急須の魔神

若濱 翔也

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翌日出社すると、何やらざわついていた。

「昨日部長がついに刺されたらしい」と隣の席の山崎が教えてくれた。

刺されたと言っても物理的にではない。最近何かと話題の“ハラスメント“をチクられたということだ。

「まぁあの人はハラスメントを具現化した存在だったし、仕方ないよな。」と冷静を装って答える。が、内心では驚きを隠せなかった。こんな偶然あるか?

その日の午後には人事部の連中が飛んできて、部内のヒアリングが始まる。皆各々思っていたことがあったようだ。数日の間に部長の左遷が決まった。



「すごいよ魔神さん」

興奮しながら帰宅する。魔神は得意げな顔を向ける。
「そらそうよ。ワシは秀吉に天下取らした男やねんから。」
「え?そうなんですか!?」
「当たり前やんか。草履を懐で温めとくよう言ったのもワシやし、光秀に本能寺攻めるよう言ったのもワシやし、大返しもワシの魔法のおかげや」

魔法というより参謀、といえかコンサルタントに近いな。

まぁ、もしそれが本当のことならこの世で叶わない夢はないのかもしれない。


「魔神さん。一つ目の願い、決まりました。」
「やっとかいな。早よ言い。」
「世界で一番の金持ちにしてください。」

魔神は馬鹿にした目でこちらを見る。
「そら無理やわ。」

…え?

「昔やったらできたけどな。あれは確か和同開珎やったかな?あの頃は偽もん作って使えたけどな。今の時代は偽物作ったら法に触れるからな。」

たしかにそうだな。

「あんたの口座残高増やそうと思っても銀行のシステムに手加えなあかんからこれも法に触れる。」

それもそうだ。最初に法に触れることはできないって言ってたな。

「やから、宝くじを当てるくらいのことやったらできるわ」

そうといえばこの前運試しと思って購入した年末ジャンボ。当選すればおよそ10億。世界一のお金持ちにはなれないが、一生働かずに暮らせるくらいのお金持ちにはなれる。

「じゃあそれで。」

「なんやそのなげやりな頼み方は。」
ブツブツ言いながら魔神は呪文を唱える。

パァァァァァン!

今年最後。僕は大金持ちになる!
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