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2 暗黒騎士と鍵穴編
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王都巡回の翌日。
私たちは再び、フルヌビを訪れていた。
フルヌビのお店の前は、相変わらずの人だかり。
昨日も思ったんだけど、どうしてこの人たちは中に入らず、ウロウロしているのかなぁ。
私は、注意深く、お店の周りとお店の周りにいる人たちを窺った。
「ねぇねぇ、クラウド。あの人、なんか怪しくない?」
「エルシア。通りすがりの人を不審者扱いするな。しかも指をさすな」
私が指さす先にいるのは、銀の短髪に赤銅色の珍しい色の瞳の男性。
白いシャツに灰色のスラックス、黒い革靴と、平民の服装にしてはちょっと身なりのいい格好だ。
髪や目の色を隠すためか、つば付き帽子を深くかぶっている。
髪の色は帽子からはみ出しているので分かるにしても、目の色の方は、偶然、チラッと見えなければ分からなかっただろう。
銀髪は魔術師向きの色と言われているので、魔術師か、少なくとも魔力持ちである可能性は高い。
なのに、その男性からは魔術師特有の匂いがしない。第一にそれが気になった。
第二に気になったのは、その男性の行動だ。
「でも、あの人。フルヌビの中の様子を窺ってるよ」
「エルシア。同じように、様子を窺ってるヤツが何人いると思ってるんだ」
クラウドの言葉に私は改めて、お店の周りの人たちを観察し直す。
よくよく見ると、赤銅色の瞳の男性と似たような行動をしている男性がちらほらといた。
「うーん、五人くらい?」
「分かってるなら、いちいち気にするな」
「でも、あの人。他の人とはちょっと違うけど」
「同じようにしか見えないぞ」
「えー」
ぜんぜん違うのに。
私が目星をつけた男性と、その他の覗き見している男性たちとを同じように扱われ、私は不満の声をあげる。
分かってないクラウドに違いを説明しようとすると、今度は後ろからどーーーんと何かがぶつかってきた。
「て、二人とも!」
そして響き渡るギャンギャンという声。
「しまった」「忘れてた」
「なーーーーーんで、さっさと入らないのよぅ!」
ぷーーっと頬を膨らませ、けたたましく抗議の声をあげたのは、妥協案として呼ばれた助っ人、ユリンナ・ダイモス先輩だった。
「つまり、若い男女が二人にならなければいいんだろ?」
と、重要なところに目を付けたのはクストス隊長だ。
「ならばもう一人増やして、デートに見えなければ、まったく問題がないってことだな」
さすが隊長。注意すべき点がよく分かっている。
「いや、そうは言っても、男性二人を連れて歩くのもちょっと鬱陶しいですし」
「つまり、俺ともう一人でエルシアを連れて行くってことですね。フェリクスあたりが来たがりそうだよな」
私たちの反応に、今度はクストス隊長が、はぁ?と怪訝な反応を見せた。
「だから、クラウド。デートに見えなければ問題ないってことなのに。なんで連れが男二人になる。
エルシアも鬱陶しいは別問題だ。少し我慢しろ」
「えー。まとめると、鬱陶しい女性を連れていけってことですか?」
「手配は任せろ」
クストス隊長は、そう言って自信あり気にニヤリと笑ったのだった。
こうして手配されたのが、第三騎士団第一隊担当の女性魔術師、ユリンナ先輩だったという。
確かに鬱陶しい。男性二人に挟まれて行動するより遥かに鬱陶しい。
感想を口にするとさらに絡まれるだろうから絶対に文句は言えないけど、間違いなく鬱陶しい。
騒ぐユリンナ先輩は私とクラウドの間に入ると、両腕を伸ばして、がしっと肩を組んだ。
「しーかーもー、二人で仲良くお喋りしてるし。私も混ぜてよぅ!」
「お喋りじゃなく、調査してるんです」
「お店の周りまで調査すんの? 本格的ねぇ!」
「はい、任せてください」
今回、ユリンナ先輩はあくまでも同伴するだけ。私とクラウドがデートしていると誤解されないようにするために。
