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7 帝国動乱編

6-1 第六師団長は呆れる

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 俺は朝から苛立っていた。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 原因はこいつだ。

「ウルサいぞ、カーネリウス」

「だって! 聞いてませんよ!」

「今、言ったからな」

 今日はフィアの第一塔勤務の日。
 フィアがいない師団長室は、いつもより寒く感じる。

 隣にフィアがいないんだから、フィアの温もりが感じられないのは当然だとしても、この部屋全体が薄暗く寒々と感じられるのは…………俺の冷気のせいだな。

 フィアがいない上にカーネリウスがウルサい。

 俺の機嫌が良くなる要素はまったくなく、部屋の温度はどんどん下がっていく。

 ところが、カーネリウスは俺の冷気にすっかり慣れたらしく、とくに気にする様子もない。

 エルヴェスや補佐一号二号に至っては、いつもより服を着込んでいた。

 はぁ。

 俺は切り替えて、カーネリウスに忠告する。

「配置換えは三月からだ。まだ時間はあるから、さっさと独り立ちしろ」

「その話じゃありません!」

 今日、朝一でしていたのは配置換えの話だ。

 先月、金竜のところの副師団長が引退し、後釜としてミラマーが異動した。

 ミラマーの異動に伴い、第六師団にやってきたのが銀竜の元副官デルストーム。副師団長に昇格し、短期間で副師団長の職を見事にこなしてくれている。

 荒っぽい金竜、キレると怖い銀竜の下で淡々と仕事をこなしてきただけあって、飲み込みも早く手際も良い。

 竜種としての能力は地味だが、ミラマーのように地道に仕事をこなす男だ。とても頼りになる。

 頼りにならないのは、目の前のこいつだ。しかも、何を言ってるのだかまったく分からない。

「いや、今、仕事中だろ。仕事の話しないで何の話をするんだよ」

「仕事中にほわほわちゃんとイチャイチャしてるブアイソウが、よく言うわー」

「竜種は奥さんとイチャイチャできないと死ぬんだ。仕方ないだろ」

「話をそらさないでください!」

 余計な突っ込みをいれるエルヴェスに返事をしていたら、カーネリウスがキレた。

 あまりの勢いに、全員がカーネリウスを見る。




「だから、何の話だ?」

「デルストームさんとエレバウトさんが、つきあってるだなんて!」

 ゴホ。

 はぁぁぁぁ?! それこそ何の話だよ。

 エレバウトがこの場にいなくて良かったと、俺は心の中で胸をなでおろす。

 エレバウトがここにいてみろ。そんなバカなことを言ってないで、書類を片付けろと怒られるぞ。

「ジミー二号のやつ、ジミーに似て地味顔のくせに手は早いわねー」

「いや待て、カーネリウス。今の話を聞いて、どうしてそうなる? エルヴェスも変なことは言うな」

 またもやかき回そうとするエルヴェスを制し、カーネリウスを落ち着かせる。

 俺の副官、面倒なやつばかりだな。

 その面倒な二人が衝撃的な話をし始めた。

「ジミー二号のやつ。黒竜録狙いでうちに入り浸っていて、いつの間にかクルクルちゃんに狙いを定めてたのよねー」

「エレバウトさんから、デルストームさんの臭いがプンプンするんで、おかしいと思ってたんですよ!」

「…………ウソだろ」

 まったく気づかなかったぞ、俺。

「師団長、気づかなかったんですか?!」

「フィア以外の匂いに興味ないしな」

 俺はカーネリウスの言葉に正直に返事をすると、カーネリウスが悔しそうに顔をゆがめた。

「これだから、捕獲成功者は」

 と、そのとき、いいタイミングでデルストームがやってくる。

「デルストーム、ちょうど良いところに」

「なんでしょう、ドラグニール師団長」

 昨日の報告書をまとめて持ってきたデルストームに、俺は恐る恐る切り出した。

「エレバウトのことなんだが」

「はい、幸せにします」

 即答だった。




 一瞬の静寂の後、

「ほらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「もう本契約したのか?!」

 室内はパニックになった。

 まぁ、パニックになったのは俺とカーネリウスだけだが。

「まさか。まだ仮契約です。俺は時間をかけて相手を追い詰める方なので」

「ほどほどにしとけよ」

「大丈夫です。逃がしはしませんから」

 そう言って爽やかな笑みを浮かべて、デルストームは退室していった。

 そしてまた一瞬の静寂の後、

「俺だって、けっこうイケてるのに!」

「マー、ジミー二号よりはイケメンだと思うわよー ショボクレ系だけどー」

「俺だって、俺だって!」

「いや、お前ら仕事しろよ」

 再びうるさくなる師団長室。

「奥さんとイチャイチャしながら仕事してる師団長に、言われたくありません!」

 はぁ、俺はため息をついた。

「補佐一号二号、なんとかしろ」

「「了解」」

 今まで変態上司を放置していた双子の補佐が、自信満々に返事をしてぺこりと頭を下げる。

 二人の補佐は二人の副官に近づいて、その耳に何事かを吹き込んだ。

 ひそひそ声だが、聞き取れなくもない。

 その内容は、

「カーネリウス副官。黒竜録の最新作、完全捕獲完了編と結婚式編、まだ見てないっすよね?」

「見てないです!」

 出てたのか、新作。そこで食い尽くなよ、カーネリウス。

「エルヴェス副官。師団長とクロエル補佐官の隠し撮り濃密ラブラブ映像、見てないですよね?」

「見てないわ!」

 なんてものを隠し撮りしてるんだ、こいつら。…………だが、俺も見たい。

「さぁ、仕事仕事。頑張るっす」

「仕事終わらせてから楽しみましょうね」

 二人の補佐の一言でおとなしく切り替える二人の副官。俄然、やる気になって、バタバタと師団長室を出て行った。

 俺よりも副官の扱いが上手いのは、いったいどういうことだろう?

 しかし、そんなことよりも気になることがある。

「なんか、俺の私生活。切り売りされてないか?」

「いまさらっすよ、師団長」

「いまさらですよ、師団長」

 補佐の呆れた声が師団長室に響くのだった。
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