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3 王子殿下の魔剣編
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「その話はあの二人を止めてからにしましょうか」
「そうだな」「そうね!」
カスカスの二人は、しばらく身体を休めていたおかげか、魔剣を振り上げられるくらいには回復していた。
その証拠にさっそく、戦いの続きをやってる。
「そっちの魔剣を僕に渡せ」
「そっちこそ、宝の持ち腐れだね」
ガツーーーーーーン
通常の人に比べて回復も早い。
二人とも、それなりに魔剣を使いこなしていそうだ。
「その魔剣をよこせ!」
「君こそ魔剣をよこせ!」
ガツーーーーーーン
なのに、口から出てくるのは相手の魔剣を取り上げること。
自分が手にした魔剣といっしょに訓練する方が、断然、良いのに。
どうしてこの二人は、ちょっとの努力さえ惜しむのか。理解できない。
私はセラフィアスといっしょに、頑張ってきたよな。
手にした杖を見る。
つかつかと二人に近づき、そして、
ゴスッ、ゴスッ
手にした杖を振り下ろした。
「エルシア、つよーーーい!」
「………………………………いいの、それ? 第二王子と大公子だよ。殴って気絶させるって、ありなのかな?」
ガクッとひざをつき、スルッと手から魔剣が落ちる。それから、カス王子とカス大公子はバタンとそのまま横倒しになった。
私は二人を見下ろす。
「か弱い、」
「ルベラス君、ぜんぜん、か弱くないな」
「ただの魔術師に、」
「エルシア、ただの魔術師じゃないよね」
「ちょこっと殴られて気絶するなんて、」
「ちょこっとじゃないな、ゴスッといったな」
「騎士として鍛錬が足りてないのではないですか?」
チョコチョコと突っ込みが入ったけど、私は最後まで言い切った。
地面に倒れ伏す二人はピクリとも動かない。
二人の周りだけ普通に明るいので、よくよく見ると、それぞれが携帯用の魔導灯を持っていた。
服装も、いつもの煌びやかなものではない。比較的地味で動きやすそうなもの。
しかも同行者はいない。辺りを見回しても、魔力の糸で探っても見当たらない。二人とも一人。
「そこは同意だけどぅ」
「ルベラス君の方こそ、騎士並なんだよなぁ」
ヴァンフェルム団長もユリンナ先輩も、ブツブツのこぼしながら、こちらに近寄ってきた。
「私は保護者に鍛えられましたので」
「あいつも余計なことをするよなぁ」
「とりあえず、連れて行きましょう」
こうして地下墓地への侵入者は、思いのほかあっさりと、捕まえることが出来たのだった。
ジャリジャリジャリジャリ
それから先は、さっさと事が運ぶ。
地下墓地から出るのは、普通に地下墓地の入り口からでいい。ここへ来たときはかなり面倒だったけど、帰りは楽だ。
ジャリジャリジャリジャリ
灯りも、今はカスカスの魔導灯がある。ヴァンフェルム団長には魔導灯を持って、先頭を歩いてもらっていた。
今回、引きずるのは二人。二人だとセラフィアスは搬送用に使うことも出来ないので、引っ込んでもらう。
ジャリジャリジャリジャリ
セラフィアスを人型に顕現させて、歩かせることも出来なくはないけど。基本、セラフィアスは自力で移動するのを好まない。なにせ、杖だし。
抱っこだ、おんぶだと言われても困るので、引っ込んでもらうのが得策だった。
ジャリジャリジャリジャリ
「いや、ルベラス君。人を呼ぼう、人を。ほら、引きずったら擦り傷だらけになるだろう? て、もうなってるか。それでもその二人。高貴な人なんだからねぇ」
団長が先頭で何か言ってるけど、一仕事終えて気分のいい私は、まったく気にしなかった。
ユリンナ先輩も魔導灯を持っていて、私の隣を歩く。
「それにしてもエルシア。よく、男性二人を引きずれるわね~」
「簡単ですよ? ユリンナ先輩、コツを教えましょうか?」
「えー。私も出来るかなぁ。うふ」
ジャリジャリジャリジャリ
「あ。そんな感じです。上手いですね、ユリンナ先輩」
「うふ。そうでしょう、そうでしょう」
私の場合は襟首のところに、セラフィアスをひっかけて引きずって歩く。
引きずるのが二人の場合はムリなので、ちょっと工夫を。
縄を胸から脇の下を通して背中で結ぶと引きずりやすくなる。これを二人分。それぞれ結んだ縄を右手と左手に持ち、ずりずりと歩く。
縄には拘束と軽量化の魔法を仕込んだので、私より小柄で力もなさそうなユリンナ先輩でも、楽々、引きずることが出来た。
ジャリジャリジャリジャリ
それでも、成人男性二人を引きずるとなると、コツがいる。
「ユリンナ先輩って器用ですよね」
「うふふ。そうでしょう、そうでしょう」
そのコツを、瞬く間に自分のものにしたユリンナ先輩。笑顔がかわいい。
「いや、だから、ダイモス君も。ほら、人を呼ぶよ。だから、引きずっちゃダメだって。あーあー、お願いだから、そのまま動かないで」
団長は何事か騒ぎながら、駆けていってしまった。
団長が向かう先は、外部からの光が差し込んでいる。どうやら、あそこが出口のようだ。
「急いで警備の騎士を呼んでくれ!」
