運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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2 暗黒騎士と鍵穴編

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「とくにめぼしい物はなかったな。調査資料の通りだったし。円になるように適当に選ばれた場所だったとか?」

 目的の場所を全部回り終え、くたくたになって第三騎士団に帰ってきた私に、クラウドは励ますように声をかけた。

 朝から出かけて、帰ってきた今の時間は遅いお昼。

 事件があった現場だけはない。

 クラウドが言ってたように、ここで事件が起きたら円になるなぁという、仮想の現場を何ヶ所か見繕って行ってきたのだ。

 それだけ行けば時間がかかるはず。

 お腹が空いて思考が霞む私でも、クラウドの発言に、思わず突っ込みを入れてしまう。

「え? クラウド。本気でそんなこと、言ってるの?」

「え? だって、第二騎士団の調査資料の通りだっただろ? 他に何かあったか?」

 唖然とする私に、クラウドも同じく唖然とした表情を返してきた。

「ごろごろ、抜け落ちがあったけど?」

 話がまったく噛み合わない。

「え?」

「え?」

 私たちは互いに顔を見合わせた。





「つまり、地盤の魔力が流れていたり、魔力溜まりになっている場所だったってことか」

 クラウドが牛肉たっぷりのスープを口に運びながら、私の話を簡単にまとめる。

 昼と夜の合間の時間なので、通常のおかずは残っていなくて。一日通して提供されている日替わりスープを二人分注文して、遅いお昼にしていた。

 クラウドはともかく、私はこんな時間に普通に食べると夜が食べられない。

 なので、スープ以外の私の分はクラウドにあげた。クラウドも自分の分のスープとパンとサラダだけでは物足りなかったようで、私の分ももりもり食べている。

 私もスープを口に運びながら、クラウドに答える。

「全部じゃないけどね。それに地盤の魔力の本流じゃなくて、支流のさらに支流みたいな感じ」

 うん、牛肉がホロッと崩れるくらい柔らかくて、とても美味しい。

「よく、分かったな」

「人から発していたり漏れている魔力なのか、魔導具からのものか、魔結晶や魔鉱石なのか、地盤の魔力なのか。それぞれ特徴が違うから」

 うん、スープも牛肉の旨味が溶け込んでいて、とても美味しい。

「普通は区別がつかないんだけれど、エルシア嬢はよく分かるわよね」

「あぁ、まったくだ」

 うん? 昼と夜の合間の食堂には、私とクラウド以外、誰もいなかったよね?

「クラウド、誰と話してるの?」

「え? 誰って? あれ?」

 疲れすぎていて気がつかなかったけど、食堂は甘い匂いと、微かながら木属性の元気な魔力が漂っていた。

「わたくしよ!」

 木属性の杖を持つ元気な人といえば、この人だ。

「「王女殿下?!」」

「エルシア嬢、わたくしがお茶をしに来てあげたわよ!」

 私とクラウドが座るテーブルの真横に、王女殿下がバーーンと現れた。
 面倒なのでいっそのこと退治したい。

「忙しいから、お茶会のお誘いをお断りしたのに」

「お茶をするくらいなら、問題ないわ!」

 私が問題なんだって!

 相変わらず、こちらの都合などまるで考えない王女殿下は、ホホホと高らかに笑い続ける。

 あー、これ、退治しちゃダメかなぁ。

 すでに私の業務の迷惑になってるんだけどなぁ。

「さぁ、後はお願いするわ!」

「「はい、御意にございます」」

 王女殿下の声に合わせて、ささささっと現れる侍女軍団。いつものお茶会よりも人数が増えてる。正規メンバー全員集合させたのか。

 いや、ここでお茶会やるつもり?

 固まるクラウド。私もスプーンを口にくわえたまま、侍女軍団の動きを眺める。

 侍女軍団、第五隊の騎士より統制がとれていて、きびきびしてない?