クラウドにしても、私とデートなんてしたくはないだろうから、変な噂の防止策はあった方がいいのだ。
ユリンナ先輩は私の力強い返事を聞くと、ニコッと笑ってきびすを返した。
「それじゃ、先に入ってるわ!」
「いやいやいや、三人で行動するためのデイモス魔術師殿、じゃなくて、ユリンナさんだったはずでしょう」
パッとお店に向かおうとするユリンナ先輩を、がしっとクラウドが押さえる。素早い。
そして、ユリンナ先輩の行動にも気が抜けない。
「あら? そうだったかしら?」
「二人について行くだけで、美味しいフルヌビのお菓子が食べられる。
そうやって、クストス隊長に声かけ、されてましたよね?」
どうやって手配されたかまでは聞いてなかったけど、そういうことだったのか。
「あら。そうだったわね!」
「ユリンナさんとエルシア、仲のいい姉妹がウィンドウショッピングがてらに、フルヌビへやってきた。
女性二人では昨今何かと物騒なので、二人の父親の部下である俺に声がかかって、そして今、荷物持ち兼護衛を任されていると」
うん、この設定ならデート感はなくなる。さすが隊長。
「あら。意外と設定がしっかりしてるわ」
「クストス隊長って、そういう設定を大事にする派なんですよ」
「あら、そうなの? 意外と細かいわね」
ユリンナ先輩はさらに文句を言うこともなく、おとなしくなる。
まぁ、ユリンナ先輩にしても、これが仕事だというのは分かっていて、ユリンナ先輩側から見れば、同行してお菓子を食べるだけの、言葉通り美味しい仕事。
ユリンナ先輩の突撃で、注意がそれたので、慌てて周りを見回すと、すでに赤銅色の瞳の男性は少し離れたところに移動していた。
お店の中にも入らないし、去ることもしないところから考えると、見張っているのか、何かを待っているのか。
ともあれ、周りの探索は終わった。
「そろそろ中に入りましょうか。周りは終わったので」
「よしっ! 念願の本店よ!」
声をかけると、とたんに元気になるユリンナ先輩。
「一ファンとして!」
「ユリンナ先輩まで、クストス隊長と同じこと言ってる」
「だな」
ユリンナ先輩の方もかなりの私情が混じっていた。
私たちは再び、フルヌビを訪れていた。
フルヌビのお店の前は、相変わらずの人だかり。
昨日も思ったんだけど、どうしてこの人たちは中に入らず、ウロウロしているのかなぁ。
私は、注意深く、お店の周りとお店の周りにいる人たちを窺った。
「ねぇねぇ、クラウド。あの人、なんか怪しくない?」
「エルシア。通りすがりの人を不審者扱いするな。しかも指をさすな」
私が指さす先にいるのは、銀の短髪に赤銅色の珍しい色の瞳の男性。
白いシャツに灰色のスラックス、黒い革靴と、平民の服装にしてはちょっと身なりのいい格好だ。
髪や目の色を隠すためか、つば付き帽子を深くかぶっている。
髪の色は帽子からはみ出しているので分かるにしても、目の色の方は、偶然、チラッと見えなければ分からなかっただろう。
銀髪は魔術師向きの色と言われているので、魔術師か、少なくとも魔力持ちである可能性は高い。
なのに、その男性からは魔術師特有の匂いがしない。第一にそれが気になった。
第二に気になったのは、その男性の行動だ。
「でも、あの人。フルヌビの中の様子を窺ってるよ」
「エルシア。同じように、様子を窺ってるヤツが何人いると思ってるんだ」
クラウドの言葉に私は改めて、お店の周りの人たちを観察し直す。
よくよく見ると、赤銅色の瞳の男性と似たような行動をしている男性がちらほらといた。
「うーん、五人くらい?」
「分かってるなら、いちいち気にするな」
「でも、あの人。他の人とはちょっと違うけど」
「同じようにしか見えないぞ」
「えー」
ぜんぜん違うのに。
私が目星をつけた男性と、その他の覗き見している男性たちとを同じように扱われ、私は不満の声をあげる。
分かってないクラウドに違いを説明しようとすると、今度は後ろからどーーーんと何かがぶつかってきた。
「て、二人とも!」
そして響き渡るギャンギャンという声。
「しまった」「忘れてた」
「なーーーーーんで、さっさと入らないのよぅ!」
