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3 王子殿下の魔剣編

5-11 クラウド、祝勝パーティーに向かう

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 兄貴の声は辺りに響き渡った。

 兄貴の問いかけを聞いて、一斉に周りの騎士が喋り始める。

「そうだ、エルシアを見てないな」

「そういや、いないな」

「決勝の会場にはいたぞ?」

「決勝後に掛け金を換金してたな」

「かなり儲けたみたいだぜ」

「いったい誰に賭けたんだ?」

「フェリクスではなさそうだよな」

「そういえば、見かけない服を着てなかったか?」

「黒っぽい服だったよな」

 そうだ、エルシアがいない。

 ユリンナさんもいないけど。ユリンナさんはパートナーの申し込みが殺到していたので、ここにいないのも分かる気がする。

 が。

 集合場所にも来ないで賭けだなんて、エルシアは何をやってるんだよ!
 確かに、勝敗予測の賭け小屋はあったけどな!

 俺は頭を抱えてしまった。

 反省文、これ以上増えてないといいが。

 少し離れたところに、俺と同じようなポーズで頭を抱える人物がいたので、誰かと思ったら、クストス隊長だった。

 あー、間違いない。隊長も俺と同じことを考えてるな。



 兄貴の問いかけに、ヴァンフェルム団長が逆に問いかけ返す。

「ルベラス君かい?」

「そうです。ルベラス嬢に私の金章を捧げに来たのに、見あたりません。まさか、ルベラス嬢を隠してはいませんよね?」

「まさかぁ」

 引き続き意地悪な笑みを浮かべる団長。

 なんだか、嫌な予感がする。

「ですよね。では、ルベラス嬢はいったいどちらに?」

 兄貴も何かを察したのか、探るように団長の顔を見た。

「くそっ」

「フェリクス、落ち着けよ」

「これが落ち着いていられるかっての」

 まぁ、フェリクスがイラつくのも無理はないか。

 決勝で勝っていれば、フェリクスの方が順位が上だった。今ここでエルシアの行方を尋ねているのは、俺の兄貴ではなくフェリクスだったかもしれない。

 団長を探るような兄貴、兄貴にイラつくフェリクス、フェリクスをなだめる俺。

 俺たち三人の様子をおもしろそうに眺めてから、団長が一言。

「ルベラス君は休みだよ」


 シーーーーーーン


 静まり返る俺たち。周りの騎士も静まり返った。


「「ハァァァァァァア?!」」


 そして叫び声。

「凄いな、エルシア」

「祝勝パーティー、休むのかよ」

「休めば誘われなくて済むしな」

「凄いとしか言いようがないな」

 祝勝パーティーは騎士たちが勢揃いする場。俺たちにとってはその祝勝パーティーを休むなんてありえない話だ。

 て。

 あいつは騎士じゃなかったな。

 目を見開いて、普段からは考えられないほど、呆気にとられた顔をしている兄貴。

「冗談でしょう?」

「ま、ルベラス君だからね」

 団長は軽く返す。

 兄貴の方は納得が出来ない様子だ。

 まぁ、俺も同じ立場だったら同じように思うだろうな。

 必死になって優勝して、なのに誘おうと思っていた相手が休みだったなんて。悪い冗談だ。

「金章を捧げると、決勝の会場で彼女に告げたのを聞いたでしょう?」

「いいや?」

「そんなバカな!」

 これは俺も見ていたから知っている。

「兄貴、何を言ってるんだよ。何も喋ってなかったぞ」

「嘘だろ、あれが周りに聞こえないはずないのに」

「ま、ルベラス君だからねぇ」

 団長はまたもや軽く返した。




「あ、ヴェルフェルム先輩、試合お疲れさまでした!」

「あ、あぁ」

 呆然とする兄貴を残し、俺たちは第三騎士団でまとまって祝勝パーティーの会場へ。

