バロッコ

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〈五〉

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「ひゃっ」

 止める間もなく抱き上げられた。落とされてはかなわない。突然のことに目の前の逞しい胸にすがりつくほかない。軽々と珠緒をお姫さま抱っこした上半身裸の大助がソファにどっす、と座った。

「あの、っ、あの、あのあのあの」
「だいじょうぶ。落ち着いて」

 耳もとを低い声がくすぐる。大きな手がゆっくりと髪を撫でた。初めは後頭部をそっと、何度も繰り返すうち長い髪をくしけずりながら武骨に見えた指が内側へ入ってくる。あたたかな指がうなじや耳もと、首すじにふれるたびに
 ぞく、り。
 肌が粟立った。
 恐怖がないとはいわない。しかし薄らいでしまっている。困ったことに、肌のざわめきは厭なものではなかった。逞しくあたたかな胸に抱かれ安らいでいる。

「珠緒さん、髪の毛さらさらだね」
「あ、の――」
「ずっと撫でていたくなる。きもちいいよ」

 低い囁きとともに熱い唇が耳たぶをかすめた。

「――――っ」

 ぞく、く。
 肌を粟立たせるざわめきが体にしみとおりはじめている。唇が首すじをたどってゆっくりとのぼり、耳たぶをそっとんだ。なだめるように、ぎゅっと目を閉じ喘ぎをこらえる珠緒のこわばりをほぐすように掌が服の上から背中や腰をさする。

「耳たぶ、冷たいね。――もう少しで部屋、暖かくなるから待ってて」
「だ、大助、や、やっぱり――」

 離れたところから悟の声が聞こえてきた。
 ぴたり。
 珠緒を撫でていた手が止まる。耳もとで獣の唸りめいた低い声が剣呑けんのんに響いた。

「おまえが言いだしたんだろ」
「無茶なことは、しないでくれ」
「しない。無茶かどうか、そこでおとなしく見てろ。――ああ、珠緒さん。かわいいよ」

 一転して低い声が甘く掠れる。唇が近づいてきた。

「――嘘」

 珠緒は悲しく悔しい気持ちでかぶりを振り、横を向いた。
 自分はかわいくない。モテ偏差値の低い格下の女だ。一年半前だって、かっこよくて優しくて人気者の悟からの告白が信じられなくて何度も断った。ほんとうは嬉しかったのに。悟だって大助だって、結局はラメちゃんみたいな誰が見てもかわいい女の子のほうがいいんだ。あざとくてかわいいピンク乳首女のほうがいいんだ。

「男なんて、嘘きばっかり」
「俺は嘘なんか吐かない。ほんとうだ。珠緒さんはかわいいよ」

 大助は横を向いた珠緒の髪をかきあげ露わにした耳に口づけた。
 ちゅ、ちゅ。

「ここ、好きなんだね」
「違、ぅ、ぁあ」
「そう? ここは?」

 唇が耳たぶを食み、首すじに吸いつく。そのたびに
 ぞく、り。ぞく、り。
 肌で生まれた快楽が胎へと降りていく。

「ん、ぁ、……っや」
「かわいいよ。それに肌がきれいだ。すべすべでもちもちしていてすごく、気持ちいい」

 ふと、目が合う。

――見なければよかった。

 珠緒は後悔した。自分に覆いかぶさる大男の目は情欲で切なげにとろけている。まるで愛されているみたいだ。ほんとうは、悟に頼まれて仕方なく抱いているだけなのに。
 ちゅ。ちゅ、ちゅ。
 耳から頬へ、口づけが顔のまんなかへ近づいていく。

「キスしたい」
「え、……」
「珠緒さん、キスしよう」

 ローテーブルの向こうに届かない小さな囁きが頬を焦がした。囁きがさらに小さくなり唇をくすぐる。

「キスしても、いい?」
「ん……」

 蕩けた目を見上げうなずき返すと大男が

「ありがとう」

 嬉しげに微笑んだ。


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