団長の怒鳴り声が響いてくるのを、どこか上の空で聞きながら、私は出口に向けて歩いていった。
「そうだな」「そうね!」
カスカスの二人は、しばらく身体を休めていたおかげか、魔剣を振り上げられるくらいには回復していた。
その証拠にさっそく、戦いの続きをやってる。
「そっちの魔剣を僕に渡せ」
「そっちこそ、宝の持ち腐れだね」
ガツーーーーーーン
通常の人に比べて回復も早い。
二人とも、それなりに魔剣を使いこなしていそうだ。
「その魔剣をよこせ!」
「君こそ魔剣をよこせ!」
ガツーーーーーーン
なのに、口から出てくるのは相手の魔剣を取り上げること。
自分が手にした魔剣といっしょに訓練する方が、断然、良いのに。
どうしてこの二人は、ちょっとの努力さえ惜しむのか。理解できない。
私はセラフィアスといっしょに、頑張ってきたよな。
手にした杖を見る。
つかつかと二人に近づき、そして、
ゴスッ、ゴスッ
手にした杖を振り下ろした。
「エルシア、つよーーーい!」
「………………………………いいの、それ? 第二王子と大公子だよ。殴って気絶させるって、ありなのかな?」
ガクッとひざをつき、スルッと手から魔剣が落ちる。それから、カス王子とカス大公子はバタンとそのまま横倒しになった。
私は二人を見下ろす。
「か弱い、」
「ルベラス君、ぜんぜん、か弱くないな」
「ただの魔術師に、」
「エルシア、ただの魔術師じゃないよね」
「ちょこっと殴られて気絶するなんて、」
「ちょこっとじゃないな、ゴスッといったな」
「騎士として鍛錬が足りてないのではないですか?」
チョコチョコと突っ込みが入ったけど、私は最後まで言い切った。
地面に倒れ伏す二人はピクリとも動かない。
二人の周りだけ普通に明るいので、よくよく見ると、それぞれが携帯用の魔導灯を持っていた。
服装も、いつもの煌びやかなものではない。比較的地味で動きやすそうなもの。
しかも同行者はいない。辺りを見回しても、魔力の糸で探っても見当たらない。二人とも一人。
「そこは同意だけどぅ」
「ルベラス君の方こそ、騎士並なんだよなぁ」
ヴァンフェルム団長もユリンナ先輩も、ブツブツのこぼしながら、こちらに近寄ってきた。
「私は保護者に鍛えられましたので」
「あいつも余計なことをするよなぁ」
「とりあえず、連れて行きましょう」
こうして地下墓地への侵入者は、思いのほかあっさりと、捕まえることが出来たのだった。
ジャリジャリジャリジャリ
それから先は、さっさと事が運ぶ。
地下墓地から出るのは、普通に地下墓地の入り口からでいい。ここへ来たときはかなり面倒だったけど、帰りは楽だ。
ジャリジャリジャリジャリ
灯りも、今はカスカスの魔導灯がある。ヴァンフェルム団長には魔導灯を持って、先頭を歩いてもらっていた。
今回、引きずるのは二人。二人だとセラフィアスは搬送用に使うことも出来ないので、引っ込んでもらう。
ジャリジャリジャリジャリ
セラフィアスを人型に顕現させて、歩かせることも出来なくはないけど。基本、セラフィアスは自力で移動するのを好まない。なにせ、杖だし。
抱っこだ、おんぶだと言われても困るので、引っ込んでもらうのが得策だった。
ジャリジャリジャリジャリ
「いや、ルベラス君。人を呼ぼう、人を。ほら、引きずったら擦り傷だらけになるだろう? て、もうなってるか。それでもその二人。高貴な人なんだからねぇ」
団長が先頭で何か言ってるけど、一仕事終えて気分のいい私は、まったく気にしなかった。
ユリンナ先輩も魔導灯を持っていて、私の隣を歩く。
「それにしてもエルシア。よく、男性二人を引きずれるわね~」
「簡単ですよ? ユリンナ先輩、コツを教えましょうか?」
「えー。私も出来るかなぁ。うふ」
ジャリジャリジャリジャリ
「あ。そんな感じです。上手いですね、ユリンナ先輩」
「うふ。そうでしょう、そうでしょう」
私の場合は襟首のところに、セラフィアスをひっかけて引きずって歩く。
引きずるのが二人の場合はムリなので、ちょっと工夫を。
縄を胸から脇の下を通して背中で結ぶと引きずりやすくなる。これを二人分。それぞれ結んだ縄を右手と左手に持ち、ずりずりと歩く。
縄には拘束と軽量化の魔法を仕込んだので、私より小柄で力もなさそうなユリンナ先輩でも、楽々、引きずることが出来た。
ジャリジャリジャリジャリ
それでも、成人男性二人を引きずるとなると、コツがいる。
「ユリンナ先輩って器用ですよね」
「うふふ。そうでしょう、そうでしょう」
そのコツを、瞬く間に自分のものにしたユリンナ先輩。笑顔がかわいい。
「いや、だから、ダイモス君も。ほら、人を呼ぶよ。だから、引きずっちゃダメだって。あーあー、お願いだから、そのまま動かないで」
団長は何事か騒ぎながら、駆けていってしまった。
団長が向かう先は、外部からの光が差し込んでいる。どうやら、あそこが出口のようだ。
「急いで警備の騎士を呼んでくれ!」
団長の怒鳴り声が響いてくるのを、どこか上の空で聞きながら、私は出口に向けて歩いていった。
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