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3 王子殿下の魔剣編
2-10
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ソニアとマリーアンがアルゲン大公子の天幕に帰るのを見届けた後、私は頭の中で状況を整理した。
「えーっと。フォセルさんとクラウドは、先輩後輩の関係以上お友だち未満ってところですかね」
静まり返る周囲。
間違ったことは言ってないのに、周りの反応が薄い。薄すぎる。
「さっきの話を、よく、そうまとめたわねぇ」
「普通はお友だち以上恋人未満とか言うだろ」
反応は薄いのに、ユリンナ先輩とオルドーの評価は厳しかった。
シュンとなる心を奮いたてて、私は次の話題に移る。
「うーん。先輩後輩は友だちより距離があるから、恋バナは当分、聞けそうもないか」
「いい加減、恋バナから離れろよ」
「だって。クラウドの恋バナっておもしろそうだし」
けっきょくのところ、私は誰からも恋バナを聞かせてもらっていない、ってことについ最近になって気がついた。
クラウドの恋バナにこだわるつもりはない。
とはいえ。
恋人の『こ』の字も見当たらないオルドー、不特定多数に貢がせまくっているユリンナ先輩に比べて、クラウドと後輩魔術師との恋愛はすんなり事が運んでいるように見える。
だから、一番期待が出来るのがクラウドだ。
「クラウドも優柔なんだよな。もっとハッキリさせればいいのに」
「ハッキリって何が?」
オルドーがお茶を飲んでぼやく。
新たに入れてもらったお茶が飲み終わらない。
突然、ユリンナ先輩が立ち上がった。
「ねぇねぇねぇねぇねぇ。よく考えてみたら、学院出身なら、みーーーんな、先輩後輩ってことにならない?」
うん、まぁ、そう言われてみればそうだ。
騎士団も他の王宮勤務の人も、大半を学院出身者が占めているから。
「ユリンナさんは、今、そこかよ」
「ユリンナ先輩、鋭い」
「エルシアが鈍いんだろ?」
私たちの他愛のない会話は続く。
「よしっ。見つかったか?」
「シグナルト様、どこにも見あたりません!」
のんびりとお茶をする私たちの天幕とは違って、アルゲン大公子の天幕はバタバタとしていた。
アルゲン大公子の配下だという騎士たちが何人も入れ替わり立ち替わり、天幕に押し掛けている。
アルゲン大公子はご令嬢たちに囲まれてお茶と会話を楽しんでいたようだけど、周りの雰囲気はかなりイラッとしたものになってきた。
大公子は周りのイラつきに気がついていない。
良く言えば堂々と、悪く言えば場違いなほどのんびりと、騎士たちに指示を出す。
「ないはずはないだろう。お告げの場所はプラエテリタの森なはずだ」
アルゲン大公子は立ち上がり天幕の外に出ると、騎士たちに向けて声を張った。
「各員、もう一度。念入りに探せ!」
「だーかーらー、あれよあれ!」
ユリンナ先輩もアルゲン大公子と同じように立ち上がって声を張っている。
「ユリンナさん、口に物入れたまま喋るなよ」
「ゲホンゲホン。先輩後輩だとかファンだとか言いながら、仲良しアピールして見せつけたかっただけよぅ!」
内容は向こうとはだいぶ違うけど。
「えー、私たちに見せつけて、どうなるんですか?」
「どうにもならないよなぁ?」
アルゲン大公子を追い返すために、二回目のお茶会に突入した私たちは、二回目のお茶と二回目のお菓子の消費に追われていた。
どうして、予備の分のお菓子があるかなぁ。
ぱくっ
私はご令嬢の作法を無視して、お菓子にかぶりつく。
「エールーシーアー、絶対、あなたに見せつけたかったのよぅ!」
「私、無関係ですけど」
ユリンナ先輩は完全に酔っ払いみたいになっているし。
興奮するユリンナ先輩をあしらいながら、私とオルドーはひたすらお茶を飲んでお菓子を食べる。
もぐもぐ。
「ほら、一応、同じ隊で仲良しな感じでしょぅ?」
「同僚ですからね」
ぱくっ、もぐもぐ。
「ほら、クラウド君もエルシアのこと、気にかけてるし」
「私の見張り役ですからね。おかげで反省文が増えなくて助かってますけど」
もぐもぐもぐもぐ。
「ええー、本当に本当にエルシアとクラウド君て、何にもないの?」
いつにも増して、ユリンナ先輩がしつこい。
「ないですね」「ないな」
しつこいユリンナ先輩の意見を、オルドーまで否定した。
ただの同僚なので、何かあるわけないだろうに。
それでも、クラウドと特別な仲であることを否定すると、ちょっと心が痛む。
あれ?
心が痛む?
痛くなる必要はないのに、おかしいな。
「嘘ーーー」
「あったとしても、クラウドだけだな」
「ちょっとオルドー君、それじゃつまらないじゃないのぅ!」
早く帰りたいのに、ユリンナ先輩はまだ会話を続けたいようだった。
アルゲン大公子の天幕の方は、まだまだ捜索とお茶会が続いている。
「よしっ。見つかったか?」
「シグナルト様、どこにも見あたりません」
「シグナルト様、頑張ってくださいませ」
「捜し物をするシグナルト様も素敵ですわ!」
うん、アルゲン大公子は指示出ししてるだけだよね? 応援する必要あるかな?
