27 / 53
惑星ヴァージャ (二)
しおりを挟む「これからはあたしとあんた、ふたりで暮らそう」
「何をいっているんだ。だいたい、きみは何者なんだ」
スタージョは黒衣の女を引き剥がし、距離をとった。――なんだ。簡単じゃないか。今までなぜたったこれだけのことができなかったんだ。
香り。
クロエがかつて地球でつくった香水ヴァージャの匂いがしない。
「あたしはマリー=アンジュ・フレーザー=ver.8」
クロエの叔母の複製体だというその女の外見は、別人とはいえ遺伝子上は近いはずの恋しい人からあまりにもかけ離れていた。
「オリジナルはね、何度自分をコピーしても母親に似ないもんだからブチ切れて義体をいじくりまわしてあたしを作り替えたんだ」
黒々とした目に涙が浮かぶ。別の生きもののように赤い唇が泣き笑いのかたちに歪んだ。
「もう、うんざり。クロエなんか忘れて一からやり直そう、いっしょに」
「駄目だ。できない。おれはクロエを探す」
スタージョは後ずさった。
「クロエクロエって、どいつもこいつもあの子のことばっかり! ――もう遅い。あんたのオリジナルは先にクロエを見つけてる。だからメールを送ってこないんだ」
背後、広場の方向から雑踏の賑わいに混じり微かに聞こえてくる。
かちこちアースに、さよなら
ぐるんぐるんにエナジー
溜めてびゅんびゅん! 遠くへGOGO
行きましょいっしょに深宇宙――
スタージョは立ち尽くした。
体が変化するのを感じる。粉々になり泡となり光に灼かれ、組み立てられ再構成されていく。
クロエの歌が聞こえる。一歩、また一歩、広場へ歌の聞こえるほうへスタージョは足を進めた。
「無駄だよ、行っちゃ駄目だ」
路地から広場へ抜ける手前で、黒衣の女が袖を引く。
「オリジナルに先を越されてるんだ。あんたはもう用済みなんだよ。絶対に後悔する」
「かまわない。後悔したって、かまわない」
キャンビアの太陽が光り輝く。
女の手を振りほどき、スタージョは広場へと踏み出した。旅行代理店の広告を流す一角へ向かう。
――わたしたちの故郷地球が空前のブーム!
――懐かしさいっぱいのテーマパーク惑星に遊びにいこう!
地球をテーマにしたさまざまな遊園地やリゾート施設紹介動画のなかに惑星ヴァージャのものがあった。地球最後のアイドル、クロエ・フレーザーのテーマパークだ。
かちこちアースにさよなら
ぐるんぐるんにエナジー
燃える若葉色の目。やんちゃで跳ねっ返り、小生意気で勝ち気な目。
クロエが歌っている。
なつかしさで胸が締めつけられる。ただただおとなしく老アーサーのいいなりになる道を選べばもっと楽に生きられたのにそうしなかった。がんじがらめでももがきつづけ、おれに――ラーシュ・ヨハンソンに手を伸ばすきみが好きだった。まだ会ったこともないのに愛し合った記憶がある。
行こう。クロエに会いに行こう。スタージョは惑星ヴァージャ行き連絡船のチケットを買った。
* * *
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
甘い誘惑
さつらぎ結雛
恋愛
幼馴染だった3人がある日突然イケナイ関係に…
どんどん深まっていく。
こんなにも身近に甘い罠があったなんて
あの日まで思いもしなかった。
3人の関係にライバルも続出。
どんどん甘い誘惑の罠にハマっていく胡桃。
一体この罠から抜け出せる事は出来るのか。
※だいぶ性描写、R18、R15要素入ります。
自己責任でお願い致します。
TS調教施設 ~敵国に捕らえられ女体化ナノマシンで快楽調教されました~
エルトリア
SF
世界有数の大国ロタール連邦の軍人アルフ・エーベルバッハ。彼は敵国アウライ帝国との戦争で数え切れぬ武勲をあげ、僅か四年で少佐にまで昇進し、救国の英雄となる道を歩んでいた。
しかし、所属している基地が突如大規模な攻撃を受け、捕虜になったことにより、アルフの人生は一変する。
「さっさと殺すことだな」
そう鋭く静かに言い放った彼に待ち受けていたものは死よりも残酷で屈辱的な扱いだった。
「こ、これは。私の身体なのか…!?」
ナノマシンによる肉体改造によりアルフの身体は年端もいかない少女へと変容してしまう。
怒りに震えるアルフ。調教師と呼ばれる男はそれを見ながら言い放つ。
「お前は食事ではなく精液でしか栄養を摂取出来ない身体になったんだよ」
こうしてアルフは089という囚人番号を与えられ、雌奴隷として調教される第二の人生を歩み始めた。
※個人制作でコミカライズ版を配信しました。作品下部バナーでご検索ください!
バロッコ
uca
恋愛
卒業論文完成の目処が立った冬のはじめに恋人の浮気が発覚。別れようとする珠緒の前に恋人の悟は幼馴染みの大助をともなって現れた。
三人がぞれぞれ抱える痛みも呑みこめばいつか、歪んだまま真珠になる。
※ 胸糞注意です。
※ 複数攻めありです。
※ 不定期更新です。
※ タイトルはバロックパール、歪み真珠の意です。
※ 他サイトにも同内容の作品を投稿しています。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる
KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。
城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる