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第66話 解説

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「そろそろ日が暮れるぞ」

デイモンドがそう言って俺たちを急かした。
とりあえず、諸々のことは旅が終わってからクロウに聞いてみるとしよう。
俺はレポートを元の場所に戻して部屋を後にした。
ハワード博士は何か言いたそうだったが結局口をつぐんで一緒に部屋から出てきた。
研究者としてはあの貴重な資料はぜひ持ち帰りたかったのだろうが
俺が元の場所に戻すのを見て、これは持って帰ってはいけないものだと悟ったのだろう。
部屋を出てしばらく歩くと

「結局、あの紙はなんだったんだね?」

彼は好奇心が抑えきらないと言わんばかりに目をきらきらさせながらそう言ってきた。
バインダーという概念がないこの世界の住民にとっては
あれに挟まれていたものがなんなのか見当がつくはずもなかった。

「あれは…忠告文というか、今を生きる俺たちに向けたメッセージみたいなものでした」

「ほう、というと?」

どこまで話すべきか迷ったが、この人に対しては真摯な態度で臨むべきだと思った。
情報を明かしたとしてもこの人なら適切に処理してくれるだろう。
短い付き合いではあるが、俺がレポートを読んでる間待っててくれたり
無理に話を聞き出そうとしないところで俺はこの人に好感を持っていた。

「それでは話しますが、これはおそらく重要な機密事項になるはずです。
どう取り扱うかはお任せしますが、とりあえずこの任務を与えたフラット国王と
同行したハワード博士、そして今ここにいるメンバーにはお話しておこうと思います」

「ふむ…」

俺たちは甲板に出た。そこそこ夕焼けの色が出てきたが
まだすぐに出発しないと日没までに間に合わないということはないだろう。
そこでパーティメンバーと再会して改めて俺は書類の内容を伝えることにした。

「改まってなんだよ?」

デイモンドが俺に対してそう聞いてくる。

「それでは…」

別にもったいぶるようなことでもないが、ことがことだけに少し間を溜めて俺は話した。

「あの船に搭載されているのは超大型爆弾です」

「なに?」

「ほぅ…」

各々が違った反応を見せる。俺は話をつづけた。

「あれが爆発したらおそらくこの世界は丸ごと消滅します」

俺の言葉にデイモンドが茶々を入れた。

「おいおい、大げさなんだよ。魔王の超巨大爆裂魔法ですらそんな威力はない。
目の前の軍勢を焼き払うとか、そんな感じだ。それでもこの世界における最大の爆発であり恐怖だぞ?」

デイモンドはあえて『魔王』という言葉をセレクトしたようだった。
実際、魔王にはそんな力があるのだろうがおそらく高レベル魔女のほうがもっとひどい爆発を起こせるだろう。
それを彼も承知ではあると思うが、魔女である俺の手前その言葉は飲み込んだようだった。

「気持ちはわかるけど、私の祖国もこれと同じような爆弾で焼かれたことがあってね」

「それで?」

「その時は町一つ吹き飛んだのよ」

事実だった。唯一の被爆国としてこれだけは言える。

「この爆弾はそれよりさらに後の時代に開発されたもので、威力もケタ違いよ。
実際、レポートの文章や資料を読む限りこの世界が丸ごと焼け野原になるのは間違いなさそうだわ」

「馬鹿な…」

セーラは俺の言葉に絶句をしているようだった。モミジは一言も言葉を発さずにじっとこちらを見ていた。

「さて、これだけでもバッドニュースなんだけど、本題はここからなのよね」

「はぁ!?まだなんかあるのかよ!」

「えぇ、この爆弾。老朽化が進んでいていつ爆発してもおかしくない不安定な状態になってるらしいの」

「!!???」

これにはさすがにみんなびっくりしたようで言葉が出ないといった感じで口をパクパクさせていた。
ハワード博士がなんとか喉から声を拾い上げるみたいに言葉を発した。

「………それで、猶予はどのくらいあるのだね?ワシらに出来ることは?」

「安心してください。当時のジェタイの戦士?と魔女との約束で魔女族がこの爆弾に停止魔法をかけています。
だから、老朽化は進んでいません。」

それを聞いてみんな安心したように胸をなでおろした。

「さすがにウン千年も耐久力のある爆弾を作ることはできないでしょ。いくらバーシュ砂漠の上だからといって」

そうは言っても米軍がこの世界に来たのがこの世界の基準で5000年前。自衛隊がこの世界に来たのが250年前。
約4700年も爆発せずにそのまま存在したのが奇跡のように思える。

