379 / 384
7 帝国動乱編
5-7
しおりを挟む
スヴェートの皇城はエルヴェスさんのお兄さんとその仲間の人たち、エルヴェスさん、メモリアであらかた、掃除をしてしまったらしい。
掃除されてキレイになるのは気持ちがいいと思うのに、ジンクレストの話では、私が想像している『掃除』とは、まったく違う『掃除』だったようだ。
皇帝の退位と新皇帝の即位については、それこそ紙一枚で終わったと、エルヴェスさんがケラケラ笑いながら教えてくれた。
「大変なことはぜーんぶ、兄に押しつけたわー」
と、エルヴェスさん。
スッキリした顔をしている。
スヴェートを追われてから十年。
今日の日のために少しずつ準備をしてきたのが、ようやく報われたというか。
いろいろなことから、ようやく、解放されてスッキリしたみたいだった。
「アタシはエルメンティアで、ガッポリ稼いでウハウハな生活をするんだからー」
今もしているよね、ガポガポ稼ぐってやつ。
思わず、遠い目をしてしまう。
ウハウハな生活がどういうものかは分からないけど、それもやっていると思う。絶対。
「こっちが本性らしいぞ」
呆れたようにつぶやくラウの言葉に、新皇帝が残念そうな顔で大きく頷いていた。
マジか。
「いつものあれ。世を忍ぶ仮の姿、みたいのじゃなかったんだ」
「それは『アタシ』じゃなくて、『私』の方ね」
いや、エルメンティアではほぼほぼ『アタシ』だったよね?!
まぁ、楽しそうならいいのかな。
私はいろいろ考えるのを放棄した。だってとても眠いんだもの。
「ようやく、お家に帰れるね、ラウ」
「そうだな。やっと終わったな」
「もう疲れて疲れて。すごく眠くて。ラウは大丈夫なの?」
「あぁ。力を出し切ったときはふらついたが、今はもう大丈夫だぞ。フィアを抱き上げて歩けるし」
「いや、それはいいから」
ラウと話をしながら、私たちはスヴェートの大神殿に帰ってきた。
最初にメイ群島国、次にザイオンの人たちが転移で各国に帰っていく。
次は私たちの番、というところで、私は異変に気がついた。
「あれ?」
「フィア!」
膝がかくんとなった。
隣にいたラウが、慌てて私の腰を抱き寄せて支える。
「なんか、身体に力が入らない」
「やっぱり抱いていくから、いいな、フィア」
頭がぐるんとする。ラウが話しているのが、遠くに聞こえるような。
「なんか、目が霞むんだけど」
焦点が合わないと言った方が正しいところだけど。口を開いて会話をするのも、なんだか、だるくなってきた。
「時間差で来たか」
「こうなると思ったよ」
テラと二番目の声も聞こえる。
「フィアは大丈夫なんだろう?」
「黒竜、ちょっと屈め。僕が視るから」
ラウの声も、さっきよりは近くに聞こえた。耳は大丈夫そう。それより目だ。目を開けてられない。
「どうだい、テラ」
「僕の予想通りだ」
「最初から分かっていたことじゃないか」
「なんの話だ?」
「いいか、黒竜。落ち着いて僕たちの話を聞け」
テラがラウに何かを伝えようとしたとき、ガヤガヤと騒がしい音が聞こえてきた。
「何やってるんですか、師団長」
「さっさと転移して、帰ろうぜ」
誰だろう。聞き覚えがあるような、ないような。
「ラウ。すごく眠い」
「フィアが眠たがってる」
瞼が重い。ふとした瞬間に目を閉じてしまう。
「クロエル補佐官、どうしたんですか?」
「クロスフィアさん、顔色が悪いですわ! いったい、何があったというんですの?」
「眠い。凄く眠い」
すごく騒がしい。耳を塞ぎたいのに腕が上がらない。
「おい、ラウゼルト。いったい何の騒ぎだ?」
「アレじゃないわよね? 前にチビッコが言ってた…………」
「エルヴェスさん、なんですか、それ?」
「破壊の赤種は役割を終えたら消える」
うん? 静かになった。
「こんなところで、フィアを寝かせるわけにはいかない。家に連れて帰る」
「うん。ラウ。眠い」
「大丈夫だ、フィア。俺が家のベッドに寝かしてやるからな」
これで大丈夫だ。静かに眠れる。
と思ったら、一斉に皆が喋り出した。ガヤガヤガヤガヤ、とてもウルサい。
「おい、ラウゼルト。クロエル補佐官は」
「師団長、クロスフィア様は大丈夫なんですよね?」
かろうじて、喋っているのが塔長とジンクレストだってことが、理解できる。
他にも誰かが何か喋っていて、それも、大勢の人がそれぞれ言いたいことを言っているようで。
なのに今の私は、まったく頭が動かなくて、すべてを聞き取ることができなかった。
「ウルサい、黙れ。フィアが静かに眠れないだろう!」
「うん。ラウ。ごめん、ラウ」
ラウが私のために怒ってくれている。
「謝るな、フィア」
「なんか、身体が動かないの。眠くて」
「大丈夫だ、ゆっくり休め。俺はずっとフィアのそばにいるから」
「ありがとう、ラウ」
その言葉を最後に、私は眠りについた。
眠りについてから気づく。
あぁ、そうだ。破壊の赤種は役割を終えたら消えるんだったっけ。
これで消えちゃうのかな、私。もっとラウにいろいろ伝えれば良かったかな。
ううん、違うな。
