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2章
10 協定
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生徒会室への2度目の入室。
前回とは違ってすでにカーテンは開け放たれ、室内は明るい。
紫苑 「初めてじゃないかしら?あんたがちゃんと仕事したのは」
アケミの雰囲気が、部屋に入る前までの態度と打って変わって、一気に硬質化する。
紫苑の言葉を当たり前のように無視した。
まるでこの群れにボスなど存在しないかのように。
そして、ごく自然に・・・スッ、と教子のほうにすり寄る。
精神的にだけではなく距離的にも。
"待て"を命じられた番犬のように、教子の後ろに、邪魔にならないように控える。
教子はアケミの甘い匂いと存在感を背後からダイレクトに感じて、またすこし変な気分になりそうになり、「いやいや集中集中」と自分に言い聞かせた。
紫苑 「・・・・・・この無愛想バカ犬シカト野郎・・・(イライライライラ)」
紫苑の余裕に満ちた笑みが一瞬で怒りに変わり、ボソッとなにがしか呟いて、
また一瞬で、もとの表情に戻る。
紫苑 「こんにちは。調さん。昨日ぶりね」
来訪者へと意識を切り替えていく。
教子 「・・こんにちは。紫苑さん」
紫苑 「あら、昨日みたいに会長とは呼んでくれないのね」
ふん、と紫苑が鼻白む。
紫苑 「・・・まどろっこしいのは嫌いだから、単刀直入に言うわ。私たち、協定を結ばない?」
教子 「競艇?」
紫苑 「ボートレースの話すると思う?・・・あんまりちょこちょこ細かくボケないで。ラノベにありがちな文字数稼ぎだと思われちゃうでしょ」
いきなり本題とは関係ない部分でダメ出しされて教子はすこし心を抉られた。
トラの個性がどうとか関係なく、やっぱりちょっと性格キツイ。この人。
紫苑 「積極的で包括的で友好的で最終的な協定を締結しましょう」
教子 「あ、え、は、てき?」
教子 「あの、的だけはわかったんですけど。すみません、なに的までかは聞き取れませんでした」
紫苑 「・・つまり!」
紫苑 「もうあなたも気付いているでしょう。私たちは獣人なの」
それは・・・まあ。
紫苑 「正直・・本来であれば、その事実を知り得てしまったというだけで、そんな生徒の存在を許しておくわけにはいかないのだけれど・・」
紫苑 「調さんのこと、調べさせてもらったわ」
教子 「ややこしい苗字ですみません」
紫苑 「・・・カオル」
カオル「はい」
紫苑から会話の流れを引き継いだカオルが前に出る。
カオル「調教師の家系だそうですね。そして、『クリック』と呼ばれる、調教用の特殊な技術をお持ちだとか」
教子は素直に驚いた。
家族以外の人間からこの『クリック』の話を聞かされるなんて。
"人間じゃない存在"が生徒会という学園内の組織を牛耳っているということは、学園内の大人の教師たちも、何らかの方法で手なずけているということだ。
この獣人たちの社会的な勢力とネットワークの全容はいかなるものなのだろう。
カオル「我々獣人と、調教師の中でも特殊な技術を持つあなた。交流しあえば、お互いにいろいろと得るところがあると思います」
カオル「昨日の段階で、入会については、また後日話し合いたいとのことでしたが・・」
カオル「再度、こちらからお願いします。生徒会に正式に入会してもらえませんか?」
教子 「あー・・そうですね・・」
先方から入会を要請をされるとは、少し予想だにしなかった展開だが、まぁ獣人という存在が出てくる時点で何が起きても不思議ではないとも思っていた。
・・しかし、教子は腑に落ちない。
なぜ、あんなことをするのだろうか?したのだろうか?
クラスメイトの花田の言葉を思い出す・・・・生徒会に入部した新入生たちの末路。
教師のクチを噤ませることができる程の影響力があるのであれば、わざわざ非力な新入女学生相手に陰湿なイヂメなどする必要はないではないか。
教子の疑問を察したように紫苑が告げる。
紫苑 「・・・・まあ昨日の件は、こちらも少し反省しているわ」
紫苑 「相手を見てからいうわけではないけれど、ごめんなさい」
紫苑 「もうあなたを不快にさせることはない。約束する」
紫苑 「あなたのほうも色々と知りたいこと、聞きたいこと、あると思う・・・"交流"とはそういったことも含めての意味よ」
例によって、教子には、紫苑の言葉が嘘ではないことがわかる。
獣人の感情は、匂いが強いので本当にわかりやすい。
紫苑は、高圧的になるでもなく、かといって卑屈になるでもなく、まっすぐに真摯な目で教子を見つめながら、そう言った。
教子は、紫苑のその姿に何となく気高さを感じていた。昨日の非礼を真面目に詫びるその姿に。
きちんと過ちを認め、教子の能力を認め、群れに引き入れんと近づこうとしている。
恐らくは群れのために。仲間を守るために。
誇り高き猛獣の自尊心を保ちながら、教子に真正面から謝罪している。
頭を下げながらも、その精神の美しさは微塵も損なわれていない。
"自らの生存と群れの存続のため"という大きな目標のためなら、ちっぽけな些事など打ち捨てられるからこそ、野生は高貴で気高くそして美しい。
思考と行動に一本筋が通っているからだ。
うわべだけは何事もなかったように取り繕いながら、中身は場面に応じてグニャグニャと変節する人間とは、まるっきり正反対。
------そして、先ほどのアケミの表情をみて浮かんだ考えが間違いではなかったことを悟り、確信する。
この生徒会のメンバーたちは決して一枚岩ではない。
考えてみれば当たり前だ。紫苑は猫。アケミは犬。
カオルも、こずえも、瑞穂も、他の動物。
それぞれ違う種族からなる獣人の寄り合い所帯だ。
本来、違う動物同士でできた群れがまとまるはずがない。
ではなぜこうして共同生活(?)を送っているのか?
それに対する回答も教子の中では出来上がりつつあった。
この5人から共通して感じる、もの。
教子に対してではない、"人間という存在"そのものへの、根本的な敵意。
カオル、こずえ、瑞穂はもちろんのこと。
アケミからすらも、感じられる。
紫苑にいたっては、もはや憎悪という言葉のほうが近い。
・・・・・たぶん、それは恐怖の裏返しだ。
昔、いったい何があったのか、なぜ人間相手にこのようなことをする?
復讐・・・・なのだろうか?
・・・・・恐らくそうなのだろう。人間から受けたむごい仕打ちに対する。
過去に受けた仕打ちによって刷り込まれた潜在意識下の恐怖。
そして、それを塗りつぶすために無意識に選択してしまった、いや、選ばざるを得なかった人間への憎悪と敵意。
それがこの5頭の獣人を、か細くつなげているのだ。
気になる。過去にいったい何があったのか。とっても気になる。
・・・・しかし、その詳細については、まだ尋ねるべき時ではない。
教子 「・・・・わかりました。」
教子 「こちらこそ、よろしくお願いします」
教子はごく自然に提案を了承していた。
迫害されてきた獣たちへの憐憫と庇護の感情なのだろうか。
守ってあげなくちゃ。という気持ち。
いや、この子たちの"教師"にならなければ。教子はそうも思った。
心ない人間に痛めつけられたカラダとココロを癒し、
人間との正しいコミュニケーションの方法について優しく解きほぐしてあげることのできる教師。
教師の調さん。つまり調教師。だれうま。
ふ、と紫苑が笑い、生徒会室に柔らかな空気が流れる。
紫苑 「これにて、協定は成立ね」
紫苑 「これからよろしく。調さん」
教子 「はいっ」
教子も屈託のない笑顔をニコリ、と返した。
カオルも、こずえも、瑞穂も、安堵したかのようにほほえむ。
後ろなので見えないが、アケミも同じ表情をしてるだろう。
それぞれタイプの異なる美女の笑顔に囲まれ、教子はまた違った意味でドキドキしてきていた。
紫苑 「あ、それと・・・」
不意に紫苑が声を上げた。
教子 「はい?なんですか?」
教子は諸先輩方に負けじと精一杯の美しい微笑をがんばって作っている。
顔面の完成度は敵うべくもないが。
紫苑 「その、あの・・なに?あのカチッ、てやつ」
紫苑 「クリックのことですか?」
教子はなにげなくクリッカーを見せる。
もはや警戒する必要もない。私はこの生徒会の仲間になったのだ。
紫苑 「そ、それね・・。ゴクリ・・なるほど、それが『アレ』の正体というわけ・・・」
ゴロゴロと紫苑が喉を鳴らす。
紫苑 「まぁ、もしあなたが調教師としての経験を積むことも兼ねて、獣人相手にそれを試してみたいと言うんなら、もう一回実験台になってみてやってもいいわ」
教子 「うっ・・き、昨日のように、ですか?」
教子は、昨日のアンティークデスクのように蹴り飛ばされて爆発四散する自分を一瞬想像し、ちょっと青ざめた。
ちょうどいま目の前にあるが、紫苑に蹴られた部分は、痛々しく凹んだままだ。
紫苑 「ま、まあ、あなたがやりたいんならね?」
紫苑 「私は別にまったく興味ないしむしろそういうのはどうかと思うし、ホントぜんっぜん興味ないんだけど、もしあなたがど~~してももう一回やりたいというんだったらやってもらってもまあ構わないわよ?ただし昨日みたいにみんなの前とかじゃなくてちゃんと場所を選んで、あといきなりだとこっちも困るからちゃんとムードとか考えて(めっっっちゃ早口)」
教子 「え?あ?あの、はい?」
教子 「ごめんなさい。めっっっちゃ早口すぎて、煽りとかじゃなく意味わかんなかったのでもう一回言ってもらえませんか?できればもっと簡潔に」
紫苑 「・・・ふん!もういいわよ!」
紫苑 「とにかく。改めて生徒会へようこそ。1年B組の調 教子さん」
紫苑 「いえ・・・教子。これからよろしくね」
紫苑が優雅な動作で、右手を差し出す。
握手。人間式のあいさつ。
自分はこの生徒会の正式な一員として認められたのだ。
クリックの能力のせいかそれとも、調教師としての立ち振る舞いゆえか。おそらく両方だろうけど。
突然、教子の心中に、昨日生徒会室に入って紫苑と初めて対面したときのみずみずしい気持ちが蘇ってくる。
なにかが変わりそうな予感が確信に変わる。
・・・・・ワクワクする。高揚感。
美女の獣人達に囲まれる青春。
美女が乱舞する楽園。
ハーレム。
深夜アニメ。
ラッキースケベ。
美女。美女。美女。
なにこれ。ヤバいじゃん。
即物的な語彙が教子の脳内でぽんぽんと飛び出し、ハァハァと息が荒くなってくるのを感ずる。
・・・同性的にどうなん?という無意識下の突っ込みはあえて封印して。
自身を取り巻く環境よりも、自分の内面の方向性がかなり変わりかけている事に教子自身は気付いているのかいないのか。
教子は両手を伸ばして紫苑の手を取り、握手を交わした。
想像通り、紫苑の手はめっっっちゃスベスベでめっっっちゃキレイな肌をしていた。
教子 「こちらこそ、よろしくお願いいたします!紫苑会長!」
前回とは違ってすでにカーテンは開け放たれ、室内は明るい。
紫苑 「初めてじゃないかしら?あんたがちゃんと仕事したのは」
アケミの雰囲気が、部屋に入る前までの態度と打って変わって、一気に硬質化する。
紫苑の言葉を当たり前のように無視した。
まるでこの群れにボスなど存在しないかのように。
そして、ごく自然に・・・スッ、と教子のほうにすり寄る。
精神的にだけではなく距離的にも。
"待て"を命じられた番犬のように、教子の後ろに、邪魔にならないように控える。
教子はアケミの甘い匂いと存在感を背後からダイレクトに感じて、またすこし変な気分になりそうになり、「いやいや集中集中」と自分に言い聞かせた。
紫苑 「・・・・・・この無愛想バカ犬シカト野郎・・・(イライライライラ)」
紫苑の余裕に満ちた笑みが一瞬で怒りに変わり、ボソッとなにがしか呟いて、
また一瞬で、もとの表情に戻る。
紫苑 「こんにちは。調さん。昨日ぶりね」
来訪者へと意識を切り替えていく。
教子 「・・こんにちは。紫苑さん」
紫苑 「あら、昨日みたいに会長とは呼んでくれないのね」
ふん、と紫苑が鼻白む。
紫苑 「・・・まどろっこしいのは嫌いだから、単刀直入に言うわ。私たち、協定を結ばない?」
教子 「競艇?」
紫苑 「ボートレースの話すると思う?・・・あんまりちょこちょこ細かくボケないで。ラノベにありがちな文字数稼ぎだと思われちゃうでしょ」
いきなり本題とは関係ない部分でダメ出しされて教子はすこし心を抉られた。
トラの個性がどうとか関係なく、やっぱりちょっと性格キツイ。この人。
紫苑 「積極的で包括的で友好的で最終的な協定を締結しましょう」
教子 「あ、え、は、てき?」
教子 「あの、的だけはわかったんですけど。すみません、なに的までかは聞き取れませんでした」
紫苑 「・・つまり!」
紫苑 「もうあなたも気付いているでしょう。私たちは獣人なの」
それは・・・まあ。
紫苑 「正直・・本来であれば、その事実を知り得てしまったというだけで、そんな生徒の存在を許しておくわけにはいかないのだけれど・・」
紫苑 「調さんのこと、調べさせてもらったわ」
教子 「ややこしい苗字ですみません」
紫苑 「・・・カオル」
カオル「はい」
紫苑から会話の流れを引き継いだカオルが前に出る。
カオル「調教師の家系だそうですね。そして、『クリック』と呼ばれる、調教用の特殊な技術をお持ちだとか」
教子は素直に驚いた。
家族以外の人間からこの『クリック』の話を聞かされるなんて。
"人間じゃない存在"が生徒会という学園内の組織を牛耳っているということは、学園内の大人の教師たちも、何らかの方法で手なずけているということだ。
この獣人たちの社会的な勢力とネットワークの全容はいかなるものなのだろう。
カオル「我々獣人と、調教師の中でも特殊な技術を持つあなた。交流しあえば、お互いにいろいろと得るところがあると思います」
カオル「昨日の段階で、入会については、また後日話し合いたいとのことでしたが・・」
カオル「再度、こちらからお願いします。生徒会に正式に入会してもらえませんか?」
教子 「あー・・そうですね・・」
先方から入会を要請をされるとは、少し予想だにしなかった展開だが、まぁ獣人という存在が出てくる時点で何が起きても不思議ではないとも思っていた。
・・しかし、教子は腑に落ちない。
なぜ、あんなことをするのだろうか?したのだろうか?
クラスメイトの花田の言葉を思い出す・・・・生徒会に入部した新入生たちの末路。
教師のクチを噤ませることができる程の影響力があるのであれば、わざわざ非力な新入女学生相手に陰湿なイヂメなどする必要はないではないか。
教子の疑問を察したように紫苑が告げる。
紫苑 「・・・・まあ昨日の件は、こちらも少し反省しているわ」
紫苑 「相手を見てからいうわけではないけれど、ごめんなさい」
紫苑 「もうあなたを不快にさせることはない。約束する」
紫苑 「あなたのほうも色々と知りたいこと、聞きたいこと、あると思う・・・"交流"とはそういったことも含めての意味よ」
例によって、教子には、紫苑の言葉が嘘ではないことがわかる。
獣人の感情は、匂いが強いので本当にわかりやすい。
紫苑は、高圧的になるでもなく、かといって卑屈になるでもなく、まっすぐに真摯な目で教子を見つめながら、そう言った。
教子は、紫苑のその姿に何となく気高さを感じていた。昨日の非礼を真面目に詫びるその姿に。
きちんと過ちを認め、教子の能力を認め、群れに引き入れんと近づこうとしている。
恐らくは群れのために。仲間を守るために。
誇り高き猛獣の自尊心を保ちながら、教子に真正面から謝罪している。
頭を下げながらも、その精神の美しさは微塵も損なわれていない。
"自らの生存と群れの存続のため"という大きな目標のためなら、ちっぽけな些事など打ち捨てられるからこそ、野生は高貴で気高くそして美しい。
思考と行動に一本筋が通っているからだ。
うわべだけは何事もなかったように取り繕いながら、中身は場面に応じてグニャグニャと変節する人間とは、まるっきり正反対。
------そして、先ほどのアケミの表情をみて浮かんだ考えが間違いではなかったことを悟り、確信する。
この生徒会のメンバーたちは決して一枚岩ではない。
考えてみれば当たり前だ。紫苑は猫。アケミは犬。
カオルも、こずえも、瑞穂も、他の動物。
それぞれ違う種族からなる獣人の寄り合い所帯だ。
本来、違う動物同士でできた群れがまとまるはずがない。
ではなぜこうして共同生活(?)を送っているのか?
それに対する回答も教子の中では出来上がりつつあった。
この5人から共通して感じる、もの。
教子に対してではない、"人間という存在"そのものへの、根本的な敵意。
カオル、こずえ、瑞穂はもちろんのこと。
アケミからすらも、感じられる。
紫苑にいたっては、もはや憎悪という言葉のほうが近い。
・・・・・たぶん、それは恐怖の裏返しだ。
昔、いったい何があったのか、なぜ人間相手にこのようなことをする?
復讐・・・・なのだろうか?
・・・・・恐らくそうなのだろう。人間から受けたむごい仕打ちに対する。
過去に受けた仕打ちによって刷り込まれた潜在意識下の恐怖。
そして、それを塗りつぶすために無意識に選択してしまった、いや、選ばざるを得なかった人間への憎悪と敵意。
それがこの5頭の獣人を、か細くつなげているのだ。
気になる。過去にいったい何があったのか。とっても気になる。
・・・・しかし、その詳細については、まだ尋ねるべき時ではない。
教子 「・・・・わかりました。」
教子 「こちらこそ、よろしくお願いします」
教子はごく自然に提案を了承していた。
迫害されてきた獣たちへの憐憫と庇護の感情なのだろうか。
守ってあげなくちゃ。という気持ち。
いや、この子たちの"教師"にならなければ。教子はそうも思った。
心ない人間に痛めつけられたカラダとココロを癒し、
人間との正しいコミュニケーションの方法について優しく解きほぐしてあげることのできる教師。
教師の調さん。つまり調教師。だれうま。
ふ、と紫苑が笑い、生徒会室に柔らかな空気が流れる。
紫苑 「これにて、協定は成立ね」
紫苑 「これからよろしく。調さん」
教子 「はいっ」
教子も屈託のない笑顔をニコリ、と返した。
カオルも、こずえも、瑞穂も、安堵したかのようにほほえむ。
後ろなので見えないが、アケミも同じ表情をしてるだろう。
それぞれタイプの異なる美女の笑顔に囲まれ、教子はまた違った意味でドキドキしてきていた。
紫苑 「あ、それと・・・」
不意に紫苑が声を上げた。
教子 「はい?なんですか?」
教子は諸先輩方に負けじと精一杯の美しい微笑をがんばって作っている。
顔面の完成度は敵うべくもないが。
紫苑 「その、あの・・なに?あのカチッ、てやつ」
紫苑 「クリックのことですか?」
教子はなにげなくクリッカーを見せる。
もはや警戒する必要もない。私はこの生徒会の仲間になったのだ。
紫苑 「そ、それね・・。ゴクリ・・なるほど、それが『アレ』の正体というわけ・・・」
ゴロゴロと紫苑が喉を鳴らす。
紫苑 「まぁ、もしあなたが調教師としての経験を積むことも兼ねて、獣人相手にそれを試してみたいと言うんなら、もう一回実験台になってみてやってもいいわ」
教子 「うっ・・き、昨日のように、ですか?」
教子は、昨日のアンティークデスクのように蹴り飛ばされて爆発四散する自分を一瞬想像し、ちょっと青ざめた。
ちょうどいま目の前にあるが、紫苑に蹴られた部分は、痛々しく凹んだままだ。
紫苑 「ま、まあ、あなたがやりたいんならね?」
紫苑 「私は別にまったく興味ないしむしろそういうのはどうかと思うし、ホントぜんっぜん興味ないんだけど、もしあなたがど~~してももう一回やりたいというんだったらやってもらってもまあ構わないわよ?ただし昨日みたいにみんなの前とかじゃなくてちゃんと場所を選んで、あといきなりだとこっちも困るからちゃんとムードとか考えて(めっっっちゃ早口)」
教子 「え?あ?あの、はい?」
教子 「ごめんなさい。めっっっちゃ早口すぎて、煽りとかじゃなく意味わかんなかったのでもう一回言ってもらえませんか?できればもっと簡潔に」
紫苑 「・・・ふん!もういいわよ!」
紫苑 「とにかく。改めて生徒会へようこそ。1年B組の調 教子さん」
紫苑 「いえ・・・教子。これからよろしくね」
紫苑が優雅な動作で、右手を差し出す。
握手。人間式のあいさつ。
自分はこの生徒会の正式な一員として認められたのだ。
クリックの能力のせいかそれとも、調教師としての立ち振る舞いゆえか。おそらく両方だろうけど。
突然、教子の心中に、昨日生徒会室に入って紫苑と初めて対面したときのみずみずしい気持ちが蘇ってくる。
なにかが変わりそうな予感が確信に変わる。
・・・・・ワクワクする。高揚感。
美女の獣人達に囲まれる青春。
美女が乱舞する楽園。
ハーレム。
深夜アニメ。
ラッキースケベ。
美女。美女。美女。
なにこれ。ヤバいじゃん。
即物的な語彙が教子の脳内でぽんぽんと飛び出し、ハァハァと息が荒くなってくるのを感ずる。
・・・同性的にどうなん?という無意識下の突っ込みはあえて封印して。
自身を取り巻く環境よりも、自分の内面の方向性がかなり変わりかけている事に教子自身は気付いているのかいないのか。
教子は両手を伸ばして紫苑の手を取り、握手を交わした。
想像通り、紫苑の手はめっっっちゃスベスベでめっっっちゃキレイな肌をしていた。
教子 「こちらこそ、よろしくお願いいたします!紫苑会長!」
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