「恋愛は、ユリンナさんをおもしろがらせるためにするわけじゃないからな」
「いーやー、私のことをおもしろがらせてー!」
私がアルゲン大公子の天幕を窺っている間にも、ユリンナ先輩の話は続いていた。
今度はオルドーに絡んでいる。
だから、逆に質問してみた。
「ユリンナ先輩は何かないんですか、恋バナ?」
ぴたっ
二人の動きが止まる。
オルドーがジロッとユリンナ先輩を睨んだ。
「あるだろ、たくさん」
「へーーーー。たくさんあるんだ!」
そういえば、ユリンナ先輩の具体的なアレコレは聞いたことがない。
「えへ」
「第一隊のヴォードフェルム副隊長と観劇いったり、第二の筋肉隊と飲み会したり」
「おぉ、モテる女!」
「えへへへへ」
オルドーの追求に対して、笑って言葉を濁すユリンナ先輩を、じぃやさんまでが追い込んだ。
「早くどなたかお一人に決めていただきたいものです」
「じぃやがぼやいてるぞ、ユリンナさん」
「えへへへへへ。そのうちにねー」
ユリンナ先輩が話を誤魔化して、ようやく、一段落。
そろそろ撤収かな。
ゴロゴロと雷の音もするようになってきたから。
「これだけ探しても見つからないところをみると、ここではなかったようだな」
「きっと、他で見つかりますわ、シグナルト様」
「シグナルト様は全力を尽くしましたわ。元気を出してくださいまし」
「ありがとう、レディたち」
アルゲン大公子の方から会話が聞こえてくる。どうやら向こうも撤収するようだ。
念のため言っておくけど、捜索に全力を尽くしたのは配下の騎士だから。
アルゲン大公子は指示を出してご令嬢とお茶を飲んでいただけだから。
こちらもそろそろ撤収という雰囲気の中で、膝の上の犬が一声吠えた。
「ワン」
「ところでエルシア。その犬、どうするのぅ?」
「飼い主、いないみたいなんで。このままにしておくのも、捨てるみたいで嫌なんです」
犬だって、ひとりは嫌だろう。ましてや捨てられてひとりだなんて。
私は犬の背を撫でる。
でも、うちには猫がいるし、これ以上ペットは増やせない。
どうしたものかとユリンナ先輩に相談すると、救いの手は意外なところから差し伸べられた。
「えーっと。フォセルさんとクラウドは、先輩後輩の関係以上お友だち未満ってところですかね」
静まり返る周囲。
間違ったことは言ってないのに、周りの反応が薄い。薄すぎる。
「さっきの話を、よく、そうまとめたわねぇ」
「普通はお友だち以上恋人未満とか言うだろ」
反応は薄いのに、ユリンナ先輩とオルドーの評価は厳しかった。
シュンとなる心を奮いたてて、私は次の話題に移る。
「うーん。先輩後輩は友だちより距離があるから、恋バナは当分、聞けそうもないか」
「いい加減、恋バナから離れろよ」
「だって。クラウドの恋バナっておもしろそうだし」
けっきょくのところ、私は誰からも恋バナを聞かせてもらっていない、ってことについ最近になって気がついた。
クラウドの恋バナにこだわるつもりはない。
とはいえ。
恋人の『こ』の字も見当たらないオルドー、不特定多数に貢がせまくっているユリンナ先輩に比べて、クラウドと後輩魔術師との恋愛はすんなり事が運んでいるように見える。
だから、一番期待が出来るのがクラウドだ。
「クラウドも優柔なんだよな。もっとハッキリさせればいいのに」
「ハッキリって何が?」
オルドーがお茶を飲んでぼやく。
新たに入れてもらったお茶が飲み終わらない。
突然、ユリンナ先輩が立ち上がった。
「ねぇねぇねぇねぇねぇ。よく考えてみたら、学院出身なら、みーーーんな、先輩後輩ってことにならない?」
うん、まぁ、そう言われてみればそうだ。
騎士団も他の王宮勤務の人も、大半を学院出身者が占めているから。
「ユリンナさんは、今、そこかよ」
「ユリンナ先輩、鋭い」
「エルシアが鈍いんだろ?」
私たちの他愛のない会話は続く。
「よしっ。見つかったか?」
「シグナルト様、どこにも見あたりません!」
のんびりとお茶をする私たちの天幕とは違って、アルゲン大公子の天幕はバタバタとしていた。
アルゲン大公子の配下だという騎士たちが何人も入れ替わり立ち替わり、天幕に押し掛けている。
アルゲン大公子はご令嬢たちに囲まれてお茶と会話を楽しんでいたようだけど、周りの雰囲気はかなりイラッとしたものになってきた。
大公子は周りのイラつきに気がついていない。
良く言えば堂々と、悪く言えば場違いなほどのんびりと、騎士たちに指示を出す。
「ないはずはないだろう。お告げの場所はプラエテリタの森なはずだ」
アルゲン大公子は立ち上がり天幕の外に出ると、騎士たちに向けて声を張った。
