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2 暗黒騎士と鍵穴編
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けっきょく、私が魔術大会の決勝を見てなかった件については、うやむやとなる。
なにしろ、王女殿下の機嫌が悪い。
「本当にあの傲慢魔術師は嫌になるわ」
「王女殿下も大概だと思いますけど」
「はぁああああ? 何か言ったかしら?」
「いや、別に」
加えて、いつも以上に口も悪い。
「ちょっと魔法が出来るからって」
その上、力も入っている。王女殿下が両手で握りしめた扇から、バキバキッという出てはいけない音が出た。
「王女殿下は召喚魔法系ですし、リグヌムも木属性なので、補助や支援系なんですよね」
「そうですわよ。攻撃系が得意なわけではありませんわ」
「それに、向こうは木属性に合わせて対策をしてきたんだから。まぁ…………仕方ないよね」
負けても仕方ないよね、と言いそうになって、肝心な言葉はしっかりと飲み込む。
その後、飲み込むのに集中しすぎて、うっかり素の口調が出たのをソニアに指摘された。
「エルシア、言葉使いが崩れてますわ」
「あぁ、いけない」
チラッと王女殿下を見たが、王女殿下はとくに気にしていなさそう。
ただし、両手で持った扇からは、
ブチンッ!
と出てはいけない音がして、扇が真っ二つになっていた。ヤバい。
真っ二つになった扇を投げ捨てて、くるっと私に視線を合わせる王女殿下。
投げ捨てられた壊れた扇は、ささっと侍女のみんなが回収していく。素早い。
じゃなくて。侍女のみんなの身体能力を誉めている場合じゃない。私が、なんか狙われている!
「ところで、エルシア嬢は出ていなかったじゃないの!」
わわわっ、これは八つ当たり的なヤツ!
「何、言ってるんですか?」
「だって、エルシア嬢が出れば、あの傲慢魔術師なんてぱぱーっと倒してくれたわよね!」
シーーーーーン
私とソニアは思わず口をつぐむ。
「王女殿下、正気ですか?」
「王女殿下、システムを分かってらっしゃいますよね?」
何か喋らないといけないと思って声を出したら、ソニアと重なった。ソニアも私と同じ事を考えていたようだ。
私たちの反応に憮然とした表情をする王女殿下。
「何なの、その反応。わたくし、変なこと言ったかしら?」
シーーーーーン
私とソニアはまたしても口をつぐむ。
おかしい。王女殿下なら知ってても良い内容なのに。隣に座っているソニアを見ると、私と同じく困惑する様子が窺えた。
これは仕方がない。一人で小さく頷き、私は王女殿下に説明をする。
「私、運営側なんで」
「え? 運営側って?」
「魔術大会が開催できるようにする側という意味ですわ。エルシアが出たら勝負になりません。いえ、勝負ができませんので」
ソニアが私の言葉をさらに分かりやすくして、王女殿下に伝えてくれたが、王女殿下は首を捻るだけ。
「勝負ができないって、どういうこと?」
「えーっとですね」
今ひとつ、分かっていない様子の王女殿下のために、私は運営側の説明をした。
「魔術大会の防衛網は、何人かで力を合わせて作っているんです。私もその一人なので。だから、私が魔術大会に出たら魔術大会ができません」
「嘘っ?!」
嘘なものか。みんな、至近距離で攻撃魔法を放とうとしているんだから、普通に考えたら危ないだろうに。
魔術大会のシステムを最初に考えた人はこう思ったそうだ。
冷静になれと言っても止まらないなら、人を止めようとするのではなく、使った魔法が相手や周囲に効果を及ぼさないようにすればいい、と。
そして当時の人たちによって、三聖が守りを担当する今の大会の形になったんだとか。
「でなければ、危なすぎて勝負ができませんわよ、王女殿下」
「冷静に考えるとそうなるわよね。でも、エルシア嬢の他は誰がいるの?」
シーーーーーン
本日三度目の沈黙がこの場を支配した。
最初に気を取り直したのは、この私。
「むしろ、なんで王女殿下が知らないんですか?」
「えぇ? そんなに当たり前の話なの?」
「普通は知ってますわ」
ソニアも私に加勢する。
「普通、普通って言うけど。どの程度、普通な話なのよ!」
「王族ならみんな知ってる話?」
「中枢の官僚も知ってますわね」
「騎士団や魔術師団の上層部あたりは知らないかも」
「だから、なぜ王女殿下が知らないのか?という話になるのですわ」
私もソニアも王女殿下のことをじっと見る。
「な、なるほどね。なんで、わたくし、知らないのかしら」
「王太子殿下にでも聞いたらどうです?」
「もしくは第三王子殿下でしょうか」
「カス王子は知らなさそう」
「カスですからね」
私とソニアは言葉を止めて、再び、王女殿下を見る。
王女殿下はびくんと身体を硬直させて、おずおずと質問をした。
「もしかして、わたくし、カスと同列?」
「さぁ?」
「どうでしょう?」
まぁ、教えたら面倒なことになるとでも思われてるんでしょうけどね。
私はその言葉を飲み込んだ。おそらくソニアも。
と、その時。
「あれ?」
「エルシア、どうかしましたの?」
私はあることに気がついた。
なにしろ、王女殿下の機嫌が悪い。
「本当にあの傲慢魔術師は嫌になるわ」
「王女殿下も大概だと思いますけど」
「はぁああああ? 何か言ったかしら?」
「いや、別に」
加えて、いつも以上に口も悪い。
「ちょっと魔法が出来るからって」
その上、力も入っている。王女殿下が両手で握りしめた扇から、バキバキッという出てはいけない音が出た。
「王女殿下は召喚魔法系ですし、リグヌムも木属性なので、補助や支援系なんですよね」
「そうですわよ。攻撃系が得意なわけではありませんわ」
「それに、向こうは木属性に合わせて対策をしてきたんだから。まぁ…………仕方ないよね」
負けても仕方ないよね、と言いそうになって、肝心な言葉はしっかりと飲み込む。
その後、飲み込むのに集中しすぎて、うっかり素の口調が出たのをソニアに指摘された。
「エルシア、言葉使いが崩れてますわ」
「あぁ、いけない」
チラッと王女殿下を見たが、王女殿下はとくに気にしていなさそう。
ただし、両手で持った扇からは、
ブチンッ!