たとえ私が消えたとしても、ラウとはずっといっしょにいるんだ。
だから、悲しまないで。待っていてラウ。
そこで、私の意識は闇に飲まれた。
掃除されてキレイになるのは気持ちがいいと思うのに、ジンクレストの話では、私が想像している『掃除』とは、まったく違う『掃除』だったようだ。
皇帝の退位と新皇帝の即位については、それこそ紙一枚で終わったと、エルヴェスさんがケラケラ笑いながら教えてくれた。
「大変なことはぜーんぶ、兄に押しつけたわー」
と、エルヴェスさん。
スッキリした顔をしている。
スヴェートを追われてから十年。
今日の日のために少しずつ準備をしてきたのが、ようやく報われたというか。
いろいろなことから、ようやく、解放されてスッキリしたみたいだった。
「アタシはエルメンティアで、ガッポリ稼いでウハウハな生活をするんだからー」
今もしているよね、ガポガポ稼ぐってやつ。
思わず、遠い目をしてしまう。
ウハウハな生活がどういうものかは分からないけど、それもやっていると思う。絶対。
「こっちが本性らしいぞ」
呆れたようにつぶやくラウの言葉に、新皇帝が残念そうな顔で大きく頷いていた。
マジか。
「いつものあれ。世を忍ぶ仮の姿、みたいのじゃなかったんだ」
「それは『アタシ』じゃなくて、『私』の方ね」
いや、エルメンティアではほぼほぼ『アタシ』だったよね?!
まぁ、楽しそうならいいのかな。
私はいろいろ考えるのを放棄した。だってとても眠いんだもの。
「ようやく、お家に帰れるね、ラウ」
「そうだな。やっと終わったな」
「もう疲れて疲れて。すごく眠くて。ラウは大丈夫なの?」
「あぁ。力を出し切ったときはふらついたが、今はもう大丈夫だぞ。フィアを抱き上げて歩けるし」
「いや、それはいいから」
ラウと話をしながら、私たちはスヴェートの大神殿に帰ってきた。
最初にメイ群島国、次にザイオンの人たちが転移で各国に帰っていく。
次は私たちの番、というところで、私は異変に気がついた。
「あれ?」
「フィア!」
膝がかくんとなった。
隣にいたラウが、慌てて私の腰を抱き寄せて支える。
「なんか、身体に力が入らない」
「やっぱり抱いていくから、いいな、フィア」
頭がぐるんとする。ラウが話しているのが、遠くに聞こえるような。
「なんか、目が霞むんだけど」
焦点が合わないと言った方が正しいところだけど。口を開いて会話をするのも、なんだか、だるくなってきた。
「時間差で来たか」
「こうなると思ったよ」
テラと二番目の声も聞こえる。
「フィアは大丈夫なんだろう?」
「黒竜、ちょっと屈め。僕が視るから」
ラウの声も、さっきよりは近くに聞こえた。耳は大丈夫そう。それより目だ。目を開けてられない。
「どうだい、テラ」
「僕の予想通りだ」
「最初から分かっていたことじゃないか」
「なんの話だ?」
「いいか、黒竜。落ち着いて僕たちの話を聞け」
テラがラウに何かを伝えようとしたとき、ガヤガヤと騒がしい音が聞こえてきた。
「何やってるんですか、師団長」
「さっさと転移して、帰ろうぜ」
誰だろう。聞き覚えがあるような、ないような。
「ラウ。すごく眠い」
「フィアが眠たがってる」
瞼が重い。ふとした瞬間に目を閉じてしまう。
「クロエル補佐官、どうしたんですか?」
「クロスフィアさん、顔色が悪いですわ! いったい、何があったというんですの?」
「眠い。凄く眠い」
すごく騒がしい。耳を塞ぎたいのに腕が上がらない。
「おい、ラウゼルト。いったい何の騒ぎだ?」
「アレじゃないわよね? 前にチビッコが言ってた…………」
「エルヴェスさん、なんですか、それ?」
「破壊の赤種は役割を終えたら消える」
うん? 静かになった。
「こんなところで、フィアを寝かせるわけにはいかない。家に連れて帰る」
「うん。ラウ。眠い」
「大丈夫だ、フィア。俺が家のベッドに寝かしてやるからな」
これで大丈夫だ。静かに眠れる。
と思ったら、一斉に皆が喋り出した。ガヤガヤガヤガヤ、とてもウルサい。
「おい、ラウゼルト。クロエル補佐官は」
「師団長、クロスフィア様は大丈夫なんですよね?」
かろうじて、喋っているのが塔長とジンクレストだってことが、理解できる。
他にも誰かが何か喋っていて、それも、大勢の人がそれぞれ言いたいことを言っているようで。
なのに今の私は、まったく頭が動かなくて、すべてを聞き取ることができなかった。
「ウルサい、黙れ。フィアが静かに眠れないだろう!」
「うん。ラウ。ごめん、ラウ」
ラウが私のために怒ってくれている。
「謝るな、フィア」
「なんか、身体が動かないの。眠くて」
「大丈夫だ、ゆっくり休め。俺はずっとフィアのそばにいるから」
「ありがとう、ラウ」
その言葉を最後に、私は眠りについた。
眠りについてから気づく。
あぁ、そうだ。破壊の赤種は役割を終えたら消えるんだったっけ。
これで消えちゃうのかな、私。もっとラウにいろいろ伝えれば良かったかな。
ううん、違うな。
たとえ私が消えたとしても、ラウとはずっといっしょにいるんだ。
だから、悲しまないで。待っていてラウ。
