運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

文字の大きさ
上 下
133 / 322
3 王子殿下の魔剣編

1-10 クラウド、同僚から責められる

しおりを挟む
 荒れた三聖の部屋から五強の部屋へと移動し、そのまま三聖の展示室の外の建物の、さらに外までやってきた。

 三聖の展示室前の広場には、第三騎士団から応援の騎士がやってきていて、研修生を順に並ばせている。

 三聖の部屋で助けた後輩の魔術師、ミライラ・フォセルは、相当怖かったようで、まだ小刻みに震えていた。

 落ち着かせようと彼女の肩に手をおこうとして、ふと、何か忘れていることに気がつく。

「あれ? そういえば、」

 俺はここにきて、ようやく、大事な忘れ物に思い至った。

「エルシアは?」

 マズい。もの凄くマズい。
 あのエルシアを置き去りにしてしまった。

 修復を頼んで、ひとりで大丈夫か?とは尋ねたが、あれからだいぶ時間が経っている。その間、ずっとエルシアをひとりで行動させてしまっていた。

 顔から血の気がさーーっと引いていく。

 少しの間、そばを離れるだけのつもりだったのに。

 それに、クストス隊長からもヴァンフェルム団長からも、絶対にエルシアから目を離すなと言われてたのに。

 この前だって、俺がエルシアから目を離していなければ。

 後悔しても仕方ない。エルシアを探さないと。そう思って、三聖の展示室前の広場をぐるっと見回す。

 でも、どこにもいない。

 エルシアはいったいどこに…………?

 王宮魔術師団の筆頭殿と対峙したときのことが思い出される。最近の中では一番、嫌な記憶だった。

 目をつぶると、あの時のエルシアの姿が脳裏に浮かぶ。

 と、その時。

「うちの魔術師殿なら、まだ三聖の部屋に残っているが、どうかしたか?」

 背後から声をかけられた。

 振り返るとそこには三聖の部屋で警備をしていた二人。俺の三年先輩と同期の騎士だった。

 三聖の展示室の警備は、現場を離れることはしない。なのに、この二人は展示室前の広場で研修生の整理をしている。

「いったいどうして、ここに?」

「あぁ、俺たちのことか?」

 先輩騎士は落ち着いた様子だ。

「うちの魔術師殿の指示で、全員、外に出すため、いっしょに出てきたんだ。
 念のため、五強の警備に魔術師殿のことは頼んであるけど、なるべく早く戻らないとな」

 かいつまんではいるが、事の次第を教えてくれる。

 先輩騎士の話では、俺が後輩の面倒を見ながら外に避難させている間に、エルシアは警備の騎士全体に指示を出したようだった。

 しかし、なんであいつだけ、三聖の部屋に残ったんだよ。

 その疑問にはもう一人の騎士が答える。

「うちの魔術師殿はな、クラウドが、その子とイチャイチャしている間に、三聖の展示室の点検と修復をやってくれてるんだ」

 引っかかるような言い方をされて、俺はすぐに言い返した。

「俺の方は、助けたお礼を言われてただけだよ」

「そうです、イチャイチャだなんて」

 俺が助けた後輩も弁護してくれたが、なんだか言い訳をしているようで、ばつが悪い。

 それ以上、言葉を続けられないでいると、先輩騎士から想像もしてなかったことを言われる。

「助けたお礼? なんでお前が言われるんだ?」

「いやだって、」

 壊れた破片だとか落ちてくるところを助けたのは俺だし、と続けようとしたところに、もう一人の騎士が俺の言葉を遮った。

「あそこで三聖の部屋が荒れないよう、研修生に被害が出ないよう、身体を張ってたのはうちの魔術師殿だろうが!
 お前はどさくさに紛れて、その子を自分の方へ抱き寄せただけだろ!」