 て、眺めている場合じゃないわ。

「問題だらけですよね? ここ、王宮ではなく、騎士団の棟なんですが?」

「あら? 王族がお茶会を出来ない場所なんて、この世には存在しないのよ?」

「凄い理屈」

「エルシアより、ムチャクチャだよな」

「カス王子の妹だからね」

 この傍若無人ぶりを見て、クラウドもさすがに私の発言を不敬だとは言わなかった。だよねー

 うん、本当に申し訳ないけど、やはり血筋は血筋。王女殿下とカス王子は性格がよく似ている。
 王女殿下の魔法の才は王太子殿下に似たんだろうな。他も似ていれば良かったのにね。

「第三騎士団の食堂だろうが、わたくしがやろうと思えば、どこだってエレガントなお茶会会場になるんだから!」

 王女殿下の吠えるような指示の元、あっという間に食堂の一角が、お茶会スペースへと変貌する。

 王女殿下の侍女軍団が選んだ場所は、窓際の外が見える例のスペースだ。

 外の景色は真っ茶色の高い壁なんだよな。真っ茶色の壁を見ながらお茶会なんて出来ないよな。

「エレガント?」「どの辺が?」

 そう思ったことが口から出た。クラウドもあの景色は知っているらしく、私と同じような感想が口から出る。

「ほら座って座って! 仕事をしながらお菓子が食べられるのはいい事でしょ!」

 王女殿下にごり押しされて、まずはクラウドが移動した。

「うぉっ!」

 何やら呻くクラウド。

「凄いぞ、エルシア」

「そうでしょう、そうでしょう! とてもラブリーでエレガントでしょう!」

 ラブリーでエレガントとまでは、クラウドも言ってないけど。でもまぁ、何やら凄そうな雰囲気ばかり伝わってくる。

「早く座ってみろよ」

 急かすクラウドに促され、私も移動した。食べ終わったスープの食器はすでに戻されてしまっているので、仕方ない。

 案内されたのはクラウドの向かい側の席。無心になって座る。

 すると、窓から見えるのは茶色の壁、ではなく。

「えぇっ?! 花がもりもり?」

 青いパルヴァステラとイリースの花がところ狭しと、真っ茶色の壁の前に所狭しと飾られていたのだ。

 これが権力の無駄遣いというヤツか。

「ほら、凄いだろ。あの殺風景な壁と同じだとは思えないよな」

 意外と綺麗な花にご機嫌なクラウド。王女殿下の(侍女軍団の)仕事を手放しで誉めちぎった。

「そうでしょう、そうでしょう! わたくしに感謝することね!」

 侍女軍団の仕事が凄いだけで、王女殿下は何一つ寄与していないのに、やたら自慢げにしている。

 クラウドが手放しで誉めるから、さらに王女殿下は気をよくしているし。

 いまさら、水を差すようなことも言えないので、王女殿下を代表と見立ててお礼を言っておいた。

「うん、ありがとう。王女殿下」

「なんだか、声にありがたみがこもっていないわね」

 だって花に関して言えば、どちらかというと迷惑寄りだもんね、これ。クラウドは喜んでるけどね。

「さぁ? 気のせいですよ」

 だから、適当に私はごまかしたのだ。ありがたく思ってないわけではないので。
 その証拠に、私の目は周りから輝いて見えているはずだったから。

 王女殿下が『お茶会』と称しているのだから、出来る侍女軍団が、花を飾るだけのはずがなく。
 目の前のただの食堂のテーブルは、刺繍されたクロスがかけられ、お茶のカップとティーポットが用意されていた。
 もちろん茶請けのお菓子も準備万全。

 さきほどからの甘い匂いは、焼きたてのお菓子の匂いだったというわけで。

 王女殿下の合図とともに、カップにいいタイミングでお茶がいれられ、お茶会が強制開催となる。

 まぁ、お菓子食べられればいいか。

 ここまで来ると、文句を言う気力もない。

「今日は焼きたてもあるのよ!」

 嬉々とする王女殿下の視線の先にあるのは、フルヌビのタルト。

 あー、クストス隊長やユリンナ先輩も呼んであげたいものだ。

 そう思いながら、出来る侍女軍団に取り分けられたフルヌビのタルトを目の前にする。

 うん?

 私は首を傾げた。

 何か違う?

 王女殿下やクラウドを見ても気づいてはない様子。

「ねぇ、このタルトなんだけど。フルヌビのタルトの偽物?」

 一瞬の沈黙の後、

「なんですってぇぇぇぇ!」

 王女殿下が振り切れた。

 うん、ちょっと言い方を間違えたかな?

 私が自分の言い方を後悔したのは、フルヌビから戻ったばかりのクストス隊長が、騒ぎを聞きつけてやってきた後だった。
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