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【第五章】革命家と反逆者

44.この国を変えるために大切なこと ルイス視点

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「きみはこの国に復讐をしたいのかい?」
 ペスト仮面を付けた男が、言った。

 そうだ、と俺は答えた。

「その対価に君は何を差し出す?」
 私財を、と俺は答えた。貿易で稼いだ金がたくさんある。

「足りないなぁ」

 ペスト仮面の男は呟いた。
 この男は何を欲しがっているのだろうか。金ではないのか?

「この石はまだ完全な物質じゃないんだ。だから足りないものがある。それを君には集めてもらいたい」

「足りないもの……?」

「命だ。3つ、用意してほしい。どんな命でも構わない。そのへんの路地に寝転がっている者の命でも、高貴な者の命でも。
 あぁ、それから、その命が高貴な魂を持つ者の命なら、もっと良い効能が出せるだろう。そうすれば、君は革命家になれる。自分の領土や一国の主になれるかもしれない」

 ペスト仮面の男の言い分に失笑してしまった。
 命を集めろ?
 そうしたら、この国を変えられる?

 バカバカしい話だが、成り上がりである俺には『賢者の石』というものが喉から手が出るほど欲しい。

「3つ。魂の集め方は?」

「簡単だ。吸い取ればいい……いや、これは私だからできることだな。君のような者が集める簡単な方法は一つだけ」

「……どんなことを?」

「殺せ。剣でもナイフでも銃でもなんでも構わない。この『賢者の石』を身に着けた状態で、人を殺せ」

 そう言って、男は赤い石を俺に渡してきた。
 これが『賢者の石』。

 おとぎ話などでよく聞いたことがあったが、実物を見たのは初めてだった。
 同じ赤い石のルビーなんかとは輝きが違う。
 もっと禍々まがまがしく光る石だった。

 命なら無数にある。
 パーティーに行って感じた。貴族は下を知らない。
 下の者が何を考えているのか、どんな想いを胸に抱いているのか知りもしないだろう。パンを食えずに砂利を食ったこともないだろう。

――そうだ。捧げるなら貴族たちの命を捧げればいい。

 奴らの命なら無数にある。
 ゴミを潰して、俺は成り上がる。革命家に、王に。
 この国は国王に食いつぶされてしまっている。
 だから、俺のように革命をする者がいないといけない。

 そして一人じゃ足りない。
 不満を持つものを集めて、実行する。

 けれど、仲間にこの賢者の石について悟られてはいけないと思った。
 山程の金や宝を見た時、人の気は狂う。

 それと同じような価値をもつ石は、俺のように意思の強い者が持つべきものだ。

 ある日――男爵令嬢を攫った。
「たすけて、だれか、たすけて、おねがい、おとうさま、おかあさま」

 彼女の喉をナイフで切った。

 山程の血が溢れ出た。
 
 血は赤黒かった。やはり貴族の血は汚れきっている。
 粛清しなければ。粛清しなければ。

 そしてまたある日――次は子爵の子息を攫った。

「やめろ、俺を誰だと思ってやがる。くそ、ゆるさない。絶対に……絶対に」

 同じ様にナイフで喉を切った。
 山程の血が溢れ出た。
 失血死した遺体は炭になるまで焼いて、山へ埋めた。

 そして――最後の人をどうしようかと思った。

 その時、ペスト仮面の男の言葉を思い出した。

『高貴な魂を持つ者の命』
 思い浮かんだのは二人。けれどそのうち、一人はこんな事件に巻き込みたくない。

 一人はシャターリア家の令嬢。アナスタシア。
 彼女は他人とは違った雰囲気を持っていた。
 まだ幼いのに美しく、可憐さも持ち合わせ、そして何よりも聡明であった。

 彼女の命なら、きっと賢者の石も満足するだろう。
 しかし、彼女は伯爵令嬢だ。

 だが、最近はよく護衛の男を一人だけつけて、街を歩き回っていると聞く。
 きっと護衛はパーティの時に居合わせたあの青髪の男だ。細身で背の高い男だった。
 元騎士の俺なら、あんな護衛の一人くらいなんとかなるだろう。

 俺は、俺たち願いのためならなんでもやってやる。
 もう俺は二人の人間をこの手で殺めた。手は血で汚れきってしまっている。

 だから怖いものなんてない。
 あと一人。
 あと一人を殺せば、俺は革命家になり、王になれる。

 だから、恨みはないが、アナスタシア……俺の願いのために死んでくれ。
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