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クロエ (九)
しおりを挟む人類が地球から去っておよそ三百年。地球最後のアイドルであるクロエ・フレーザーのオリジナル体が冷凍睡眠から覚醒したとの報は空前の地球ブームに後押しされて人類植民領域に急速に拡散された。
クロエのテーマパークがある惑星ヴァージャはたいへんな賑わいとなった。
地球ブームだけではない。
これまでデータベースを搭載したハードウェアを宇宙船に乗せなければ宇宙を渡れなかった人類が、通信技術の発展により人格データ伝送と義体へのインストールで宇宙のさまざまな領域で活動可能になったことも惑星ヴァージャの活況に拍車をかけた。つまり、通信網が整備された領域であればごく短時間で人格データを送り、義体で遠く深宇宙へ出かけられるようになったのだ。
観光客が押し寄せて金を落とすだけならよかったが、いいことばかりではない。
地球懐古趣味の人々だけでなく、彼女の祖父アーサー・フレーザーが陣頭指揮を執り開発した複製人格運搬式移民システムの注目度も上がったことである種象徴的存在となったクロエ・フレーザーは過激なストーカーに悩まされることにもなった。その中には血のつながった家族もいたともいわれている。
だからだろうか。クロエ・フレーザーは姿を消した。
惑星ヴァージャから遠く離れた植民星でストーカーに怯え隠遁生活を送っているとも、とうの昔に死んでしまったのだとも噂されたが冷凍睡眠から目覚めて二十年を経て活動の痕跡がない現在、人の口の端にのぼることもない。
惑星ヴァージャは初代惑星代表セシル・バーリーの死により複製体へと引き継がれた。地球最後のアイドルであったクロエ・フレーザーを記念したテーマパーク等観光事業だけでなく創薬など新規事業にも熱心でさらなる発展が期待されている。
惑星ヴァージャの植民エリアは、テーマパークや都市などスペースポートへのアクセスが良好で華やかな場所だけでなく、辺鄙な周縁部にも広がっている。
プリンチも周縁部に属する田舎町のひとつだ。
鄙びたプリンチにはプランテーションがある。そこはおもに惑星への移住を許されたばかりの人々が初期服務である農作業に従事するところだ。罰ゲームのように感じる者も多いがこの農作業はテーマパーク人気商品である香水ヴァージャの原料となる花卉を栽培している。化粧品や生薬の製造は観光事業と並び惑星ヴァージャ経済を支える重要な産業だ。
それだけではない。
農作業が移住者に課せられる初期服務となっているのは仮装義体に不慣れな人々のための措置でもあった。移住者は初期から改良を重ねつづけた女性仮装義体クロエと、二十年前にリリースされた男性仮装義体ラーシュ、同じラーシュの中年男性バージョンのうちひとつを選び、しばらく農場暮らしをする。生まれて以降、長い時間をかけて馴染んだ体と違い、仮装義体のコントロールは人によって困難だ。花を摘み精油をつくり、土や草、農具に触れ仮装義体で汗をかき体の節々の痛みを味わって移住者は仮装義体に慣れていく。定期的な本来の体への記憶のマージやメンテナンスも移住生活には欠かせない。所定の服務期間を終えると移住者のほとんどが都市圏での生活を望むため短期間で人がどんどん入れ替わっていく。
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