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第13話 魔物
しおりを挟むガタンゴトンと馬車が揺れる。
ちょうど今日はお出かけ日和の晴れ晴れとした陽気だった。
この世界にも四季のようなものはあるらしく
四季があるということはこの異世界にも自転や公転、
太陽は存在するということだろう。
地球が存在するのはいくつもの奇跡が重なった結果だと
テレビのドキュメンタリ番組でみたことがある。
この世界の地理は地球のそれとは全然違うが
もしかしたら、存在そのものは「別の地球」なのかもしれないと
ぼんやりと思った。
「なにぼーっとしてますの?」
メアリーの声かけで我に返った。
「あぁ、すまない。あまりにもいい天気だったので
ウトウトしてしまったよ」
「まったく!せっかくのお出かけなのだからしっかりしてくださいませ!」
「ガハハハハ!まぁいいさ。目的地まではしばらく時間がある。
お前らも寝てていいんだぜ!」
セブンスが豪快に笑いながら言った
彼女はすでに指輪の効果で中年おじさんの姿に擬態をしていた。
メアリーは頬を膨らませながら言った。
「せっかくのお姉さまとのデートですのよ!
そんな勿体ない時間の使い方しませんわ!」
「へいへい」
セブンスは相変わらずニヤニヤ顔を崩さないままそういった。
「でもよ、メアリー。そういった無駄な時間こそが
恋人どうしにとってはかけがえのない貴重な時間なんだぜ」
「え?」
「ま。お子様にはまだ早いか」
「んーーーーーー」
メアリーは言葉にならない声を発して腕をバタバタさせている。
悔しいのか納得したのかよくわからない声だ。
「だよなぁ?トール」
セブンスに唐突に話を振られた俺はとっさに
「え?あぁ、うん。そうだと思うよ!」
と内容もわからず返してしまった。
メアリーは諦めたように
「そういうものですかね」
と呟いて晴れ渡った空を見上げた。
俺も同じように空を見上げる
「いい晴れだな」
前世、地球時代によく会社の窓から空を見上げていたものだ。
こんな天気のいい日にオフィスでデスクワークとか
俺は一体何をやっているのだろうか。と
「何考えてますの?」
「え?」
俺はメアリーのほうに視線をやった。
彼女は相変わらず空を見上げたまま
俺にそう尋ねてきた。
その姿だけ見ると、まるで成長した少女のように思えて
一瞬どきっとしてしまった。
「?」
「あぁ、そうだね」
俺は自分の胸の内を隠すようにいうと
さきほど考えていた自分の考えを彼女に話すことにした。
「俺はここに来る前は会社…この世界で言うギルドだね。
そこで事務の仕事をずっとしていたんだよ」
「えぇ、知ってますわ」
メアリーやリンゼイ、クリスとはよく雑談をしているから
いろんなことをすでに話してあった。
リンゼイは俺が事務の仕事をしてたと聞くと
「うそだろぉ…?」
と少し驚愕した顔をしていた。まぁ今も信じてはいないかもしれない。
話を戻そう。
「建物の中でずっと書類とにらめっこしてるとね、ふと思うんだよ」
「なんですの?」
「この書類を全部空にぶちまけて、街を飛び出して旅に出たいって」
「どういうことですの?」
「俺にもわからないよ。仕事をしないとご飯を食べることはできない。
それでも、やっぱり思ってしまうんだよ」
俺は前世では世界を旅するバックパック旅行をしてみたいと思っていた。
しかし、大学卒業後すぐに会社に就職して、そのままズルズルと時間は過ぎ
いつしか、バックパック旅行をするには歳をとりすぎていた。
いや、頑張ればまだ間に合ったかもしれない。
それでもあの時の俺には仕事を放り出して世界を旅するなどという
選択肢は脳内に存在していなかった。
「まぁ、今はサラリーマン…ギルド職員でもなんでもないんだからさ」
「?」
「俺は魔女の城を出たら夢をかなえたいと思ってるんだよ」
「夢?」
「うん、魔女の城を出たら私は旅に出ようと思うんだ」
クロウには魔女の城で3年間、修行を積みこの世界の常識を学ぶようにと言われた。
ちょうど今、1年が経過している。このままあと2年を過ごしてすべてが終われば
この世界を旅するのも悪くないなと思っていた。
