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 料理の材料を購入して、帰宅に帰ってすぐのことだった。  

 大学1年生になってから半年――ようやく大学生活にも慣れてきた私、柏木かしわぎあかねは、信じられない光景を目にしている。

 様々な銅像が見える立派な小部屋のような場所に移動している……私は部屋で、手提げカバンを下ろそうとした直前だった。

 ちゃんと食材……切らしていた小麦粉や野菜類は無事だけど、無事だからこそ奇妙でしかない。

 夢だとしか思えないのに、五感から夢とは思えないでいると、私の耳に男性2人の声が入ってきた。

「本当に異世界の住人が現れるだなんて……それも3人も!」

「すっ、すぐに報告して来ます!」

 2人の男性は武装している兵士のような人だけど、剣とか鎧とか、装備している人を見るのは初めてだ。

 それよりも……人が3人も現れた?

 何がなんだか解らないでいると、私の隣から声が聞こえてくる。

 2人の制服を着ている女子高生は、1人は楽しそうに、もう1人は私を目にして驚いていた。

美雪みゆき! 異世界に行く儀式は大成功ね!」

「そうだね真美香まみかちゃん……えっと、でも……なんでもない」

 短い黒髪と大きい髪留めが目立つ、小柄で活発そうな真美香ちゃんと呼ばれた少女は、飛び跳ねながら楽しそうにしている。

 彼女を私は知っている……1人暮らしをしている女子高生のお隣さんで、確か美雪と呼ばれた子は彼女の友達だ。

 この2人は異世界に行く儀式と言ったけど、何が起きているのだろうか?

 そう考えていると――2人の男性の1人は私達を見張っているようで、もう1人が2人を連れて戻ってくる。

 見るからに偉そうな初老の青年と、ぐるぐると渦巻いている変な眼鏡をかけた金髪で耳が尖っている青年で、顔立ちと雰囲気から眼鏡が微妙でも美青年に違いないでしょう。

「ねぇ見てよミユキ! あれが宰相ってのでもう1人がエルフよ! きっとそうよ!」

「そ、そうだね……これからどうなるのかが大事だよ」

 どうやらマミカとミユキは、少なくともマミカは、この状況を理解できているようだ。

「ふむ……貴方達は、伝承の異世界に住まう住人ですか?」

 マミカが指を指して宰相呼ばれていた人が、私達に尋ねてくる。

 ここは年長の私が最初に言うべきで、詳しいことはマミカに説明させようと考えていると、マミカが前に出て。

「そうよ! このアタシと、この子、ミユキは異世界転移の儀式をすることでやって来たのよ!」

 そう言ってマミカがミユキの肩を持って宣言するけど、最近の女子高生は信じられないことをするわね。

 どうやらこれはマミカとミユキ、私の隣の部屋に住んでいた住人が計画的に行ったようだ。

 そうなると……私は巻き込まれた!?

 エルフだと言われた細身ながらスタイルのいい青年が、眼鏡をあげることで光らせながら私を見て。

「それでは……彼女は?」

「さあ? 知らないわ」

「ええっ……」

 私とミユキが唖然とした声を漏らしたかと思えば、ミユキはマミカに肩を叩かれて「なんでもないです」と付け足している、

 マミカは隣の住人の私を本当に認識していない可能性もあるけど、ミユキの反応的に私と関わりたくなさそうにしているわね。

 私はエルフの青年に対して、頭を下げながら。

「私はアカネと言います」

 私の自己紹介に対して、宰相と呼ばれた人は「ふん」とどうでもよさそうに言ってから。

「アカネか。まあよい……それで、彼女達のスキルは、本当に伝承通りなのか?」

 宰相が期待したように尋ねるけど、スキルってなに?

 普通に考えれば特殊な能力だと思うけど……尋ねられたエルフの人が、眼鏡を何度も指で叩いて。

「鑑定できました……マミカ様は「賢者」のスキルを、ミユキ様は「聖女」のスキルを宿しています」

「やった! やっぱり儀式の説明通りだったでしょ! 転位する時に強く願ったことがスキルになるのよ!」

「う、うん……」

 マミカは歓喜しているけれど、ミユキは説明を信じられなかったのか安堵している。

 そして――どうしてマミカが、巻き込んだ私と関わりたくないのかを理解してしまう。

 自分達は狙ったスキルを手に入れることに成功しているけれど、私は巻き込まれただけだ。

 あの時、転移した時――料理の材料を持って帰宅した時、私が一番強く考えていたことって……

「それで、そこの、アカネと言った彼女のスキルはなんだ? 聖女か? 賢者か? いいやそれ以上の……」

「えっと、申してもよろしいのでしょうか?」

「当たり前だ! まさかそれ以上のスキルがあるというのか!?」

 宰相が勝手に期待し始めて、兵士の2人もゴクリと唾を呑みながら私を眺めている。

 もしかして、実は凄いスキルが目覚めたり――

「――彼女の、アカネさんのスキルは「料理」です」

 エルフの青年の発言を聞いて、周囲が呆気にとられていた。

 特に唖然としているのは宰相の人で、期待していたのに裏切られたとでも思っているのかもしれない。

「はぁ?」

「今までにないスキルでしたから、希少なスキルではありますが……」

「くだらぬ! 料理スキルだと!? そんなスキルが何になるか!」

 エルフの人がフォローをしようとしているも、宰相は顔が赤くなって怒っている。

 やっぱり、料理をする前だからそんなことだろうとは思っていた。

 帰る手段がないのなら、私はこの世界で生きていくしかない。

 そしてスキルは料理スキルだけって……私はこれからどうなるのか、とてつもなく不安になっていた。
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