と出てはいけない音がして、扇が真っ二つになっていた。ヤバい。
真っ二つになった扇を投げ捨てて、くるっと私に視線を合わせる王女殿下。
投げ捨てられた壊れた扇は、ささっと侍女のみんなが回収していく。素早い。
じゃなくて。侍女のみんなの身体能力を誉めている場合じゃない。私が、なんか狙われている!
「ところで、エルシア嬢は出ていなかったじゃないの!」
わわわっ、これは八つ当たり的なヤツ!
「何、言ってるんですか?」
「だって、エルシア嬢が出れば、あの傲慢魔術師なんてぱぱーっと倒してくれたわよね!」
シーーーーーン
私とソニアは思わず口をつぐむ。
「王女殿下、正気ですか?」
「王女殿下、システムを分かってらっしゃいますよね?」
何か喋らないといけないと思って声を出したら、ソニアと重なった。ソニアも私と同じ事を考えていたようだ。
私たちの反応に憮然とした表情をする王女殿下。
「何なの、その反応。わたくし、変なこと言ったかしら?」
シーーーーーン
私とソニアはまたしても口をつぐむ。
おかしい。王女殿下なら知ってても良い内容なのに。隣に座っているソニアを見ると、私と同じく困惑する様子が窺えた。
これは仕方がない。一人で小さく頷き、私は王女殿下に説明をする。
「私、運営側なんで」
「え? 運営側って?」
「魔術大会が開催できるようにする側という意味ですわ。エルシアが出たら勝負になりません。いえ、勝負ができませんので」
ソニアが私の言葉をさらに分かりやすくして、王女殿下に伝えてくれたが、王女殿下は首を捻るだけ。
「勝負ができないって、どういうこと?」
「えーっとですね」
今ひとつ、分かっていない様子の王女殿下のために、私は運営側の説明をした。
「魔術大会の防衛網は、何人かで力を合わせて作っているんです。私もその一人なので。だから、私が魔術大会に出たら魔術大会ができません」
「嘘っ?!」
嘘なものか。みんな、至近距離で攻撃魔法を放とうとしているんだから、普通に考えたら危ないだろうに。
魔術大会のシステムを最初に考えた人はこう思ったそうだ。
冷静になれと言っても止まらないなら、人を止めようとするのではなく、使った魔法が相手や周囲に効果を及ぼさないようにすればいい、と。
そして当時の人たちによって、三聖が守りを担当する今の大会の形になったんだとか。
「でなければ、危なすぎて勝負ができませんわよ、王女殿下」
「冷静に考えるとそうなるわよね。でも、エルシア嬢の他は誰がいるの?」
シーーーーーン
本日三度目の沈黙がこの場を支配した。
最初に気を取り直したのは、この私。
「むしろ、なんで王女殿下が知らないんですか?」
「えぇ? そんなに当たり前の話なの?」
「普通は知ってますわ」
ソニアも私に加勢する。
「普通、普通って言うけど。どの程度、普通な話なのよ!」
「王族ならみんな知ってる話?」
「中枢の官僚も知ってますわね」
「騎士団や魔術師団の上層部あたりは知らないかも」
「だから、なぜ王女殿下が知らないのか?という話になるのですわ」
私もソニアも王女殿下のことをじっと見る。
「な、なるほどね。なんで、わたくし、知らないのかしら」
「王太子殿下にでも聞いたらどうです?」
「もしくは第三王子殿下でしょうか」
「カス王子は知らなさそう」
「カスですからね」
私とソニアは言葉を止めて、再び、王女殿下を見る。
王女殿下はびくんと身体を硬直させて、おずおずと質問をした。
「もしかして、わたくし、カスと同列?」
「さぁ?」
「どうでしょう?」
まぁ、教えたら面倒なことになるとでも思われてるんでしょうけどね。
私はその言葉を飲み込んだ。おそらくソニアも。
と、その時。
「あれ?」
「エルシア、どうかしましたの?」
私はあることに気がついた。
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