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【第七章】竜の国
61.竜の国(1)
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「ねぇ、ファウスト。詳しく聞いていなかったけれど、ここはどういった場所なの?」
ファウストの住む塔の上で、私は紅茶を嗜みながら訊いた。
ちなみにファウストの家にはコップすらなかったため、コップや皿などの生活品を持ってきて、ここに置いている。
「簡単に言えば、あの世とこの世の間だな。地図にも乗っていないし、普通の人間にはたどり着けない」
「そんないい場所、よく見つけたわね」
眠らないと来れない国。
そんな幻想的な世界で彼は生きている。
「……ねぇ、ファウスト。思ったことがあるんだけど」
「なんだ?」
「妖精や、精霊って、この世界にはいるの?」
「いるさ」
ファウストは即答した。
「現世では、有害なものが多い。空気も悪いし、なんだかんだで現世では妖精や精霊を信じない者も増えたし、そういう希少価値のあるやつらは見つかったら見世物小屋行きか、解剖行きだ。だから、幻想的な世界の住人――御伽噺に出るような住人は、よくこの現実と夢の狭間の世界に住んでいる」
「なんでそんなことになったのかしら……」
「簡単に言えば、人間と、幻想世界の住人たちとの波長が合わなくなったってことだ」
「この世界には、この世から逃げてきた幻想動物たちが沢山いる。姫さんも森とかをウロウロしてみろ。妖精なんてどこにでもいるし、姫さんも気にいると思うぞ」
「妖精が? わかったわ。カンパネラ、行ってきましょう」
私はカンパネラの手をとった。
「アーさんと冒険ですか。楽しみです」
カンパネラも楽しそうに笑みを浮かべていた。
「コートは羽織っておいたほうがいいかしら。山道だからブーツも必要ね」
ファウストの部屋に置いていたコートを羽織り、ブーツを履き替える。
「姫様、俺の部屋に私物を置きすぎじゃねぇか?」
「だって、無いと不便だもの」
と私は堂々と言った。
彼は苦言を漏らすが、嫌とハッキリ断らない。
外は雪景色だった。
白い花が綺麗に咲き誇っている。
塔の近くには森があり、その先には大きな大きな山がある。
火山なのかもしれない。とても大きい。
「ねえ、カンパネラ。森を一通り散策したら、山に行きたいわ」
「この辺だったら竜の姿になっても誰にも見られませんしね、よし、そうしましょう!」
カンパネラもワクワクしていた。
今まで怖いと思っていた迷いの森は、目印をつけることで『迷う』ことがなくなった。
ついでにファウストから、『迷わないように』とおまじないを付与された青い宝石を貰った。
これがあればいつでもファウストの塔へ戻れるらしい。
さすが500年間色んな研究していただけのことはあるわね、と私はため息をついた。
私もどこかで引き返して、600年のうちにこういう世界に辿り着いて、研究をしたりしたかった。
「アーさん、足元気をつけてくださいね」
そっとカンパネラが手を差し伸べてくれる。
私は彼の手をとる。
森の中は荒れ果てていて、大きな木の根に何度も躓きそうになる。
そうして、歩き続けて三十分くらいかかった頃だろうか――
水の音が聞こえた。
音の先には古ぼけた小さな噴水があった。
そこに、桃色の光と、青色の光が浮いていた。
『きゃーっ! もう冷たい~!』
『えーいっ! あんたが始めたんだから、お返しよ~!』
光をよく見ると、それは手のひらサイズの人だった。身体と同じくらい大きな透明の羽が生えている。蝶のような昆虫チックな羽ではなく、光の集まりのような羽だった。
彼女たちは真っ裸で水浴びをしていたようだ。
『くんくん、なにか匂いがするわ。いい匂い』
そう言うと、彼女たちは鼻でくんくんと匂いを嗅ぎながら、私たちの方を向いた。
「『妖精』……? すごい、本当に居たのね。初めて見たわ。」
私の見た妖精は、素っ裸で水浴びをしていた。
すると妖精は、顔を真っ赤に染めて――
「きゃあああああああ!!!!!」
と大声をあげた。
◆
『竜様が来るなんて聞いてないわ! あたし、服着てないわ!』
『あたしもよっ! あぁっ! お見苦しいところをごめんなさ~い!』
妖精はそう言って、飛んで逃げてしまった。
そっと足元を見ると、毛玉のようなもこもこしたものが群れて歩いている。
「あれは、ケサランパサランかしら。初めて見るわ……」
私はそっと、手を伸ばした。
ケサランパサランは一瞬、びくんっと身体全体を動かして跳ねた。
『……人? 違う、雰囲気、ファウストに、似てる……』
ビクビクと怯えながら私のことを観察してくる。
ケサランパサラン……かわいい。
毛玉に癒やされていたら……
「アーさーん!」
という悲鳴が聞こえていた。
私は顔をあげる。そこには100人ほどの妖精に抱きしめられているカンパネラがいた。
『竜様、竜様。あぁ、もういなくなったと思ってましたわ』
『きゃー! ファンですぅー! うろこ一個くださーい』
『コラッ! みんなで群れない! 竜様が困ってるでしょう!』
……すごいモテてる。
「カンパネラ、お前、この森の中だったらモテモテなんじゃないの?」
「冗談言わないで、た、たすけてくださぁい!」
私が近寄り、しっしと妖精たちを払いのける。
『なによ! この女!』
『ねぇねぇ、竜様がいるんだから、久し振りに宴会しない?』
『それよりも、ねぇねぇ、竜様、もう古竜様に会った?』
「古竜様……?」
「はじめてききます。誰ですか?」
「この世界にいる竜の王様です。普段は火山の中にいるんですが……」
