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惑星ヴァージャ (十三)
しおりを挟む万が一のことがないとも限らないとかなんとかセシル――でなくシシーはいっていたが万が一の事態にしては頻度が高い。ばっこすこ起きている。
シシーと別れ隠れ家に入ってクロエはまずデバイスにインストールした案内図を見ながら施錠の確認を始めた。
すると早速一人目がやってきた。ベッドルームのひとつで窓を見ていたら乗り越えるつもりなのか、垣根に手をかけようとしている男と目が合ったのである。
「あ」
窓の向こう側でも垣根に手を触れた男が「あ」のかたちに口を開けているのが見えた。
ぶお。ぶお、ぶお。
サイレンとともに強すぎるサーチライトを浴びながら男が膝かっくんでも喰らったようにずべ、と落ちていく。男の姿が見えなくなるのと同時に、轟音と照明が止まった。
「構えが大きいと警備の穴も増えちゃうだろうから、小さめで結構なんだけどね……」
侵入者ががっちり見えてしまったベッドルームでは落ち着いて休めない。華やかな赤と金のベッドカバーにレオパード柄のクッションがなかなかにかわいかったがクロエは諦めていったんキッチンへ向かった。あたたかいものでも飲もう。
冷蔵庫から取り出したミルクをマグカップに注ぎ、電子レンジとおぼしき機械につっこむ。
「あっためてもらえる?」
どう操作してよいものか分からないので駄目もとで懇願したところこれがあたりだったらしい。
ぶ、……ん。
機械が動きはじめた。ほっと安堵して窓へ目を向けると
「……!」
女が銃を垣根の隙間につっこもうとしている。しかし目が合った瞬間に垣根が
すぱっ。
閉じた。
謎レンジから取り出したミルクが飲みごろにあたたまっている。クロエはカーテンを閉めた窓に背を向け、マグカップに口をつけた。
外から悲鳴や怒号、物音が聞こえてくる。
確かに二重三重に網を張って対策を講じているとシシーはいっていた。そのとおりだ。わらわらと湧く不審者どもは敷地に入る直前で阻まれている。だからクロエは安全だ。今のところ。
「見えないように、できなかったのかな……」
募る不安は疼痛に似ている。じくり、じくりと広がり染みとおっていく。テーブルにカップを置き、クロエはデバイスでシシーに連絡をとった。
〈は、い!〉
慌てた声が応答する。シシーに直接連絡を入れたつもりだったがどうも間違えてしまったようだ。手もとの画面に表示された通話相手の名に覚えがない。
〈ごめんなさい、間違えたみたい。シシー、――セシル・バーリーと話したかったのだけど〉
〈いいえ合っています、オリジナル。シシーは今、手が離せなくて。代わりにお話ししています。――緊急のご用件ですか〉
緊急――。
クロエは窓へ目をやった。叫び声とともにサーチライトの光が忙しなく走るのがカーテン越しに見える。地球で暮らし三百年の冷凍睡眠期間を経て感じるのは、いっぺんに何人もの不審者に襲撃される現状が緊急事態でなく何が緊急なのか、である。しかしクロエの名を冠したテーマパークやら何やらを運営してクロエを商品として押し出しているシシーが他を優先しているのならば、この程度は緊急とはいえないのではないか。
〈今のところまだ――平気〉
窓の向こう、遠くで断末魔の叫びが響き渡るがデバイスのマイクが拾うほど音が大きくはないようだ。
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