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7 帝国動乱編

1-0 始まりが見いだす明日

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 私、赤種の四番目で破壊の赤種であるクロスフィア・クロエルは、久しぶりにここに来ていた。

 ここはどこかというと、あそこだ。

 どこまでも果てしなく広がっている大きな空間、姿見があちこちに存在する。

 そう、時と空の狭間。始まりの三神の神殿でもあるあそこ。私は今、ここに来ていた。

 久々に来たせいなのか、何なのかは分からないけど、雰囲気が前とだいぶ違う。ザワザワしていて落ち着かない。

 今、いる場所にはちょうど姿見がなく、広場のようになっていて、テラが目の前にどっかりと座っている。

 テラは私の同種。赤種の一番目で創造の赤種だ。

 そもそも、赤種とは創造と終焉の神デュク様から権能を分け与えられた、特殊な人間。
 それを真似して、摂理の神エルムは竜種、規律の神ザインは魔種をそれぞれ生み出したというのは、この世界の人なら誰でも知っている話だ。

 その赤種の中でも最初の赤種である一番目のテラは、赤種の中で一番赤種らしい赤種だと言われている。

 見た目は十歳の子どもなのに、頭の中ははるかに大人で、口調も大人。
 かわいい子どもが大人の口振りを真似ているようにも見える。

 ふと、テラが宣言をするような声をあげた。

「赤種会議を始める」

 うん? 二人だけで?

 首を傾げる私。二人だけでも会議って言うのかな? それとも皆でやるつもりなのかな?

 それに赤種会議という名前の響きが、あれを思い起こさせる。

「もしかして、ラウたちがやってる竜種会議のパクリ?」

「ゴホンゴホンゴホン」

 むせた。パクリだ。パクリ確定だ。

 ラウとは私の夫で、上位竜種の黒竜。

 会って二回目で求婚してきて、知らないうちに私の夫になっていたという、ヤバい人だ。

 そのヤバい夫の同種たちが集って、時折、行っているのが竜種会議。

 夫もヤバいが夫の同種もやっぱりヤバいらしい。
 何の話し合いをしているのかは分からないけれど、竜種会議を行う会議室は氷付けになったり爆発したり、常に騒動が絶えないそうだ。どうせ、ろくでもないことを話し合っているに違いない。

 話し合いの内容は極秘事項だそうで私の耳にはいることはなく。それがさらにヤバさを臭わせるのだった。

 あれと同じヤバい会議を、テラが真似して開催するという事実に、私は戦慄する。

 私の態度を見て、テラが何か悟ったのか、頭を軽く振って否定を始めた。

「違うぞ、四番目。竜種たちが、僕たちの赤種会議を真似しているんだ」

 いやいや、私の心配はそういうことじゃないんだけど。

 でもまぁ、絶対こっちがパクってるよね。

 だって、竜種はここでやってる赤種のことなんて見れないし。逆に、赤種は視ようと思えば竜種会議を覗けるし。

 赤種は鑑定眼と時空眼を持つため、今いるところとは違う場所、しかも違う時間の出来事であっても視ることができるので。

 だから、テラがこっそり竜種会議を覗いたのではないかと。

 そんなことを思いながら、私はテラに視線を向けて口を開いた。

「へー。そうなんだ。まぁ、どっちでもいいけど」

「なんだよ、そのつまらなさそうな顔は」

「だって。私とテラの話し合いならいつもと変わらないんだし。わざわざここでする必要あるのかなって」

 ここは、ザワザワしていて落ち着かないし、集中もできないし。

 そう思って私は辺りを見回す。

 ザワザワの原因があちこちにあって、思わずキョロキョロしてしまう。
 心ここにあらずというか、まったく心が落ち着かない。集中? そんなもの、できるはずがない。

「しかも、わざわざ、私より年上の姿にならなくてもいいんじゃないかなって」

「重要議題だ」

 私の反論に、ちょっと大人びた低い声で、テラは言い返してきた。

 ここは現実ではない場所。神様が住まう神殿。
 ここでは現実と同じ法則が通用せず、変化の赤種でなくても姿を変えられる。

 私の目の前にいるテラは、本当のテラより十歳ほど年上の青年の姿をしていた。

 細身でスラリとした長身、同じくスラリと伸びた手足。
 いつもは子どもの姿なのに子どもらしくないテラだけど、ここでは中身と見た目がマッチしていて、まったく違和感がなかった。

 美青年という感じの大人びたテラが、物憂げな表情を浮かべる。
 ゾクゾクするくらいのキレイな顔に、私は思わず見惚れてしまった。

 て! いやいや、テラの顔に魅了されてどうする私!

 私の心中を察することなく、テラの物憂げな表情は、ニタリとした嫌ーな笑顔に変わる。

「ここで、わざわざ、やらなくてはならないくらいのな」

 ニタリ。テラは笑みを浮かべたまま。 

 うん、埒があかない。というか、さっきから全く何も進んでいない。

 私は周りのザワザワを意識の外に追い出すと、テラに集中した。

「それって、塔長やラウにもナイショでしないといけないくらいの?」

「ナイショにするつもりはない。まずは、赤種だけで話し合いたいってことだ。赤種の問題だからな」

 赤種の問題。

 そう口にするテラの顔は、今度は渋いものに変わる。

「三番目のことについて、だよね」

「話が早いな」

 現在、赤種の三番目、変化の赤種とは残念ながら敵対関係にあった。
 最初から敵同士ではなかったけど、結果として、こうなってしまったのだ。

「でも、この場所には三番目だってやってこれるよね」

 ここは神様と赤種なら自由に入れる。

 つまり、同種の三番目もここにやってこれるということ。そんな場所で三番目についてのナイショ話をするつもりなんだろうか。

 すると、テラはいったん話題を変えてきた。

「そのことについての話もあるが、まずは人待ちだ」

「人待ちって、この状態で?」

 ザワザワザワザワ。周りのザワザワが止まらない。

 いつもは静かなこの空間。

 何かいるとしても、デュク様くらいだったのに。

 今は、猫、犬、カラスにフクロウと、いろいろな動物が好き勝手にくつろいでいたのだ。かなり、かわいい。

 デュク様は、白いキレイな毛並みに赤い目をした猫の姿をしていて、群を抜いてかわいい。

 あ、あれはザリガ様とバルナ様かな。
 きっと他の動物も神様だよね。

 ザワザワを起こしているのはこの神様たちだった。かわいすぎて集中できないんだけど。かわいいに罪はない。

 こんなかわいい状況なのに、テラは何の感慨もなく淡々と返してきた。

「仕方ないだろ。興味を持って集まってきたんだから」

 テラの声に、それぞれ鳴き声をあげる神様たち。かわいい。かわいすぎてダメだ。

 そこへ、テラの声でも三番目の声でもない、落ち着いた男性の声が響き渡った。

「いやはや、凄い騒ぎだね」

 ずらっと並んだ姿見がさっと分かれて、道を作る。

 その間を歩いてやってきたのは、今のテラよりさらに年上の姿をした意外な人物。

「え?! あなたは?」

 姿を見ても見覚えはないけど、どこかで聞いたことのある声。

「いやはや、お待たせしたね」

 その人は私たちに向かって、パチンと色っぽくウインクをしたのだった。
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