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2 暗黒騎士と鍵穴編

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 出来立てのタルトを一口食べ、間違いないことを確かめてから、私はこの場にいる人たちに違いが分かった旨、声をかける。

 タルトの違いの謎は、きっと、タルト消失に関わる一連の事件の謎を解く鍵となる。そう思って、私は全員に伝えることにした。

 それに、王女殿下側もタルト消失事件の被害にあっているし。今回、タルトの違いが分かったのも、王女殿下側のおかげでもあったし。

 私が説明しようとしたとき、フルヌビのお姉さんが気を利かせ、別室に案内しようとしたけど私は断った。さっさと説明してしまいたかったから。

 厨房の作業用テーブルを借りてタルトを食べていたので、テーブルの上はとてもゴチャゴチャしていて。そんなところで説明だなんだとやるのを、お姉さんは心苦しく思ったのだろうな。

「第一号で焼いたタルトは、魔力の香りがします」

「「?!」」

 私がそう説明すると、予想通り、みんなざわついた。ざわつきを無視して説明を続ける。

「タルトを焼き始めるところから見せてもらいましたけど。この魔導オーブン第一号は、地盤の魔力を吸い上げて、動力に転換させています。
 だから、普通の魔導オーブンより、魔力が濃厚なんです」

「魔力が濃厚? 魔力が濃厚だと、どう変わるんだ?」

 クストス隊長のもっともな質問に、私はさらに説明を加えた。

「焼きあがったタルトがうっすら、地盤の魔力を帯びてます。そのため、タルトから魔力の香りがするんです」

「「…………………………。」」

 全員が真顔で私の説明を聞く。

 魔力が濃厚だとか、魔力を帯びるとか、魔力の香りがするだとか、魔術師以外には取っつき難い内容にもかかわらず、だ。

 みんなは説明を聞きながら、自然と手が腹のところを押さえている。

 まぁ、そうなるだろう。今、私が説明している魔力を帯びたタルトがそこにあるのだから。

 私はみんなを安心させるべく、さらにさらに説明を続けた。

「普段から、私たちはいろいろな自然の魔力を身体に取り込んで生活しています。地盤の魔力も同様。まぁ、地盤の魔力は他の自然の魔力より強力ですが。
 ですので、タルトがうっすら魔力を帯びていても、普通に食べる程度なら、害はありません」

「本当に害はないんだろうな。俺、けっこう、フルヌビのタルトを食べてるんだ」

 クストス隊長がしつこく確認してきたので、私は逆に確認する。

「けっこう食べてるって言っても、食べられる量に限度がありますよね?」

「訂正する。十年くらい、週に三日は必ず一個は食べてる」

 食べ過ぎじゃない?

「けっこう食べてるわね」

「けっこうヤバいですね、クストス隊長」

 ほら、私だけでなく、王女殿下やクラウドまで引いてる。

「…………たぶん、大丈夫です」

「たぶん? たぶんなのか?」

 そう言われても。詰め寄るクストス隊長に私は困った顔で答えた。

「…………専門外なんで」

「エルシアの専門てなんだよ?」

「鎮圧」

 鎮圧のセラの専門が鎮圧以外あるわけないだろうに。
 ジト目でクストス隊長を見ると、クストス隊長も思い当たったのか「あぁ、そうだったよな」という納得した顔をしている。

 それでも自分の身が大丈夫なのか心配なようで、さらに私に詰め寄った。

「それじゃあ、エルシア以外で詳しい人はいないのか?」

「いますけど」

 こういう知識関係のものはケルビウスや、その主のケルの専門だ。

 そもそも、こういう解析関係もケルの専門なんだよな。なんで私がやってるんだろう。専門家にまかせれば良かったな。

 と、ここまで考えてから、クストス隊長に思考を戻す。

「き、聞いてみてくれないか? 魔力を食べても大丈夫かどうか?」

「現に、今、健康でしょう? 大丈夫じゃないですか」

 微妙におどおどしているクストス隊長に向かって、私は断言した。

 ケルが専門家だったとしても、今ここにいて、この事件を追っているのは私だ。

「そんなの分からんだろう!」

「まぁ、そういうわけで、謎は解けましたね」

 謎。つまり、王宮で焼いたタルトとフルヌビで焼いたタルトの違いは、魔導オーブン第一号が原因だったということ。
 そして、フルヌビのタルトは魔力菓子だったということになる。

「別の問題が生じたよな?」

「だから健康被害は出ていませんよね?」

「調べてみないと分からんだろう」

「無闇に騒ぐと、フルヌビが風評被害を受けますよ」

「ぐぐぐぐぐぐ」

 クストス隊長はフルヌビファン。なので、フルヌビの評判を盾にして脅せばクストス隊長は黙るのだ。最大限に利用しよう。

「で、エルシア。鍵穴や消失事件に関わる謎も解けたということでいいか?」

「たぶん」

 そう。鍵はフルヌビのタルト。

 普通のタルトが消えるのと、地盤の魔力を帯びた魔力菓子のタルトが消えるのとでは大きな違いがある。

「なら、戻りながら説明してもらうぞ」

「うん、その時間があればね」

「それはいったい、どういう意味だよ?」

 意味ありげな言い方になってしまったけど、そう言ったのには理由があった。

 しれっと発動させている《感知》は未だに有効で、タルトの魔力以外にも《感知》してしまっている物があったのだ。




 パンパン


 王女殿下が手を打った。

 全員が王女殿下を見る。

「ともかく、食べても問題ないなら、せっかくだし焼き立てをいただきましょう!」

 焼きあがったタルトはまだまだ残りがあった。王女殿下の言葉に我に返って、みんな、タルトを手に取る。

 さすがに侍女さんたちと護衛の二人は見ているだけだったので、残りのタルトは私たちの物となった。

 けれども、そうそうゆっくりもしていられない。

 なぜなら、

「クストス隊長、第二騎士団、暗黒隊より伝令がありました。例の場所で穴が見つかったそうです。第二騎士団と王宮魔術師団が、現地に向かっています」

 フルヌビに第五隊の伝令が飛び込んできたから。

「分かった。それで?」

「ヴァンフェルム団長の命で、第五隊もそこに合流するようにと。暗黒隊からも要請があったようです」

「他の隊員は、もう、向かったんだな?」

「はい。ヴァンフェルム団長が連れて向かいました。クストス隊長たちも合流してください」

 伝令の言葉を聞き、クストス隊長は私を見る。

「つまり、こういう意味か」

 私の《感知》が反応したのは、フルヌビに流れる地盤の魔力の細々とした支流、それを汲み上げる魔導オーブン第一号、そこで焼かれて地盤の魔力を帯びた魔力タルト、の他にもう一つ。

 地盤の魔力が、見えない鍵穴を通ってゆっくり別の方へと流れていく様子。

「まぁ、タルトでも食べながら、向かいましょう」

「そんな時間ないだろ、説明しながらだ」

 私はヤレヤレという仕草をして、クストス隊長の後に続いた。
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