南京錠と鍵

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惑星ヴァージャ (十二)

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 女には土地鑑とちかんがあるのか、さして速くもないのにすいすいと人混みを縫うように進んでいく。対してスタージョは

「見て! ラーシュ・ヨハンソンそっくり!」
「ほんとだ! 新しい仮装体かな」

 やたらに取り囲まれた。
 地球に取り残されていたただの医師だというのにそんなに珍しいだろうか。これまでの立ち回り先できゃいきゃい持てはやされたことはあった。何せオリジナルは顔がいい。しかしこの程度に顔がいい男はそこそこにいるのである。
 今回スタージョはそこそこの顔のよさでなく、ラーシュ・ヨハンソンの複製体であることが原因できゃあきゃあいわれていた。取り囲んでいるのはド派手なアップリケだらけのシーツをかぶった幽霊クロエにボルトの刺さったヘッドドレスとつぎはぎメイクのフランケンシュタイン・クロエ、きらきらジュエリーで飾られた骸骨クロエ、背中に翅を生やした妖精クロエなど思い思いのコスチュームに身を包んだ仮装体クロエたちだ。

――そうか。

 周りに集まっている仮装体クロエたちは、スタージョも仮装体だと考えているのだろう。自分とは違うスタンスと熱意でクロエを愛している人たちだと思うと、無下に振り払うことができない。どうすればいいのか。

「おれはその、急いでいて――」
「はい退いて退いて」

 ぴっぴりぴぴぴ、と警笛が聞こえてきてセキュリティ・クロエたちがハロウィンコスのクロエたちを遠ざける。

「離れて、離れて。そちらの男性はわれらといっしょに来ていただきますよ」

 クロエからクロエへと引き渡されやっとスタージョは人混みから解放された。

「あの女を追わないと……!」
「先ほど同僚がマーカーを打ち込みました。位置の把握はできています」

 揃いの制服に身を包みますます以て見分けのつかないセキュリティ・クロエのひとりが厳しい表情を少しだけ緩める。

「クロエ・オリジナルをお忘れかと思いました」
「断じてそんなことはない」
「よかった」

 唇を引き結んだセキュリティ・クロエがバイクを掌で指し示した。スタージョに乗れといっているらしい。

「しかし状況はかんばしくありません。先ほどの女だけでなく多人数の工作員がいっせいにアタックをしかけてきています」
「何のために――」

 いいかけてスタージョは思い出した。

――ラーシュ・ヨハンソン。

 ここ惑星ヴァージャに来るまで、そう呼びかけてくるのはマリー=アンジュの複製体ひとりだけだった。

――クロエクロエって、どいつもこいつもあの子のことばっかり!

 黒衣の女が嘆いていたのを思い出す。そうだ。クロエを狙っているのはひとりだけではない。
 聞けばクロエはすでにこの惑星ヴァージャに到着していて、先ほど隠れ家に入ったという。

「自律防御システムとだいぶきついロックがかかっていまして……われわれスタッフは朝まで誰も隠れ家に入れないのです」

 ただしクロエ・オリジナル自身が招き入れるならば話は変わってくる。きつくロックがかけられているわりに警備が穴だらけだ。スタージョは唇を噛んだ。今そこを責めてもしかたない。一刻も早くクロエのもとへ向かわねば。

「これからオリジナルの隠れ家にお連れします」
「頼む」

 バイクに乗ったスタージョとセキュリティ・クロエは、ハロウィンを祝う人々を慎重に避けながらヴィーゼの奥、住宅街へ向かった。


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