ぷーーっと頬を膨らませ、けたたましく抗議の声をあげたのは、妥協案として呼ばれた助っ人、ユリンナ・ダイモス先輩だった。
「つまり、若い男女が二人にならなければいいんだろ?」
と、重要なところに目を付けたのはクストス隊長だ。
「ならばもう一人増やして、デートに見えなければ、まったく問題がないってことだな」
さすが隊長。注意すべき点がよく分かっている。
「いや、そうは言っても、男性二人を連れて歩くのもちょっと鬱陶しいですし」
「つまり、俺ともう一人でエルシアを連れて行くってことですね。フェリクスあたりが来たがりそうだよな」
私たちの反応に、今度はクストス隊長が、はぁ?と怪訝な反応を見せた。
「だから、クラウド。デートに見えなければ問題ないってことなのに。なんで連れが男二人になる。
エルシアも鬱陶しいは別問題だ。少し我慢しろ」
「えー。まとめると、鬱陶しい女性を連れていけってことですか?」
「手配は任せろ」
クストス隊長は、そう言って自信あり気にニヤリと笑ったのだった。
こうして手配されたのが、第三騎士団第一隊担当の女性魔術師、ユリンナ先輩だったという。
確かに鬱陶しい。男性二人に挟まれて行動するより遥かに鬱陶しい。
感想を口にするとさらに絡まれるだろうから絶対に文句は言えないけど、間違いなく鬱陶しい。
騒ぐユリンナ先輩は私とクラウドの間に入ると、両腕を伸ばして、がしっと肩を組んだ。
「しーかーもー、二人で仲良くお喋りしてるし。私も混ぜてよぅ!」
「お喋りじゃなく、調査してるんです」
「お店の周りまで調査すんの? 本格的ねぇ!」
「はい、任せてください」
今回、ユリンナ先輩はあくまでも同伴するだけ。私とクラウドがデートしていると誤解されないようにするために。
クラウドにしても、私とデートなんてしたくはないだろうから、変な噂の防止策はあった方がいいのだ。
ユリンナ先輩は私の力強い返事を聞くと、ニコッと笑ってきびすを返した。
「それじゃ、先に入ってるわ!」
「いやいやいや、三人で行動するためのデイモス魔術師殿、じゃなくて、ユリンナさんだったはずでしょう」
パッとお店に向かおうとするユリンナ先輩を、がしっとクラウドが押さえる。素早い。
そして、ユリンナ先輩の行動にも気が抜けない。
「あら? そうだったかしら?」
「二人について行くだけで、美味しいフルヌビのお菓子が食べられる。
そうやって、クストス隊長に声かけ、されてましたよね?」
どうやって手配されたかまでは聞いてなかったけど、そういうことだったのか。
「あら。そうだったわね!」
「ユリンナさんとエルシア、仲のいい姉妹がウィンドウショッピングがてらに、フルヌビへやってきた。
女性二人では昨今何かと物騒なので、二人の父親の部下である俺に声がかかって、そして今、荷物持ち兼護衛を任されていると」
うん、この設定ならデート感はなくなる。さすが隊長。
「あら。意外と設定がしっかりしてるわ」
「クストス隊長って、そういう設定を大事にする派なんですよ」
「あら、そうなの? 意外と細かいわね」
ユリンナ先輩はさらに文句を言うこともなく、おとなしくなる。
まぁ、ユリンナ先輩にしても、これが仕事だというのは分かっていて、ユリンナ先輩側から見れば、同行してお菓子を食べるだけの、言葉通り美味しい仕事。
ユリンナ先輩の突撃で、注意がそれたので、慌てて周りを見回すと、すでに赤銅色の瞳の男性は少し離れたところに移動していた。
お店の中にも入らないし、去ることもしないところから考えると、見張っているのか、何かを待っているのか。
ともあれ、周りの探索は終わった。
「そろそろ中に入りましょうか。周りは終わったので」
「よしっ! 念願の本店よ!」
声をかけると、とたんに元気になるユリンナ先輩。
「一ファンとして!」
「ユリンナ先輩まで、クストス隊長と同じこと言ってる」
「だな」
ユリンナ先輩の方もかなりの私情が混じっていた。
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