「各員、もう一度。念入りに探せ!」
「だーかーらー、あれよあれ!」
ユリンナ先輩もアルゲン大公子と同じように立ち上がって声を張っている。
「ユリンナさん、口に物入れたまま喋るなよ」
「ゲホンゲホン。先輩後輩だとかファンだとか言いながら、仲良しアピールして見せつけたかっただけよぅ!」
内容は向こうとはだいぶ違うけど。
「えー、私たちに見せつけて、どうなるんですか?」
「どうにもならないよなぁ?」
アルゲン大公子を追い返すために、二回目のお茶会に突入した私たちは、二回目のお茶と二回目のお菓子の消費に追われていた。
どうして、予備の分のお菓子があるかなぁ。
ぱくっ
私はご令嬢の作法を無視して、お菓子にかぶりつく。
「エールーシーアー、絶対、あなたに見せつけたかったのよぅ!」
「私、無関係ですけど」
ユリンナ先輩は完全に酔っ払いみたいになっているし。
興奮するユリンナ先輩をあしらいながら、私とオルドーはひたすらお茶を飲んでお菓子を食べる。
もぐもぐ。
「ほら、一応、同じ隊で仲良しな感じでしょぅ?」
「同僚ですからね」
ぱくっ、もぐもぐ。
「ほら、クラウド君もエルシアのこと、気にかけてるし」
「私の見張り役ですからね。おかげで反省文が増えなくて助かってますけど」
もぐもぐもぐもぐ。
「ええー、本当に本当にエルシアとクラウド君て、何にもないの?」
いつにも増して、ユリンナ先輩がしつこい。
「ないですね」「ないな」
しつこいユリンナ先輩の意見を、オルドーまで否定した。
ただの同僚なので、何かあるわけないだろうに。
それでも、クラウドと特別な仲であることを否定すると、ちょっと心が痛む。
あれ?
心が痛む?
痛くなる必要はないのに、おかしいな。
「嘘ーーー」
「あったとしても、クラウドだけだな」
「ちょっとオルドー君、それじゃつまらないじゃないのぅ!」
早く帰りたいのに、ユリンナ先輩はまだ会話を続けたいようだった。
アルゲン大公子の天幕の方は、まだまだ捜索とお茶会が続いている。
「よしっ。見つかったか?」
「シグナルト様、どこにも見あたりません」
「シグナルト様、頑張ってくださいませ」
「捜し物をするシグナルト様も素敵ですわ!」
うん、アルゲン大公子は指示出ししてるだけだよね? 応援する必要あるかな?
「恋愛は、ユリンナさんをおもしろがらせるためにするわけじゃないからな」
「いーやー、私のことをおもしろがらせてー!」
私がアルゲン大公子の天幕を窺っている間にも、ユリンナ先輩の話は続いていた。
今度はオルドーに絡んでいる。
だから、逆に質問してみた。
「ユリンナ先輩は何かないんですか、恋バナ?」
ぴたっ
二人の動きが止まる。
オルドーがジロッとユリンナ先輩を睨んだ。
「あるだろ、たくさん」
「へーーーー。たくさんあるんだ!」
そういえば、ユリンナ先輩の具体的なアレコレは聞いたことがない。
「えへ」
「第一隊のヴォードフェルム副隊長と観劇いったり、第二の筋肉隊と飲み会したり」
「おぉ、モテる女!」
「えへへへへ」
オルドーの追求に対して、笑って言葉を濁すユリンナ先輩を、じぃやさんまでが追い込んだ。
「早くどなたかお一人に決めていただきたいものです」
「じぃやがぼやいてるぞ、ユリンナさん」
「えへへへへへ。そのうちにねー」
ユリンナ先輩が話を誤魔化して、ようやく、一段落。
そろそろ撤収かな。
ゴロゴロと雷の音もするようになってきたから。
「これだけ探しても見つからないところをみると、ここではなかったようだな」
「きっと、他で見つかりますわ、シグナルト様」
「シグナルト様は全力を尽くしましたわ。元気を出してくださいまし」
「ありがとう、レディたち」
アルゲン大公子の方から会話が聞こえてくる。どうやら向こうも撤収するようだ。
念のため言っておくけど、捜索に全力を尽くしたのは配下の騎士だから。
アルゲン大公子は指示を出してご令嬢とお茶を飲んでいただけだから。
こちらもそろそろ撤収という雰囲気の中で、膝の上の犬が一声吠えた。
「ワン」
「ところでエルシア。その犬、どうするのぅ?」
「飼い主、いないみたいなんで。このままにしておくのも、捨てるみたいで嫌なんです」
犬だって、ひとりは嫌だろう。ましてや捨てられてひとりだなんて。
私は犬の背を撫でる。
でも、うちには猫がいるし、これ以上ペットは増やせない。
どうしたものかとユリンナ先輩に相談すると、救いの手は意外なところから差し伸べられた。
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