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〈一〉

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 前世でイキりおやじの村を焼いてしまったのだろうか。
 会社。行きつけのカフェ。通勤電車。アパートの隣室。望まぬモテ期に突入した美佳は立ち回り先のありとあらゆる場所でやたらにイキりおやじに絡まれるようになった。

――静かに過ごしたい。

 望みはただそれだけだ。挽き立てコーヒーとおいしいお菓子をゆっくり楽しみたい。ささやかな望みを叶えるべくやってきた山でも、美佳がひとりと見るや

「下山したらさー、飲みに行こうよー。連絡先交換しよ」

 男がついてきた。断っても断っても湧いてくるしついてくる。

「ねえねえ、仲よくしよ」

 急に手を掴まれた。助けを求めようとして、美佳はひるんだ。登山口からしばらく、混雑といっていいくらいいたはずの登山客が見当たらない。

「や、やめてください、っ。放して!」
「ひとりで来てるってことはナンパ待ちなんだろ? いいじゃんいいじゃん」

 軋むほど強く掴んだ手を引き男が美佳を木立の奥へ奥へと連れ込もうとする。

「やだ、違、っやめ――――っ?」
「おい、歩けよ。もう少し道から離れたらかわいがってやっから――」

 手を引いても自分についてこないのに焦れて振り向いた男が半笑いで足を止め、凍りつく美佳の視線をたどった。

「――――ッ!」

 熊だ。
 大きな熊が仁王立ちしている。そして熊は紺色の着物を着ていた。袴を履き腰に刀もいている。なぜに熊。なぜに侍コス。

「おい、だいじょうぶか。しっかりしろ――」

 そのうえ、人語を話すなど、信じがたい。
 驚愕と恐怖と混乱とが脳の許容量を超えてしまい、美佳は意識を手放した。

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