カンパネラと同じ竜がいる――。
その話を聞いた時、カンパネラは私の手を強く握りしめてきた。
ファウストの住む塔の上で、私は紅茶を嗜みながら訊いた。
ちなみにファウストの家にはコップすらなかったため、コップや皿などの生活品を持ってきて、ここに置いている。
「簡単に言えば、あの世とこの世の間だな。地図にも乗っていないし、普通の人間にはたどり着けない」
「そんないい場所、よく見つけたわね」
眠らないと来れない国。
そんな幻想的な世界で彼は生きている。
「……ねぇ、ファウスト。思ったことがあるんだけど」
「なんだ?」
「妖精や、精霊って、この世界にはいるの?」
「いるさ」
ファウストは即答した。
「現世では、有害なものが多い。空気も悪いし、なんだかんだで現世では妖精や精霊を信じない者も増えたし、そういう希少価値のあるやつらは見つかったら見世物小屋行きか、解剖行きだ。だから、幻想的な世界の住人――御伽噺に出るような住人は、よくこの現実と夢の狭間の世界に住んでいる」
「なんでそんなことになったのかしら……」
「簡単に言えば、人間と、幻想世界の住人たちとの波長が合わなくなったってことだ」
「この世界には、この世から逃げてきた幻想動物たちが沢山いる。姫さんも森とかをウロウロしてみろ。妖精なんてどこにでもいるし、姫さんも気にいると思うぞ」
「妖精が? わかったわ。カンパネラ、行ってきましょう」
私はカンパネラの手をとった。
「アーさんと冒険ですか。楽しみです」
カンパネラも楽しそうに笑みを浮かべていた。
「コートは羽織っておいたほうがいいかしら。山道だからブーツも必要ね」
ファウストの部屋に置いていたコートを羽織り、ブーツを履き替える。
「姫様、俺の部屋に私物を置きすぎじゃねぇか?」
「だって、無いと不便だもの」
と私は堂々と言った。
彼は苦言を漏らすが、嫌とハッキリ断らない。
外は雪景色だった。
白い花が綺麗に咲き誇っている。
塔の近くには森があり、その先には大きな大きな山がある。
火山なのかもしれない。とても大きい。
「ねえ、カンパネラ。森を一通り散策したら、山に行きたいわ」
「この辺だったら竜の姿になっても誰にも見られませんしね、よし、そうしましょう!」
カンパネラもワクワクしていた。
今まで怖いと思っていた迷いの森は、目印をつけることで『迷う』ことがなくなった。
ついでにファウストから、『迷わないように』とおまじないを付与された青い宝石を貰った。
これがあればいつでもファウストの塔へ戻れるらしい。
さすが500年間色んな研究していただけのことはあるわね、と私はため息をついた。
私もどこかで引き返して、600年のうちにこういう世界に辿り着いて、研究をしたりしたかった。
「アーさん、足元気をつけてくださいね」
そっとカンパネラが手を差し伸べてくれる。
私は彼の手をとる。
森の中は荒れ果てていて、大きな木の根に何度も躓きそうになる。
そうして、歩き続けて三十分くらいかかった頃だろうか――
水の音が聞こえた。
音の先には古ぼけた小さな噴水があった。
そこに、桃色の光と、青色の光が浮いていた。
『きゃーっ! もう冷たい~!』
『えーいっ! あんたが始めたんだから、お返しよ~!』
光をよく見ると、それは手のひらサイズの人だった。身体と同じくらい大きな透明の羽が生えている。蝶のような昆虫チックな羽ではなく、光の集まりのような羽だった。
彼女たちは真っ裸で水浴びをしていたようだ。
『くんくん、なにか匂いがするわ。いい匂い』
そう言うと、彼女たちは鼻でくんくんと匂いを嗅ぎながら、私たちの方を向いた。
「『妖精』……? すごい、本当に居たのね。初めて見たわ。」
私の見た妖精は、素っ裸で水浴びをしていた。
すると妖精は、顔を真っ赤に染めて――
「きゃあああああああ!!!!!」
と大声をあげた。
◆
『竜様が来るなんて聞いてないわ! あたし、服着てないわ!』
『あたしもよっ! あぁっ! お見苦しいところをごめんなさ~い!』
妖精はそう言って、飛んで逃げてしまった。
そっと足元を見ると、毛玉のようなもこもこしたものが群れて歩いている。
「あれは、ケサランパサランかしら。初めて見るわ……」
私はそっと、手を伸ばした。
ケサランパサランは一瞬、びくんっと身体全体を動かして跳ねた。
『……人? 違う、雰囲気、ファウストに、似てる……』
ビクビクと怯えながら私のことを観察してくる。
ケサランパサラン……かわいい。
毛玉に癒やされていたら……
「アーさーん!」
という悲鳴が聞こえていた。
私は顔をあげる。そこには100人ほどの妖精に抱きしめられているカンパネラがいた。
『竜様、竜様。あぁ、もういなくなったと思ってましたわ』
『きゃー! ファンですぅー! うろこ一個くださーい』
『コラッ! みんなで群れない! 竜様が困ってるでしょう!』
……すごいモテてる。
「カンパネラ、お前、この森の中だったらモテモテなんじゃないの?」
「冗談言わないで、た、たすけてくださぁい!」
私が近寄り、しっしと妖精たちを払いのける。
『なによ! この女!』
『ねぇねぇ、竜様がいるんだから、久し振りに宴会しない?』
『それよりも、ねぇねぇ、竜様、もう古竜様に会った?』
「古竜様……?」
「はじめてききます。誰ですか?」
「この世界にいる竜の王様です。普段は火山の中にいるんですが……」
カンパネラと同じ竜がいる――。
その話を聞いた時、カンパネラは私の手を強く握りしめてきた。
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