 そこでミライラから、声をかけられた。

「あれ? ルベラス先輩は? いないんですか?」

 ミライラは当然の質問をしてくる。

 会場の中を見回してもエルシアの姿はどこにもなく、ヴァンフェルム団長の言うように、本当に休んだようだった。

「あぁ、休みだと」

「ええええええ! 信じられない!」

「だよなぁ」

 良かった。ミライラは魔術師だが、祝勝パーティーを休むのはありえないことだと、分かってくれている。

「じゃあ、ヴェルフェルム先輩、ご一緒していいですか? ご迷惑ならぜんぜんいいんですけど」

「いや、それは、俺じゃなくても」

「私、あまり知り合いがいなくて」

「それなら、まぁ」

 こんなやり取りがあり、けっきょく俺はミライラと祝勝パーティーを過ごすことになってしまった。

 これがさらなる誤解をエルシアに与えることになるとは、この時の俺は気づかなかった。




 会場内をあてもなく歩き回っていると、見知らぬ女性から声をかけられた。

「あら? あなた! ミレニア様に似てるわ! 髪の色はミレニア様で目の色はディルスそのものね!」

「え? ミレニア様ってどなたですか?」

 声をかけられたのは俺ではなく、ミライラだったようだけれど。

 ミレニア様にディルスの組み合わせなら、ディルスは王宮魔術師団の筆頭殿のことだ。

 筆頭殿はエルシアの実父。

 黒髪黒眼のエルシアを失敗作と言い放った筆頭殿は、未だにケガが完治してないらしい。

「ルベル公爵令嬢のミレニア様と、筆頭魔術師のディルスよ! 他人とは思えないほど髪と目の色が似てるわ、そっくり! あなたディルス君の子ども?!」

 髪と目の色が似ていても親子だとは限らない。
 そんなことも知らないのか、見知らぬ女性はピンクがかった金髪を揺らしながら、ミライラに話しかける。

「はぁ?」

「ミレニア様ってのは、運命の恋のヒロインなの。そうそう、うちの息子、みかけなかったかしら。騎士ではないのだけれど、魔剣で決勝まで行ったのよ! それでねぇ」

 一言で話が終わりそうもない。

「あの、すみません。そろそろ向こうに行かないといけないので」

 さりげなく割って入ったところで、案内係が最後の入場団体を読み上げた。

「北部辺境騎士団の入場です!」




 北部辺境騎士団は、その名の通り、北部の辺境領で魔物と戦う歴戦の猛者。

 魔物の『大噴出』が起きれば、全力で『世界の穴』を塞ぎ、魔物の脅威から人々を守っている。

 黒をベースとした騎士服に身を包むゴツい体つきの男たちが集団で入場してきた。少数だが女騎士も同行している。

 俺を負かして優勝したヤツもここの所属だし、俺の母親であるヴェルフェルム団長を瞬殺したのは、ここの隊長だった。


 カツッ、カツッ、カツッ


 靴を鳴らし、周りの人々を威圧で蹴散らすようにして、中央に進んでいく黒い騎士たち。
 周りもさっと身を引くので、自然と道がひらけていった。

 集団の中央にいる黒髪黒眼の男が、件の隊長のようだ。
 ガッチリした筋肉質の体躯。背丈は俺とそれほど変わらないのに、獰猛な獣のような雰囲気だ。
 そんな男が黒髪のパートナーを連れ、中央を堂々と歩いている。

 王者の風格といえばいいのだろうか。男が発する圧は、その辺の騎士とはまるで違った。あれで隊長格だとは、にわかには信じがたい。

「威圧感て言うんでしょうか、もの凄い圧を感じます。怖いです」

 騎士の俺も、気圧されるんだから、魔術師のミライラにとってはキツいものがあるはずだ。
 俺は北部辺境騎士団から視線をはずす。これ以上、彼らを眺めていても仕方がない。

「行こうか、ミライラ」

 俺はそう話しかけると、ミライラを連れて第三騎士団に合流したのだった。
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