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王宮へと到着すると馬車留めは混雑しており、大勢の人が集まり始めている。

少し待つと公爵家の家紋により優先的に通されて馬車を降りた。
 
その場に居合わせた酷いドレスやタキシードを着た貴族達は驚きの表情で私を見ていた。
蔑む者もいたし哀れみの目で見る者もいたが、私は気にせず会場へと1人で向かう。
 
途中、誰かに呼び止められた気がしたが、ピート達に捕まったら面倒なのでさっさと1人で入場して会場入りを果たす。
 
もうだいぶん人は集まっていて、私が入ると、あんなに騒がしかったのが嘘のように静まり返り、驚きの表情で誰もが私を見ていた。
私は誰にともなく優雅にカーテシーをしてそっと会場の隅へと移動する。
 
しばらく経つと、少しずつ会場は騒めきを取り戻して行った。
私への中傷や非難の囁きが耳へと届く。
そして噂好きで好奇心旺盛な蝶々達が群がるようにやってきた。
 
「マリッサ様。その格好は一体どうされましたの?」 

「もしかして、公爵家ともありながらお家の財政状態が厳しいのかしら?私のお父様に援助をお願いしてさしあげましょうか?」

「そんな下品な格好では婚約者を取られてしまうのではなくて?」

「私は皆さまのように美しくないので、そのようなドレスも着こなせませんし、皆さまのようなメイクも似合わないのです」
 
「まぁ。そんなことおっしゃらないで。私達が教えてあげるわ」

クスクスと笑いながら心配するふりをして嘲笑っているのだろう。
相手にする気はないが、相手も引き下がる気はないようだ。
そんなやりとりをしているとピートとアンナが駆けつけてきた。
 
「マリッサ!先に会場に入るなんてどういうことだ?僕がエスコートすると言っていただろう?!」
 
ピートは私を見ると一瞬驚いて固まったが、すぐに動き出した。
後ろにはアンナもおり、ピートが送りつけてきた趣味の悪いドレスとそっくりなものを着ている。
やはりお揃いなのかピートもドレスと合わせた色のゴテゴテで趣味が悪いタキシードを着ていた。
側から見ればピートとアンナはお揃いの格好で婚約者同士に見えるだろう。

もし私が婚約を破棄せずにピートに送りつけられたドレスを着ていたら。
アンナとお揃いのサプライズだとか、
2人を大事にしたいだとでも丸め込むつもりだったんだろうか。

回りからはマリッサとアンナは親友だと思われているからお揃いのドレスでも変に思われることはないだろうし。
 
同じドレスを着た私はアンナの引き立て役だったでしょうね。
きっとマリッサの心はとても傷付いたはずだわ。
 
「マリッサ!なんて酷い格好をしているんだ!僕が送ったドレスはどうしたんだ?!とにかく早く着替えに行くぞ!」
 
「マリッサ!一体どうしてしまったの?!さあ、王宮のドレスを貸してもらいましょう?」
 
私に群がってきた蝶々達はニヤニヤと楽しそうに私達を見ている。
 
「いいえ、私は着替えなんて必要ないわ。」
 
「なにを馬鹿なことを!僕に恥をかかせる気なのか!?」
 
「そうよマリッサ。彼の事を考えて。公爵家に入ったら彼が恥ずかしい思いをするのよ?ね、少し落ち着いて。さあ、あっちの部屋へ行きましょう」
 
「私は落ち着いているわ。」
 
ピートとアンナが代わる代わる捲し立ててくるから会場中の人がこちらの様子を伺うように静まり返っていた。
 
「いい加減にしろマリッサ。ふざけてる場合じゃない!」
 
「私はふざけてなんかいないわ。それはあなたよ。アンナに子供が出来た?
アンナを第二夫人にしてその子供を公爵家の第一子にする?そんなことすれば、公爵家が軽んじられていることを公表し恥を晒すだけ。私がそんな話を本気で受け入れると思っていたの?」
 
「な!?今ここでする話ではないだろう!」
 
「ふざけているのはあなただと教えてあげたのよ」

「マリッサ、お願いよ。こんな所で酷いわ」

「酷い?親友だなんて言いながら私の婚約者に手を出したあなたの方が酷いと思わない?それとも私を石女にしてあなたを迎え入れろと言う彼の方が酷い?」
 
「や、やめろ!」
 
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