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3 王子殿下の魔剣編

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 そういうわけでプラエテリタの森にやってきたは良いんだけど!

「なんか、賑わってるわねー」

「ですね」

 プラエテリタの森はつい最近、小さいけれど『世界の穴』が開いて、少なかったけど魔物が噴出して、ちょっとした騒ぎになって、一時期、閉鎖されていた。

 そんな騒ぎがあったとは思えないほど。プラエテリタの森は、たくさんの人でごった返していたのだ。

 そもそも今日は雨が降りそうな曇天。曇って日が陰っている程度ではなく、今にも降りそうな真っ黒な雲が垂れ込めているのだ。
 お世辞にも散策日和とはいえないし、お茶会日和でもない。

 だいたい、プラエテリタの森は『森』と名前がついてはいるけど、綺麗に整備された公園である。

 道になっているところは石畳で舗装され、そうでないところも、玉砂利やウッドチップで覆われていて、雑草も丁寧に抜き取られていた。

 ところどころに、低い木のテーブルと丸太のイスが置かれたり、同じような石造りのものがあったり。どう見ても、人が憩う公園のような作りになっている。

 なので、たくさんの人で賑わっていても不思議ではない空間なのに、どこかしら、違和感があった。

 なんだろう?

 いつもとは違う賑わいをみせるプラエテリタの森を眺めて、私は考え込む。

 まぁ、こんな雨が降りそうな雲行きで、賑わっていること事態、違和感バリバリではあるんだけどね。

 私の右隣でユリンナ先輩が騒ぐ一方、左隣ではオルドーがユリンナ先輩に文句を飛ばしていた。

「なんか賑わってる程度じゃないよ。もの凄く賑わってるだろ、こんなヤバい天気なのに」

 オルドーもこの賑わいぶりをおかしく思っているようだ。

「こらこら、オルドー。先輩に対してその口の聞き方はダメよぅ!」

 ともあれ、私が考え込む両隣でこれなので、集中できない。耳を塞いで見たけど、うるささはとくに変わりなく、私を挟んでの二人の会話は続く。

「なんか俺。フェリクスさんとクラウドの役目を、まとめて押しつけられただけなような気がするんだけど」

「気のせい気のせい。まだまだ若いんだから、つまんないこと、気にしなーい」

「でも、この混み合いようじゃ、捜索にならないだろ」

 オルドーはそう言って、木々の合間を指差した。

「ほら。ちゃんとした道どころか、道じゃないとこまで、うろついてるヤツらがいるじゃないか」

 うん、確かに。

 そうだ。なんか違和感あると思ったのはこれか。

 プラエテリタの森は整備された公園なので、道以外のところを歩き回る人はいない。

 よーく考えてみて欲しい。

 散策する道がある公園で、あえて整備されてないところを散策する人がいるかどうか。

 しかもプラエテリタの森があるこのエリアは、貴族の住居が中心の旧市街と裕福な市民が暮らす新市街の間に位置するところ。

 そんなところで、あえて木の根っこの周りだとか、木と木の狭い間だとかを歩き回るの人たちの存在。
 普段、この森で見ないような行動をする人たちがいるから、なんか違和感を感じたのか。

 とはいえ、私もそうそう頻繁にプラエテリタの森に来てるわけじゃないから。
 普通の行動かどうかの本当のところは断言できないので、それとなくユリンナ先輩に話を振った。

「ユリンナ先輩。あんなところを歩き回る人って、いましたっけ?」

 ユリンナ先輩はオルドーと私に目を向けると、はっきりと言い切る。

「そうね! あんな、足の短い人はいないわね! 普段はもうちょっと足が長くてイケメンな人ばかりよ!」

「「足の長さじゃなくて」」

 思わず、私とオルドーの声が揃った。

「でも、安心して!」

 ユリンナ先輩がにっこりと、いや、にたりと笑う。

「ぜんぜん安心できない」

「逆に不安しかない」

 私とオルドー、二人の意見が一致した。

 私たちに構うことなく、ユリンナ先輩は話を進める。

「ムフフフフ。こんなこともあろうかと、ちゃーーーんと準備しておいたわよぅ!」


 パン、パン、パン


 突然、ユリンナ先輩が手を叩いた。

 お世辞にも良いとは言い難い天候の下、ユリンナ先輩と私たちの前に、ざざざっと整列する人々の姿。

 全員、黒のスーツでびしっと決めている。が、年齢層はちょっと高めの初老チームだ。

 しかし、年齢を感じさせない足取りで、中央の人物がすっと一礼をする。

 背が高くシルバーグレーの髪を持ち、黒い色硝子をはめ込んだ眼鏡をかけたその人物は、見た目通りの渋い声で話しかけてきた。

「ユリンナお嬢さま、お待ちしておりました」

「「お嬢さま?!」」

 ギギギギッと首をユリンナ先輩に向ける私。

「ユリンナ先輩、誰ですか?」

「私のお友だちー!」

「嘘だろ、年齢差考えろよ」

 明るく答えるユリンナ先輩の声は、すぐさま、オルドーによって斬り捨てられる。

 すると、ユリンナ先輩は無言で合図をした。

 シルバーグレーのお爺さんは、さらにさささっと私とオルドーに近づき、胸元から白いカードをささっと取り出す。

「私共、こういう者です」

 白いカードは、ダイモス家ユリンナ専属チームと銘打たれていた。

「はぁあ?」「専属チーム?」


 バッ


 白いカードは、すぐさま、横から奪い取られる。奪い取ったのはユリンナ先輩だ。

「ダメよぅ! お友だちってことになってるでしょぅ!」

「ははっ、これは失礼いたしました。やり直ししてもよろしいでしょうか?」

 悪びれず、落ち着いた笑顔のお爺さん。
 こちらも「どうぞ」としか言いようがない。

 お爺さんは、今度は別の白いカードを私たちに示した。今度のカードには、ユリンナさんのお友だちと書いてある。

「私共、こういう者です。今回、ユリンナさん直々に応援要請をいただきまして」

「もちろん、団長にも許可もらってるわよぅ」

「いったい何の許可だよ?」

 オルドーは訝しげな表情をユリンナ先輩に向けたけど、団長が許可してくれることなら問題はないと私は踏んでいた。

「許可あるなら、いいか」

「いいのか、これ?」

 なのに、オルドーはまだ訝しげな表情を変えようとしない。

「円滑に探索をするための下準備を、私共で取り仕切らせていただきました」

「ささっ。オルドー・フェルアス様、エルシア・ルベラス様。どうぞこちらへ」

 シルバーグレーのお爺さんの後ろから、これまた年配のおじさんとおばさんが現れて、私たちを誘導する。

 案内された先は、場所取りされた石造りのテーブル。クロスが引かれ茶器と茶菓子が用意済みだった。

 そしてその場にいたものに私は首を傾げる。

「あれ?」

「エルシア、どうした?」

 さきほどからずっと、訝しげな表情を崩さないオルドー。
 私はあるものを指差して、オルドーの質問に質問で返した。

「探す犬ってこの犬?」

 私が指差す先には、真っ白で毛がフワフワしたかわいらしい犬が、不思議な煌めきを放つ青い宝石のついた金の首輪をして、座っている。

 クーン

 甘えるように鼻を鳴らすその犬は、

「やった、それだ。すぐ見つかったな!」

 間違いなく、これから探すはずの犬だった。
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