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7 帝国動乱編
4-0 第六師団長の思いも寄らぬ日々
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俺、ラウゼルト・ドラグニールは第六師団の師団長に就任して、早、四年。
今日も朝の定例訓練が終わってから、この師団長室にずっと籠もりきり。書類処理に追われている。
なにより今日は愛するフィアがいない。
フィアは俺専用の補佐官なので、俺以外の仕事は入らないことになっている。
ところが、今日は状況が異なっていた。
フィアは俺のフィアであると同時に、破壊の赤種でもある。
俺にとっては、フィアが赤種でも赤種でなくてもどうでもいい話なのだが、世間一般ではそうもいかない。
フィアの話によると、今日は『赤種会議』という『竜種会議』に酷似した名称のものが開催されるらしく、赤種のチビに呼び出されたそうだ。
ちなみに、『赤種会議』が何をするものなのかは知らないそうだ。
チビと会議をするなら、いつものようにここでやればいいのに。ついつい、そう思ってしまう。
そして、口に出してしまった。
場所ならいくらでも提供するから、俺のそばで会議をしてほしいと。
その結果がノーだった。
内容は知らされておらず詳細は分からないが、赤種の二番目も交えてのとにかく大事な会議だと、言われたとのこと。
赤種だけでなく、始まりの三神も参加するらしい。
どうやら、あの三番目とかいう野良猫のことで話し合いがもたれるようだった。
だとすると、赤種仲間や加護を与えた神を裏切ったことに対する『処罰』の話し合いか。神まで参加するんだ。かなりの大事になった。
赤種の不始末を、赤種が断罪する。
野良猫を断罪することで、心優しいフィアが悲しい思いをしないといいと思う。
なんなら、俺がフィアに変わって断罪してやってもいい。俺にはフィアのような慈悲は持ち合わせていないからな。
俺は膝の上の座り俺の胸にもたれかかるフィアの髪を優しく撫でた。
相変わらず、いい匂いがする。
「おい、ラウゼルト」
「ァア? なんだ、レクス。仕事中だ」
師団長室にはさっきやってきたばかりのレクスがいた。
式典に関する資料やスヴェートの内部資料を依頼しておいたので、それを持ってきてくれたはいいんだが。
「おい、ラウゼルト。お前、何をしてるんだ?」
資料をおいてさっさと帰ればいいのに、仕事をする俺を、ひたすらじーっと眺めている。
「見て分からないのか?」
「分からなくはないが、分かりたくないというか」
「今、フィアは赤種会議とやらの最中なんだ。意識だけ向こうに行ってるから、身体を俺が守っている」
そう。俺の膝の上のフィアは言ってみれば、眠っているような状態だった。
意識だけ赤種会議に参加しているので、これは仕方ない。
今、フィアの身体を守れるのは俺だけだ。全力で守りきらないと。
そう思いながら、俺は再び、フィアの髪を撫でる。
「赤種会議の話は聞いている。師匠も今日は不在だからな」
勝手にソファーに座って、赤種のチビの話を始めるレクス。
「だが、クロエル補佐官だって、身体も向こうに行けるはずだよな? なんで、お前の膝の上にあるんだよ」
「師団長が離れたくないと泣いてすがったからですよ、第一塔長」
「最愛の夫にお願いされたら、折れるよな、クロスフィアも」
レクスの質問に対して、レクスが来る前から勝手にソファーに座っているベルンドゥアンと黒魔が、これまた勝手に答える。
泣いてすがった?
当然だろう。
世の中、『泣き落とし』という立派な名前がついた心理戦法があるんだ。使わない手はない。
泣いてフィアがそばにいてくれるのなら、何度でも大泣きしてやる。
ゴホン
俺はひとつ、咳払いをした。
「経緯はともかく、身体を俺に預けていったんだ。俺が全力で守らないとな、この最愛の夫の俺が」
俺が大好きな『最愛の夫』という単語をこれでもかと強調する。
ベルンドゥアンも黒魔も、今でこそ落ち着いてはいるが、フィアに纏わりつく虫の一種なのには変わりがなかった。
いくら、諦めたと言ったところで、俺が隙を見せたらどんな行動を起こすか分かったものじゃない。油断は禁物だ。
俺の言葉にレクスは、ハッと鼻で笑う。
こいつとも付き合いは長いが、遠慮というものを知らないんだよな。
「お前が一番危険だろう」
しかも失礼きわまりない。
俺とレクスの仲だから、まぁ、許しているところもあるが。他のやつがほざいていたら、消していたところだ。
「だから、俺たちが見守っているんですよ、第一塔長」
「そうそう。こいつ、意識のないクロスフィアに何をするか分からないからな」
そして、その他二名も失礼きわまりない。
フィアの専属護衛はいてもいいとして、なんで、黒魔はここに居座っているんだ?
