運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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3 王子殿下の魔剣編

5-10 クラウド、祝勝パーティーに向かう

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 剣術大会のすべての部門が終わり、俺の所属する第三騎士団は、一ヶ所に集まっていた。
 団長は伝達事項があるようで、副団長とともに本部に呼ばれている。

 俺たちは先に、今日の成果報告を行っていた。

 まとめてみると、第三騎士団で一番良かったのがフェリクスの準優勝で、後は団長と俺が八強。さらに後は十六強がチラホラ出ているくらい。

 今日の結果が騎士としての成果や実績につながるとは聞いていたけど、詳細がよく分からない。

 ミライラの件で周りからあまりよく思われてないことを悟った俺は、バカにされるのを覚悟して、恐る恐る、同じ隊の騎士に尋ねた。

 騎士たちは「なんだ、クラウドはよく分かってなかったのか」とか「大会前に確認しとけよ」と揶揄されたものの、意外と親切に教えてくれる。

「一番重要なのは昇格の査定に加味されることだ。お前、副隊長代理で研修受けてるくらいだから、少なくとも第五隊副隊長は確実だな」

「このタイミングで昇格にならなくても、査定にプラスされるからなぁ。後々、第一騎士団や近衛騎士団、本部異動なんてこともありだぞ」

「闘技会のメンバー選考にも影響してくるんだ。闘技会への出場はマイナス評価は受けないし、良いこと尽くしだから。出させてもらえるなら出ておけよ」

 などなど。

 第五隊の副隊長になれば、エルシアの上司になれる。
 クストス隊長の確認は要るが、エルシアの単独行動を自己判断で抑えられる、はずだ。

 ホッと息を吐く。

 しかし、安心するのはだいぶ早かったのだ。




 がやがやと雑談をしながら、団長を待っていると、見知った顔がやってくる。

「あ、兄貴」

 飄々とした様子でやってきたのは二番目の兄貴だ。

「残念だったね、クラウドにフェリクス」

「くそっ」

 声だけしか聞こえないが、俺の後ろでフェリクスが悪態をついている。

 そうだった。

 これから始まる祝勝パーティー。優勝者は自分の望む相手をパートナーとして連れていける。

 俺が負けた相手、北部辺境騎士団の若手は、パートナーにしたい相手でもいたのか死に物狂いだったな。
 結果、そいつが下級部門の優勝者になったので、今頃は相手を誘って嬉しそうにしているんだろう。

 あの相手に勝ててたら、もしかしたら俺が優勝していたのかも、と考えると再び悔しさがこみ上げてきた。

 そこへやってきたのはヴァンフェルム団長だ。さっそくフェリクスが捕まった。

「やぁやぁ、フェリクス君。やったなぁ、準優勝。騎士上級部門で、ノア君やクストス君たちを抑えての決勝進出。私も鼻が高いよ」

 バンバンと背中を叩かれている。ニコニコしているが、かなり痛そうだ。

「お邪魔してます、ヴァンフェムル団長」

「やぁやぁ、カイエン君。君もおめでとう。騎士中級部門で優勝だってね。次は上級かなぁ」

 兄貴は団長の手をスルッと逃れて、俺の横に立った。

「ありがとうございます、それで……」

「にしても、君たちの母上は残念だったなぁ」

 団長が意地の悪そうな顔をして、ニヤリと笑った。

「そうですね。今回、騎士特級部門は大荒れだったようですね」

 笑顔が凍りついた兄貴に代わって俺が答える。

 その場にいた他の第三騎士団の騎士たちは、気まずそうな顔をしながら、それでも興味津々でこちらを窺っていた。

 そんなところへ、呑気に質問をするフェリクス。

「俺、ケガの手当てで特級部門は見れなかったんですが、どうなったんですか? 決勝はヴェルフェルム団長と誰だったんですか?」

 唖然とする周り。

「フェリクス、マジかよ」

「フェリクス、あれを見なかったのか」

「フェリクス、ヤバいだろ」

 周りから口々に声が飛び、フェリクスは一気に『凄い物を見そびれたヤツ』になった。

「そんなに凄かったのか?」

 フェリクスは本当に最後の試合を見てないようだ。キョロキョロして周りの反応に驚く。

 すかさず、ヴァンフェルム団長が意地の悪い顔で解説を始めた。

「決勝は、ヴェルフェルム団長と北部辺境騎士団の隊長でなぁ。瞬殺だったんだよなぁ、カイエン君」

 話を振られて嫌そうな顔をする兄貴。

 俺もあの試合は衝撃が強すぎて、未だに忘れられない。

「まぁ、ヴェルフェルム団長なら隊長格なんて瞬殺ですよね」

 フェリクスの言葉に俺も同意する。普通の相手だったら、そうなっていたと俺も思う。

 しかし、相手は普通の相手ではなかった。

「逆だよ、逆。辺境の隊長が第一騎士団の団長を瞬殺したんだ。見物だったよ」

「くっ」

 歯噛みする兄貴。

「ほんとかよ、クラウド」

「あぁ。圧倒的だった。王都の外にはあんな人がいるんだな」

 あの試合の時。俺は呆然としてしまって、悔しいとか残念だとか、そういう気持ちが持てなかった。あまりにも圧倒的で。

 俺の母親も、化け物じみていると思っていたけど。上には上がいた。

「まぁ、あいつは規格外だからなぁ」

 ヴァンフェルム団長は、優勝した辺境の隊長を馴染みの相手のように話す。
 そういえば、団長もあの隊長に負けたはずだ。

「団長、知り合いなんですか?」

 あの凄腕の隊長のことをもっと知りたくて、ヴァンフェルム団長に声をかけたが、兄貴の声が俺の声をかき消した。

「ヴァンフェムル団長、そんなことより、ルベラス嬢はどこでしょう?」

 そうだった。兄貴はエルシアにパートナーの申し込みをしに来たんだった。
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