37 / 53
惑星ヴァージャ (十二)
しおりを挟む* * *
女には土地鑑があるのか、さして速くもないのにすいすいと人混みを縫うように進んでいく。対してスタージョは
「見て! ラーシュ・ヨハンソンそっくり!」
「ほんとだ! 新しい仮装体かな」
やたらに取り囲まれた。
地球に取り残されていたただの医師だというのにそんなに珍しいだろうか。これまでの立ち回り先できゃいきゃい持て囃されたことはあった。何せオリジナルは顔がいい。しかしこの程度に顔がいい男はそこそこにいるのである。
今回スタージョはそこそこの顔のよさでなく、ラーシュ・ヨハンソンの複製体であることが原因できゃあきゃあいわれていた。取り囲んでいるのはド派手なアップリケだらけのシーツをかぶった幽霊クロエにボルトの刺さったヘッドドレスとつぎはぎメイクのフランケンシュタイン・クロエ、きらきらジュエリーで飾られた骸骨クロエ、背中に翅を生やした妖精クロエなど思い思いのコスチュームに身を包んだ仮装体クロエたちだ。
――そうか。
周りに集まっている仮装体クロエたちは、スタージョも仮装体だと考えているのだろう。自分とは違うスタンスと熱意でクロエを愛している人たちだと思うと、無下に振り払うことができない。どうすればいいのか。
「おれはその、急いでいて――」
「はい退いて退いて」
ぴっぴりぴぴぴ、と警笛が聞こえてきてセキュリティ・クロエたちがハロウィンコスのクロエたちを遠ざける。
「離れて、離れて。そちらの男性はわれらといっしょに来ていただきますよ」
クロエからクロエへと引き渡されやっとスタージョは人混みから解放された。
「あの女を追わないと……!」
「先ほど同僚がマーカーを打ち込みました。位置の把握はできています」
揃いの制服に身を包みますます以て見分けのつかないセキュリティ・クロエのひとりが厳しい表情を少しだけ緩める。
「クロエ・オリジナルをお忘れかと思いました」
「断じてそんなことはない」
「よかった」
唇を引き結んだセキュリティ・クロエがバイクを掌で指し示した。スタージョに乗れといっているらしい。
「しかし状況は芳しくありません。先ほどの女だけでなく多人数の工作員がいっせいにアタックをしかけてきています」
「何のために――」
いいかけてスタージョは思い出した。
――ラーシュ・ヨハンソン。
ここ惑星ヴァージャに来るまで、そう呼びかけてくるのはマリー=アンジュの複製体ひとりだけだった。
――クロエクロエって、どいつもこいつもあの子のことばっかり!
黒衣の女が嘆いていたのを思い出す。そうだ。クロエを狙っているのはひとりだけではない。
聞けばクロエはすでにこの惑星ヴァージャに到着していて、先ほど隠れ家に入ったという。
「自律防御システムとだいぶきついロックがかかっていまして……われわれスタッフは朝まで誰も隠れ家に入れないのです」
ただしクロエ・オリジナル自身が招き入れるならば話は変わってくる。きつくロックがかけられているわりに警備が穴だらけだ。スタージョは唇を噛んだ。今そこを責めてもしかたない。一刻も早くクロエのもとへ向かわねば。
「これからオリジナルの隠れ家にお連れします」
「頼む」
バイクに乗ったスタージョとセキュリティ・クロエは、ハロウィンを祝う人々を慎重に避けながらヴィーゼの奥、住宅街へ向かった。
* * *
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる