南京錠と鍵

uca

文字の大きさ
上 下
12 / 53

ラーシュ (四)

しおりを挟む

 金目のものをかき集め、やっとのことでラーシュは極秘裡ごくひりにチケットを一枚、買いもとめた。
 チケットは冷凍睡眠式移民船のものではない。行政府の配給を待てば無料で冷凍睡眠式移民船に乗れる。その代わりどの惑星に割り振られるか分からない。家族や友人と同じ船に乗れるかどうかも分からない。希望の移民先、親しい人たちといっしょの生活を望もうとすれば財産が没収される前の二十倍は金を払わなければならない。

――誰も金なんぞ持ってないはずなのに、な。

 行政府による宇宙移民計画新フェイズ移行で残留人類の財産が接収されたのち、むしろそれまでより金がものをいうようになった。
 ラーシュの手がかろうじて届いたのは、新しく開発されたばかりの複製人格運搬式移民船のチケットだ。


 万聖街旧港倉庫街の一角で機密保持契約を交わしたのち、特徴の掴めない顔をした説明係からラーシュは説明を受けた。

「複製人格運搬式移民船は、その名のとおり記憶も含め人格をまるごと複製して運び、目的地到着後に作製した義体にデータをインストールします」

 冷凍睡眠式移民と違い、体を運ぶ必要がないため格納場所や維持コストが小さくてすむ利点がある。その分、チケット代金も比較的安い。

「目的地で生成されるのはお客さまの複製体です」

 人格を複製することでオリジナルのボディに損傷をきたすことはない。しかしオリジナルとコピーが同時に存在する可能性がある。

「複製体にはオリジナルとの関連を示す名前がつけられます」

 ラーシュ・ヨハンソンの複製体の籍にはラーシュ=オリジナルからの複製時期などが加えられ、作製された義体にマイクロチップが埋め込まれる決まりだ。

「人格の複製が可能なのはオリジナルのみとなっております」

 ボディの複製は今のところ制限がないが、人格の複製回数には上限がある。現在のところ、八回までは安全に複製可能であることが確認できているという。

 説明ののち、ラーシュは小部屋に案内された。ポッドのような装置でデータをとられたあと、説明係が立ち去りひとり取り残される。装置に保存されたデータの調整や加工をしろといわれ、ラーシュはデバイスにダウンロードした取扱説明書と首っ引きになった。

「条件づけ、か」

 ある程度複製体の行動規範をあらかじめ決められるらしい。大枚はたいて複製体を遠い未来に送って何をしたいのかを、あらためてラーシュは考えた。
 もう一度、クロエに会いたい。
 彼女が自分以外の男と恋をする前に囲い込み、縛りつけてしまいたい。
 送り出す複製体は厳密には自分ではない。しかし義理に縛られグラスルーツの代表として地球に残らざるを得ないラーシュからすれば他人にクロエをかっさらわれるくらいなら自分の複製体と恋に落ちるほうがまだましだ。

「……」

 取扱説明書を次へ次へとスクロールする。指が止まった。
 これだ。複製体の行動を制限するロック。
 ラーシュは複製体に

「クロエ以外の女に心を奪われないように……」

 ロックをかけ、鍵をつくった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

処理中です...