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7 帝国動乱編

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 テラが手にした若木を振った。

「僕の力は新たに作り出す力」

 初めて目にするけど、あの若木が創造の種だ。

 赤種として覚醒した当初にテラから教わった。創造の種、進化の希石、転換の輪、破壊の六翼、終末の時計。この五つの加護を持つのが赤種だと。

 創造の種というわりには、種ではなく、木の形をしている。

 よくよく見ると、若木の枝に実のような種のようなものがくっついていた。

 まさか、あのちっさいのが創造の種とか? いや、まさか。

 私が余計なことを考えているうちに、テラは朱色の魔力を広げていた。

「今の封印が弱くなっているなら、もっと力強い封印を新たに作り出せばいい」

 朱色が舞台の中央に押し寄せ、皇配の周りに集まると、徐々に魔法陣の形に変わっていった。
 魔法陣は、皇配を中心に複雑な模様となる。

 それほど大きくはないのに、魔力がうねり、しっかりと舞台の石の奥深くまで、魔力が浸透していた。

「次は僕か」

 次に二番目が口を開いた。

 二番目の姿はキラキラを纏っていて、とても派手に見える。

 あのキラキラの一つ一つが進化の希石のようだった。ラウに渡していたのも、あのキラキラのうちの一つなんだろう。

「僕の力はさらに発展させる力」

 二番目から鮮やかな赤い魔力が漏れだし、波のように舞台に押し寄せる。
 周りのキラキラはよりいっそう煌めいて、星のようにキレイだった。

「新たに作り出した封印に、さらに力を与えよう。二度と封印が緩まぬように」

 二番目が力強く言い切ると、鮮赤色が朱色の魔法陣にさらに模様を加える。

 赤種二人の魔力を重ね掛けした、二重魔法陣だ。


「グルァァァァァァァァァァ」



 皇配、いやもうすでに皇配の身体は原型を留めてないから、感情の神と言うべきだよね。
 その感情の神は、苦しげに魔物のような咆哮をあげる。

「無駄なことを。いくら頑張ったところで、変化の赤種はいない。封印は仕上がらない」

 最後の悪あがきだろうか。

 こっちを挑発するような口振り。焦りを誘って隙をつこうとしている。

「だから、私がいるんじゃないの」

「やめろ」

 私はずいっと、感情の神に近づいた。

 右手を上に伸ばし何かを捕まえるような仕草をすると、バチンと音がする。

 破壊の大鎌がバチバチと火花のような音を立てて顕現した。
 うん、六翼を出していて、私の魔力も最大。大鎌も魔力全開ってところだ。

 大鎌を感情の神に突きつけて、私は淡々と言葉を発した。

「私の力は破壊の力」

 何を言えばいいのかは分からないのに、自然と口から言葉が出てくる。

「その力を使ったら、お前の身体も魂も消える。消えたくはないだろう? せっかく覚醒したというのに」

 感情の神の誘うような言葉は、私の心に何も響かなかった。

 覚醒したら消える運命。

 ラウを残して消えるのが嫌なだけ。

 だからラウは連れていこうと思ってる。
 だから消えるのは怖くない。悩みもない。
 どうやって連れていくかは、神様たちに相談すればいいや。

 デュク様は私の意志を尊重するって言ってくれたんだから。

「破壊の赤種は神をも壊す」

「そんな力と運命を与えた神が憎いだろう」

 いや、別に。

 心の中で感情の神に反論しながら、私は魔力を身体の外へと放った。

 身体から魔力を溢れさせるのではなく、意図して魔力を放つ。初めて行うことだけど、上手くできている。

 私の紅色の魔力は舞台全体に広がり、朱色と鮮赤色の魔法陣を埋め尽くした。

「悪しきものが封印から逃げられないよう、悪しき力を破壊する」

 言葉を言い切ると同時に、舞台全体の紅色がサーッと魔法陣に集まる。

 そして大鎌にも、私の紅色が流れ込んだ。
 刀身が紅色に染まる大鎌を私は振りかぶる。

「ヤメロォォォォォォ」

 迷うことなく、私は大鎌を振り切った。

 ベシャッと音がして、皇配の身体が二つになって舞台の床に落ちる。

 私が斬ったのは、身体だけではない。
 皇配の身体とともに、感情の神の思念も破壊した。

「ア……………………」

 床に埋もれた身体から呻きが聞こえる。

「我ハ、人ガ本来…………、自由ニ、持ツベキ感情ヲ、解放…………シタ、ダケ…………ダ」

 声は弱々しく、途切れ途切れ。

 私の破壊の力はちゃんと感情の神に届いたようだ。

 よし。後は封印を完成させるだけ。




「離れろ、四番目!」

「え?」

 テラの声に驚き、バッとテラの方を向いてしまう。
 思えば、ここで余計な動きをしないで、離れれば良かったのに。

 感情の神から視線をそらしてしまったその瞬間、何かが絡みついてきて、慌てて、大鎌を振るう。

 まさか。まだ、力が?

 大鎌を振るいながら、感情の神の方に視線を向けると、黒い塊から、黒く細長い縄のようなものが何本も飛び出している。

 しまった、油断した。

 破壊、仕切ったと思ったのに。

「ドウセ……、消エルノナラ…………、最期ハ……我トトモニ、来イ…………」

 感情の神が声を漏らす。
 同時に黒い縄が私に向かって一斉に襲いかかってきた。
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