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1章

06 獣臭

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紫苑 「なん、なの・・いったい・・・♥」

カオル「はぁぁ・・・はぁ・・(ブルルルッ)♥」

こずえ「ひ・・ふ・・へ・・ほぉ・・♪♥」

瑞穂 「(ゾクゾクッッ)うぐっ、うっ・・♥」

アケミ「・・・すー・・はー・・(深呼吸)」




やっぱりだ。

『クリック』が完全に響いている。

人間なのに。

人間のはずなのに。





と、同時に教子の中でおぼろげだったイメージが急激にはっきりとした輪郭を持って迫ってくる。



さっきからこの生徒会室に濃密に漂っている匂い。

・・・・・・それは、教子が嗅ぎなれた匂いだった。

「動物」たちの匂い。

いわゆる獣臭。

それぞれ、香水かなにかで紛らわしているようだが、教子の鼻はごまかせない。



ここの生徒会のメンバー。

妖怪。獣人。人狼。オオカミ男。

いや、オオカミ女?

非現実的だ。

そんなことあり得ます?この令和の時代に。




・・・しかし、動物の扱い方だったらわかる。

どんな動物でも『クリック』で完全に屈服させられる。

例外は、ない。





紫苑 「・・・・・くっ、なにか妙な技を持っているようね・・」

紫苑 「こずえ!とにかく捕まえて!微動だに出来ないように押さえつけるのよ!」

こずえ「アイサー!!」

教子 「待ってくだしあ!・・・もとい、待ってください!」


あまり普段出さない大声のせいで、やや噛みながら教子は告げる。





まだ自分の置かれた状況を完全には把握できていない。

でも、もし自分が動物の群れの中に放り込まれたのだとしたら。

その状況への対処法なら、わかる。

それは簡単・・・





(スッ・・・)

教子が不意に、手のひらを見せびらかすようにして片手を上げた。






教子 「・・・・会長、さん!」


ビクッ!とこの群れの"ボス"が反応する。



紫苑 「!・・・・・・・」

紫苑 「・・・・・なに?」





動物の集団に相対したら、まず抑えるべきは、群れのボス。

下っ端をいくら相手にしてもしょうがない。

頭さえ抑えてしまえば、"こいつら"はなにもしてこない。なにもできない。



頭の指示が無ければなにもできないからだ。

教子の予想通り、こずえは宙ぶらりんになった命令をどうすればよいのかわからず、教子と紫苑の間にキョロキョロ視線を行き来させている。







紫苑の顔は、先ほどまでの彫刻のような美しさは鳴りを潜め、「女の子」の顔になっていた。

自分を貫いた、生まれて初めての恐ろしいほどの官能にまだドギマギしているのだ。


というより、「女の子」を通り越してむしろ、「女」。

というより、「女」を通り越して、やや「メス」っぽい顔になっていた。

正直、かなりセクシュアルだ。




会長以外の他のみんなもそうだった。

それぞれタイプの違う5人の美女が顔を赤らめさせて、ハァハァと荒い息をついている。

その光景は、室内に漂う濃厚な甘い匂いとあいまって、壮絶な色気を醸し出していた。


もし、童貞中学生がこの場に居合わせたなら、即座にパンツを下ろして胡坐をかいて1人でおっぱじめてしまっているかもしれない。







・・・・・・・・・・だから私は何を考えてるんだ。

ちょっとの間に色々なことが起こりすぎて頭の整理が追っつかない。


紫苑 「・・・・・なんなのよ・・・・・話しかけておいて、シカト?焦らしプレイが好きなの?」

教子 「・・またそういう意識させるようなこと言わないでください。」






『クリッカー』での『クリック』は動物の中枢神経に直接的な影響を与える。

それは生物の生存本能に根差したものだ。

そして、メスの動物の場合、その影響は体内の内分泌ホルモン系統を強く刺激する形で現れる。



わかりやすく言うと、つまり『クリック』を食らったメスの動物が味わうのは、

強烈な-----------------『性感』。





紫苑 「(なんなの、この子・・・?)」

カオル「(さっきの感覚は一体・・?」)

こずえ「(ハラへってきたな・・・・)」

瑞穂 「(この場合どうすれば・・?)」

アケミ「(・・・・・・・・・・・・)」





だからこそ、痛みや恐怖に依る『使役』とは違って、『クリック』では動物はひどく従順になる。

飼い主に従えば、"ご褒美"がもらえる。

繰り返していくと、動物たちはおのずからしっぽを振っておねだりするようになる。





教子 「・・・すみません、会長。今日は私、帰宅させて頂きます。」

教子 「生徒会の入会に関しては、また後日相談させてください。」

教子 「おとなしく帰してくれるなら・・・・・私も何もしませんから・・・・・・・・・・。」

紫苑 「!」

紫苑 「・・・・・・・」



紫苑はむっつりとした表情でなにも言わない。

ただの獲物だと思っていた小動物の思わぬ反撃により、態度を決めかねているのだ。




目の前の相手が、自分にとって"食い物"か、はたまた"天敵"か。

野生の世界において、その一瞬の判断のミスは、生死にかかわる。

だからこそ動物は、人間のようなガムシャラで無謀な勇気は持ち合わせない。

すべてにおいて欲望とリスクを天秤にかけた打算づくで行動するのが動物だ。






動物のあつかいなら心得ている。

だったら、どうってことはない。

ココを猛獣たちがひしめくサーカスの檻の中だと思えばいいのだ。


調教師にとっては、仕事場である。






教子は、両足をカニのように動かして、ワシワシと水平移動しながらドアに向かう。

体は動物たちに向けながら、一切のスキを見せずにジリジリと出口へと向かっていく・・・・

いつでも『クリック』できるんだぞ、と示威しながら。

トラの檻から出る時の作法だ。



教子 「・・・(ジリジリ・・ジリジリ・・)」




紫苑 「・・・」

カオル「・・・」

こずえ「(ハラへった・・・・・)」

瑞穂 「・・・」

アケミ「・・・」





教子は少し平静を取り戻していた。

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