「そう、いいですわね。それ」
メアリーはニコっと笑いながらそれに同調した。
「じゃあ、私も強くならないとですわね」
「?」
メアリーの言葉の意味がよくわからなかったが、俺は特に深く考えることはなかった。
そのあとすぐにセブンスに会話を断ち切られたからだ。
「レミリアルドラゴンだ!トール行くぞ」
「あ、はい」
「お前らはここで待機してろ、リンゼイ、クリス。大丈夫だとは思うが
何か起こったらメアリーを守れ。やばそうなら撤退しろ。いいな」
「…はい」
リンゼイはインドア派で体力こそないが、別に弱いわけではない。
セブンスの指示にも顔色一つ変えずにそれに頷いた。
そういった胆力では、現地の魔女であるリンゼイやクリスのほうが
俺なんかよりずっと格上なのかもしれない。
とはいえ、レベル上で格上なのは俺だし、戦いに駆り出されるのは仕方ない。
実際のところ、この1年間の闘技場の模擬戦や野外での魔物相手の戦闘で
だいぶ俺も戦いに慣れてきたように思う。
セブンスは指輪を指の中でくいっと回して
中年太りしたオジサン形態からいつもの真っ赤なチャイナドレス姿に戻った。
「しかし、珍しいな。こんな魔女の集団にわざわざ突っ込んでくるモンスターがいるとはね」
確かに、俺たちが旅するときは大概魔物のほうが俺たちを避けてくれる。
とはいえ、こうして相対している以上、全部が全部そうではないということだろう。
セブンスが『レミリアルドラゴン』といった相手は、別に空を舞うドラゴンではない。
(もちろん空を舞うドラゴンもこの世界には存在するが)
レミリアルドラゴンは二足歩行で鋭利な爪で攻撃してくるモンスターだ
ただ、外殻がドラゴンのような固い鱗で覆われており、その鱗が赤みを帯びていることから
『レミリアルドラゴン』の名をつけられた。
全長は1メートル程度で、地球でいうところのチュパカブラと風貌は似ている。
そいつが俺たちの目の前に7,8匹ほど湧いてきた。
こいつらは魔族ほどではないとはいえそこそこ頭もいい。
おそらく陰にもう少し隠れているはずだった。
はずだったが…
俺は探知魔法が一切使えなかった。
これだけ高レベル魔女にもかかわらず探知魔法が使えないのは
珍しかったが、使えないものは仕方がない。
「セブンスさん」
「ふむ」
セブンスが探知魔法を使う。
「木の上に4匹、あっちの草むらの影に7匹だな」
「了解」
そこからは早かった。
セブンスはお得意の炎魔法でレミリアルドラゴンを焼き尽くす。
例え強靭な『鱗』をまとっていても炎を前にはまったく効果をなさない。
俺は基本魔法である『ウインドカッター』で強い風を巻き起こして
頭上を陣取っている魔物どもを木ごとなぎ倒した。
「ブエエエエエエエエ!!!」
魔物は奇声をあげる。
雄叫びなのか断末魔なのか援護要請なのかはわからないが。
俺は『サイコキネシス』でその辺の大きめの岩をレミリアルドラゴンの頭めがけて
発射し、頭蓋骨を粉砕する。
セブンスは草むらを焼き払って隠れていた魔物を次々に焼死体へと変えていた。
一般魔女がこんなところで炎魔法を使うと山火事とかに発展する危険性があるので
危険は危険なのだが『炎の魔女』セブンスはそこはぬかりない。
セブンスが手首をくいっとひねると燃え広がっていた草むらの炎は一瞬で消火した。
さっきの仲間の奇声を聞きつけたのか
前方から20匹ほどレミリアルドラゴンが増援に駆けつけてきた。
「久々に固有魔法を使いますかっと」
俺は肩をくるッと回して骨をポキポキ鳴らすと
そのまま手を前方に掲げて前方の魔物に宣言した。
「フリーズ!!」
その言葉と同時に、怒り狂ってこちらに向かってくる魔物はまるで凍らされたかのようにカチコチに固まった。
もちろん、凍っているわけではない。これこそが『停止の魔女』の俺の固有魔法だ。
「後は頼みます」
「あいよ」
相手が散開する前にこちらの魔法をあてたから、相手はただの的としてそこに存在しているだけだった。
次の瞬間、セブンスの炎魔法でモンスターたちはただの炭になった。
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