実際のところはクロウがなんらかの手段で5000年前からある程度の保管保存をしていたのかもしれなかった。
当初俺が受けた説明と違い、どうやら彼女は俺が元居た世界からさまざまなアイテムを入手しているようだ。
その中には向こうの世界の文化や平気について記した本などがあってもおかしくはない。

それをもとに、バーシュ砂漠にこの船を『保管』して当時から停止魔法等をかけていたと考えたほうが
つじつまが合うような気がした。もっとも自衛隊員の専門家が老朽化で爆発寸前だと記していることから
しばらくは放置していたのか、もしくは緩やかな保管魔法を使っていたのかもしれないが。

「とにかく、今判明してるのはそんなところです」

「やれやれ、ただでさえ魔族とか言う頭痛の種があるのにこの世界にまた
厄介ごとが一つ増えたってわけか」

そういうとデイモンドは苦笑しながら首を左右に振った。
なんとなく、俺の世界の遺物がこちらの世界に迷惑をかけているようで申し訳ない気分になった。

「でもじゃあ…」

セーラが不思議そうに俺に聞いた。

「なんで魔女連中はこの最終兵器を交渉の材料に使わないんだ?
自分たちが保存しないと爆発するっていうなら、それを盾にいくらでも要求を通せたはずだろ?」

セーラの言い分はもっともだが、意外にもそれに対する反論はデイモンドがしてくれた。

「それをいうなら高レベル魔女がウヨウヨいる時点で武力で世界統一していてもおかしくはなかった。
魔女の中にはよわっちいのがいるとはいえ、強いやつはホントに強いんだからな
お前らにとっては魔王討伐もおままごとの延長線みたいなもんなんだろ?トール」

デイモンドが俺の方を見てそういった。
別に彼が非難めいたことを言いたくてそんなこと言っているわけではないのは
百も承知だが、俺は何となく彼に目線をあわせることができなかった。

「まぁ、いろいろ言い訳はあると思うが魔女サマには魔女サマなりのルールや矜持があるんだろうさ
どこぞから湧いてきた武器に頼るのはそれに反してたんじゃねーか?」

厳密にはおそらくクロウの空間魔法の研究でこの世界にもたらされた『災厄』なのだから
本人がそれを利用するのは気が引けたってところだろうが、そこは否定する必要もないだろう。

「道徳とか政治ゲームの話はあとにして、とりあえず街に戻ろう」

モミジが初めて口を開いた。
たしかに衝撃の事実に肩の力が抜けそうになるのはわかるが
バーシュ砂漠は日が暮れると一気に気温が下がってしまう。
一応緊急事態に備えて野宿の準備がないわけではないが
バーシュ砂漠を縦断してきたときのようにしっかりとした装備があるわけではない。
暗くなる前に町に戻れたらそれに越したことはなかった。

「よし、帰るk」

デイモンドがそう言いかけて表情を一変させた。
刺すような目つきとでもいうものだろうか。
同じくセーラやモミジも所持している武器に手をかけている。

俺とハワード博士だけ何が起こったのかわからずにキョトンとしていた。

パチパチパチ

「御高説感謝するよ。お嬢さん」

物陰から全身黒ずくめの怪しい連中が出てきた。
3,4…10人ほどいるようだ。

こいつらがなんなのかはよくわからないが、少なくとも善玉じゃなさそうなのは確かだ。
チラリと仲間の方を見ると、彼らも同意見だったようで険しい顔で黒ずくめの男たちを睨んでいる。

参ったな…

俺の弱点の一つである。
俺はデイモンド達みたいに実戦経験を積んでいない上に
属性的にほとんど死ぬことがない。
だから敵の襲撃とか殺気のようなものを感じ取ることができなかった。

変な話、どんな凶悪な攻撃をされても後出しじゃんけんで場を覆す力を持っている。
それが魔女『トール』という存在なのだ。

だが今はそれを行使する前にこいつらがなにをもって俺の目の前に現れたのか確かめる必要があった。


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