理解しがたい。
「そもそも夫婦なんだから。意識があろうがなかろうが、何をしても何も問題ないんだが」
昼間の仕事中はともかく。
夫婦なんだから、帰宅後、夫婦水入らずの時間では夫婦の営みやら何なら、やることはきっちりやっている。
それに、俺が何をやっても、フィアはかわいらしく喜んでくれるはずだ。
「そう思ってるのはお前だけだ」
「夫婦とはいえ礼節は守らないと」
「夫婦だって距離は必要だよな」
チッ。こいつら。いつか絞めてやる。
俺はこっそり心に誓った。
今日も朝の定例訓練が終わってから、この師団長室にずっと籠もりきり。書類処理に追われている。
なにより今日は愛するフィアがいない。
フィアは俺専用の補佐官なので、俺以外の仕事は入らないことになっている。
ところが、今日は状況が異なっていた。
フィアは俺のフィアであると同時に、破壊の赤種でもある。
俺にとっては、フィアが赤種でも赤種でなくてもどうでもいい話なのだが、世間一般ではそうもいかない。
フィアの話によると、今日は『赤種会議』という『竜種会議』に酷似した名称のものが開催されるらしく、赤種のチビに呼び出されたそうだ。
ちなみに、『赤種会議』が何をするものなのかは知らないそうだ。
チビと会議をするなら、いつものようにここでやればいいのに。ついつい、そう思ってしまう。
そして、口に出してしまった。
場所ならいくらでも提供するから、俺のそばで会議をしてほしいと。
その結果がノーだった。
内容は知らされておらず詳細は分からないが、赤種の二番目も交えてのとにかく大事な会議だと、言われたとのこと。
赤種だけでなく、始まりの三神も参加するらしい。
どうやら、あの三番目とかいう野良猫のことで話し合いがもたれるようだった。
だとすると、赤種仲間や加護を与えた神を裏切ったことに対する『処罰』の話し合いか。神まで参加するんだ。かなりの大事になった。
赤種の不始末を、赤種が断罪する。
野良猫を断罪することで、心優しいフィアが悲しい思いをしないといいと思う。
なんなら、俺がフィアに変わって断罪してやってもいい。俺にはフィアのような慈悲は持ち合わせていないからな。
俺は膝の上の座り俺の胸にもたれかかるフィアの髪を優しく撫でた。
相変わらず、いい匂いがする。
「おい、ラウゼルト」
「ァア? なんだ、レクス。仕事中だ」
師団長室にはさっきやってきたばかりのレクスがいた。
式典に関する資料やスヴェートの内部資料を依頼しておいたので、それを持ってきてくれたはいいんだが。
「おい、ラウゼルト。お前、何をしてるんだ?」
資料をおいてさっさと帰ればいいのに、仕事をする俺を、ひたすらじーっと眺めている。
「見て分からないのか?」
「分からなくはないが、分かりたくないというか」
「今、フィアは赤種会議とやらの最中なんだ。意識だけ向こうに行ってるから、身体を俺が守っている」
そう。俺の膝の上のフィアは言ってみれば、眠っているような状態だった。
意識だけ赤種会議に参加しているので、これは仕方ない。
今、フィアの身体を守れるのは俺だけだ。全力で守りきらないと。
そう思いながら、俺は再び、フィアの髪を撫でる。
「赤種会議の話は聞いている。師匠も今日は不在だからな」
勝手にソファーに座って、赤種のチビの話を始めるレクス。
「だが、クロエル補佐官だって、身体も向こうに行けるはずだよな? なんで、お前の膝の上にあるんだよ」
「師団長が離れたくないと泣いてすがったからですよ、第一塔長」
「最愛の夫にお願いされたら、折れるよな、クロスフィアも」
レクスの質問に対して、レクスが来る前から勝手にソファーに座っているベルンドゥアンと黒魔が、これまた勝手に答える。
泣いてすがった?
当然だろう。
世の中、『泣き落とし』という立派な名前がついた心理戦法があるんだ。使わない手はない。
泣いてフィアがそばにいてくれるのなら、何度でも大泣きしてやる。
ゴホン
俺はひとつ、咳払いをした。
「経緯はともかく、身体を俺に預けていったんだ。俺が全力で守らないとな、この最愛の夫の俺が」
俺が大好きな『最愛の夫』という単語をこれでもかと強調する。
ベルンドゥアンも黒魔も、今でこそ落ち着いてはいるが、フィアに纏わりつく虫の一種なのには変わりがなかった。
いくら、諦めたと言ったところで、俺が隙を見せたらどんな行動を起こすか分かったものじゃない。油断は禁物だ。
俺の言葉にレクスは、ハッと鼻で笑う。
こいつとも付き合いは長いが、遠慮というものを知らないんだよな。
「お前が一番危険だろう」
しかも失礼きわまりない。
俺とレクスの仲だから、まぁ、許しているところもあるが。他のやつがほざいていたら、消していたところだ。
「だから、俺たちが見守っているんですよ、第一塔長」
「そうそう。こいつ、意識のないクロスフィアに何をするか分からないからな」
そして、その他二名も失礼きわまりない。
フィアの専属護衛はいてもいいとして、なんで、黒魔はここに居座っているんだ?
理解しがたい。
「そもそも夫婦なんだから。意識があろうがなかろうが、何をしても何も問題ないんだが」
昼間の仕事中はともかく。
夫婦なんだから、帰宅後、夫婦水入らずの時間では夫婦の営みやら何なら、やることはきっちりやっている。
それに、俺が何をやっても、フィアはかわいらしく喜んでくれるはずだ。
「そう思ってるのはお前だけだ」
「夫婦とはいえ礼節は守らないと」
「夫婦だって距離は必要だよな」
チッ。こいつら。いつか絞めてやる。
俺はこっそり心に誓った。
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