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2 暗黒騎士と鍵穴編

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 振り切れた王女殿下と私の間に入って、仲裁を始めたクストス隊長は、さっそく頭を抱えて小言を繰り出し始める。

「俺はなぁ、王女殿下とエルシアの仲裁のためにここに来たんじゃないんだが」

「クストス隊長、エルシアの騒ぎを聞きつけてきたんじゃないんですか?」

「違うに決まってるだろ。昼休憩で帰ってきただけだ。さっさと昼を済ませて、フルヌビの見張りに戻るからな」

 と言ってるのに、クストス隊長はちっともランチを注文しない。

 王女殿下が持ち込んだタルトを食べて、お茶を飲むだけ。その顔がニマニマしているのを私は見た。この目で見た。確かに見た。

 その向かい側で、王女殿下はプリプリ怒っている。

「偽物だなんて失礼よ! 焼いた場所が違うだけで、後はフルヌビと同じなのよ!」

 プリプリ怒ってかわいいのは、十三歳までだと思う。

「材料も作り方も、同じなんですか?」

 私はそんな王女殿下をなるべく刺激しないように話しかける。もはや手遅れかもしれないけど。

「フルヌビの二代目にお願いして、王宮の菓子厨房でタルトを焼いてもらったのよ! 材料、レシピ、作り手まですべて間違いなくフルヌビクオリティよ!」

「凄い、権力の乱用」

「だって、フルヌビの焼きたてタルト、食べてみたくない? みたいでしょ?
 フルヌビの本店でないと食べられない焼きたてタルトが王宮で食べられるの! もう、最高でしょ!」

「案外、動機は大したことなかった」

 唖然とする話を聞かされる私。

 脇に静かに控えている侍女軍団を見ると、そろってこくんと頷く。王女殿下の言葉に間違いはないようだ。

 とすると、おかしい。

 私は取り分けられたタルトを手に取る。

 ぱくっ

 うーーーーーん、やっぱり、何か違うんだよねぇ。

「ところで、エルシア。これが偽物ってどういうことだ? 見た目、香り、味、食感。どれを取っても間違いなく、フルヌビのタルトだぞ?」

 私の隣に座るクストス隊長がおかしなことを言い出した。何その、詳しさ。

 ギギギッとクストス隊長に顔を向ける。

「え? クストス隊長。そこまで同じだって分かるんですか?」

 私の偽物発言も、私の感覚でのものだから、偉そうなことは言えないけど。クストス隊長の発言はどんな根拠があるのだろうか。

 対して、クストス隊長は自信を持って答える。

「当然だろう。俺が何年、フルヌビのタルトを食べていると思っているんだ」

「クストス隊長、本当にフルヌビ、好きだよな」

「このタルトが偽物だとは思えない。俺の感覚すべてが、間違いなくフルヌビだと認めている。一ファンとして看過できないぞ、エルシア」

 もの凄く真剣な表情でタルトを語るクストス隊長。

「なんて言うか、何か、違うんですよね」

 ぱくっ

「同じだろ?」

 ぱくっ

「同じよね?」

 ぱくっ

「いや、俺にはよく分からないです」

 唯一、タルトを手にしてないクラウドだけが返答を避けた。

 私は別の皿に盛られたタルトを、取り皿に取ってもらう。

 ぱくっ

「あ、これが本物のフルヌビです」

 ぱくっ

「変わらんぞ!」

 ぱくっ

「変わらないわよ!」

「だから、俺にはよく分からないですって」

 今回はクラウドもタルトに手を出したが、首を傾げている。

「香りが微妙に違いますよ」

 私は侍女軍団を見た。

 侍女さんの一人が私たちの食べているタルトの説明をすると、意外なことが分かった。

「そちらはフルヌビ本店で焼き上げたタルトにございます」

 てことは、

「こちらは王宮の菓子厨房で焼き上げたタルトにございます」

 なるほど。

「「え?」」

「作り方に違いはあるの?」

 王女殿下は同じだと言っていたけど、これは何か違いがありそうな予感。

 侍女さんたちが顎に手を当てて、ひそひそ何か相談していたと思ったら、ぱっと一列に戻る。

「しいて申し上げるとすれば、魔導オーブンでしょうか?」

 一人が答えた。

「フルヌビ本店の魔導オーブンは、リーブル筆頭魔術師様が製作したオリジナルで、しかも第一号です」

 次の一人が説明をする。

「他の魔導オーブンでは出せない味だとか言われていて、フルヌビでも、タルトは第一号の魔導オーブンでしか作っていないそうです」

「王宮の菓子厨房は、最新の改良型魔導オーブンを使用しております。量産品ですが上位種類になりますし、使いやすく改良されております」

 さらに他の侍女さんたちが補足をしてくれた。

 これは、第一号と量産品との間に何か違いがありそうだ。

「見せて」

「「はい?」」

「魔導オーブンを、でございますか?」

「そう、王宮の菓子厨房の」

 魔導オーブンに違いがないとしたら、後は、菓子厨房そのものに原因があるかもしれない。

 魔導オーブンそのものに何かあるとは思わなかったので、フルヌビの厨房しか確認しなかったことが悔やまれる。

 ともあれ、まずは王宮の菓子厨房だ。

「今すぐでございますか?」

「今すぐ」

「「かしこまりました」」

 私の依頼を受け、侍女軍団が動いた。
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