そこで、私の意識は闇に飲まれた。
0
お気に入りに追加
229
あなたにおすすめの小説
【完結】お飾りではなかった王妃の実力
鏑木 うりこ
恋愛
王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。
「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」
しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。
完結致しました(2022/06/28完結表記)
GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。
★お礼★
たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます!
中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!
【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました
桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて…
小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。
この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。
そして小さな治療院で働く普通の女性だ。
ただ普通ではなかったのは「性欲」
前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは…
その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。
こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。
もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。
特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。
アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。
捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!!
承諾してしまった真名に
「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。
ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)
三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。
各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。
第?章は前知識不要。
基本的にエロエロ。
本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。
一旦中断!詳細は近況を!
【完結】呪いを解いて欲しいとお願いしただけなのに、なぜか超絶美形の魔術師に溺愛されました!
藤原ライラ
恋愛
ルイーゼ=アーベントロートはとある国の末の王女。複雑な呪いにかかっており、訳あって離宮で暮らしている。
ある日、彼女は不思議な夢を見る。それは、とても美しい男が女を抱いている夢だった。その夜、夢で見た通りの男はルイーゼの目の前に現れ、自分は魔術師のハーディだと名乗る。咄嗟に呪いを解いてと頼むルイーゼだったが、魔術師はタダでは願いを叶えてはくれない。当然のようにハーディは対価を要求してくるのだった。
解呪の過程でハーディに恋心を抱くルイーゼだったが、呪いが解けてしまえばもう彼に会うことはできないかもしれないと思い悩み……。
「君は、おれに、一体何をくれる?」
呪いを解く代わりにハーディが求める対価とは?
強情な王女とちょっと性悪な魔術師のお話。
※ほぼ同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※
神子召喚に巻き込まれた俺はイベントクラッシャーでした
えの
BL
目が覚めると知らない場所でした。隣の高校生君がBLゲーム?ハーレムエンドとか呟いてるけど…。いや、俺、寝落ち前までプレイしてたVRMMORPGのゲームキャラなんですけど…神子召喚?俺、巻き込まれた感じですか?脇役ですか?相場はモブレとか…奴隷落ちとか…絶対無理!!全力で逃げさせていただきます!!
*キーワードは都度更新していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる