。 学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。 そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。 ※本編完結しましたが、番外編を更新中です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。