 噛みつくような物言い。

「それは、」

 俺はここに至って、この二人から敵意、とまではいかないにしろ、好意的には思われてないことに気がつく。

 あぁ。俺、他人の感情には敏いと思っていたのに、鈍感だったんだな。

「まったく。うちの魔術師殿も魔術師殿だよな。散々、好き放題言ってたヤツらなんだから、少しは痛い目にあわせてもいいのに」

「副隊長候補に抜擢されてるからって、いい気になるなよ、お前」

 二人から酷い言葉を浴びせられるが、今は何を言い返しても言い訳にしかならない。

 悔しさを噛みしめながら、俺はじっと黙っていた。拳をぐっと握りしめる。

 エルシアなら、わざとムカつくことを言われると、感情豊かにプリプリと怒ったり、まったく意に返さず表情一つ変えないこともあったり。

 エルシアは、その場その場で見せる姿がぜんぜん違っていて、何を考えているのか読み切れないところもある。
 でも、相手に対して真正面に向き合うところに好感がもてた。

 後輩のミライラは、というと、さきほどとは違って今度は何も言い返さなかった。

 さきほど言い返したときの様子から、自分が口を挟めば、俺が余計に不利になると判断したらしい。

 俺と同じように、ぐっと拳を握りしめていた。




 警備の二人は俺たちが何も言い返さないのを見て取ると、お互いに小さく頷く。

「俺たちはうちの魔術師殿から指示を受けてる。クラウドは研修生を研修部に連れていってくれ」

 先輩騎士が俺に研修生の移動を命じる。

 しかし、緊急事態の場合、命令系統はその場で一番高いポジションの人間が行うものだ。
 この場には団長も隊長もいないので、通常なら副隊長代理の俺になる。

「勝手に指示を割り振るのは、」

「うちの魔術師殿からの指示だと言っただろ?」

 またもや、話を遮られた。

「三聖の展示室は、うちの魔術師殿しか修復出来ないことは知ってるよな。だから今は、うちの魔術師殿の指示の方が上なんだよ」

 が、続く内容は納得のいくものだった。

「団長や隊長にも報告済みだし、研修部にも研修生を戻らせる旨は連絡済みだ」

 そのうえ、何から何まで手配済み。返す言葉もない。

 俺は後輩のミライラを従えると、研修生の集まっている方に赴く。

「みんな、集まってくれ」

 声をかけると全員が静かに集まってきた。

 こんな俺でも後輩たちからの人望はあるらしい。というか、後輩たちからの人気しかないのか、俺。

 密かに愕然としながら、後輩の研修生たちを研修部へと引き連れていくのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。 そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。 そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。 「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」 そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。 かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが… ※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。 ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。 よろしくお願いしますm(__)m

王太子殿下はきっと私を愛していない。

haruno
恋愛
王太子殿下の婚約者に選ばれた私。 しかし殿下は噂とは程遠い厳しい人で、私に仕事を押し付けてくる。 それでも諦めずに努力をするも、殿下の秘書が私を妬んでいるようで……

さようなら、わたくしの騎士様

夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。 その時を待っていたのだ。 クリスは知っていた。 騎士ローウェルは裏切ると。 だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚

ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。 ※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭
恋愛
帝国から嫁いで来た正妻キャサリンと離縁したあと、キャサリンとの間に出来た娘を捨てて、元婚約者アマンダとの間に出来た娘を嫡子として第一王子の婚約者に差し出したオルターナ公爵。 しかし王家は帝国との繋がりを求め、キャサリンの血を引く娘を欲していた。 妹が入れ替わった事に気付いた兄のルーカスは、事実を親友でもある第一王子のアルフレッドに告げるが、幼い二人にはどうする事も出来ず時間だけが流れて行く。 本来なら庶子として育つ筈だったマルゲリーターは公爵と後妻に溺愛されており、自身の中に高貴な血が流れていると信じて疑いもしていない、我儘で自分勝手な公女として育っていた。 完璧だと思われていた娘の入れ替えは、捨てた娘が学園に入学して来た事で、綻びを見せて行く。 視点がコロコロかわるので、ナレーション形式にしてみました。 お話が長いので、主要な登場人物を紹介します。 ロイズ王国 エレイン・フルール男爵令嬢 15歳 ルーカス・オルターナ公爵令息 17歳 アルフレッド・ロイズ第一王子 17歳 マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢 15歳 マルゲリーターの母 アマンダ パトリシア・アンバタサー エレインのクラスメイト アルフレッドの側近 カシュー・イーシヤ 18歳 ダニエル・ウイロー 16歳 マシュー・イーシヤ 15歳 帝国 エレインとルーカスの母 キャサリン帝国の侯爵令嬢(皇帝の姪) キャサリンの再婚相手 アンドレイ(キャサリンの従兄妹) 隣国ルタオー王国 バーバラ王女

処理中です...