315 / 384
6 討伐大会編
4-4
しおりを挟む
討伐大会最終日はチーム全員での行動、のはずだった。
蓋を開けてみると、なぜか、腐れ魔種のやつと俺は対峙していた。
正確には、襲い来る魔狼と対峙しながら、腐れ魔種と話をしていることになる。
おかしい。
最終日は余裕を持って、ゆったり狩りをするはずで。俺の隣にはフィアがいて「ラウ、凄い!」って俺の腕に驚いたり喜んだり誉めてくれたりするはずだったんだ。
それなのに。
「クロスフィアはいないのかよ」
そう、フィアはいない。
「魔狼の襲撃にあって離されたんだ」
「はっ」
腐れ魔種のやつは鼻で笑ったが、俺は事実を告げただけ。笑われる筋合いは一切ない。
最終日の今日、魔狼の動きはさらに組織的になっていた。
昨日の今日でだいぶ慣れたとでもいうような感じに。
襲いかかってくる魔狼は、すべて漏れなく刈り尽くしている。群のボスみたいな存在もいない。
普通の狼ならまだしも、魔獣は集団行動などしない。そこからして、今回の魔狼の行動はかなり異常だ。
いつもとは違うことが起きている原因。
「推測ではあるが」
と、昨夜、前置きしてナルフェブルが語った内容。
「魔狼の行動パターンは、狼などの獣のものではなく、訓練された騎士や兵士に近いものだ。魔狼の行動は人間が操っている可能性が高い」
さすがのナルフェブルも、データ不足で操る手段までは解明できなかった。
「躯には目立った痕跡はなかったので、離れたところから魔法で操られていると考えるのが一番、無難だな」
「そんな魔法あるか?」
「ないなら作ればいい、と開発者なら考えると思う」
ナルフェブルは苦い顔で、そう締めくくった。
魔物召喚のメダルを作り出した開発者は、ナルフェブルの元同僚。
どれだけ接点があったかは窺いしれないが、ナルフェブルにも思うところがあるようだった。
俺が昨夜のことを振り返っている間にも、魔狼の襲撃は繰り返されていた。
目の前に迫る魔狼を一撃で斬り伏せ、腐れ魔種に視線を戻すと、
「黒竜といっても、大したことないな」
腐れ魔種のやつはあざ笑うかのような口調で、俺を挑発してくる。
「お前の奥さんでいるより、俺のお嫁さんになった方が、クロスフィアも幸せなんじゃないか?」
ムスッとしながら俺はもう一匹、斬り伏せた。ザシュッという音と血飛沫が辺りに散る。
「師団長。もっと丁寧に」
駆け寄ってきたのはデルストーム。
銀竜の副官を務めている真面目な男で、黒竜録の大ファンだとか。
どうりで、こいつをちょくちょく執務室で見かけるはずだ。
執務室には閲覧室なるものが付属されている。というか、なんというか、いつの間にかあったんだよな、あれ……。その閲覧室では国家機密でもある第六師団の貴重な記録を閲覧できる。
逆に言うと、第六師団の閲覧室以外では見ることのできない貴重な記録。
その記録が上位竜種の稀少な生態を記録した『黒竜録』だ。
黒竜録といえば聞こえはいいが、俺とフィアのプロポーズやらデートやら旅行やらを隠し録りして編集した代物。
なぜか、若い普通竜種の間で人気だそうだ。
その黒竜録ファンのデルストームは、真面目な顔で辺りの浄化を行っていた。
黒竜録ファンという以外、性格的には至って特徴もなく、戦闘能力的にはカーネリウスやドラグゼルンにやや劣る。
特技は浄化。この能力と竜種にしては当たり障りのない性格を買われて、第五師団の副官に抜擢されている。
「なるべく血飛沫はあげないようお願いします、師団長。それと、そっちの魔種の人も」
物怖じすることもなく、上位魔種をジロッと睨んだ。
「あいつ、リアル黒竜録の邪魔はしないでほしいなぁ」
どこまでも黒竜録に繋がるのか。
「ん? でも、愛に障害は付き物。ライバル対決ってことか。なるほど」
だから、現実に戻ってこい、デルストーム。
腐れ魔種は注意されて鼻白むも、辺りをチラッと見回し、ベルンドゥアンとメランド卿に目を付けた。
「だいたい、あの二人はクロスフィアの護衛だろ? 護衛が離れるなんて、なってないんじゃないか?」
おい、腐れ魔種。ベルンドゥアンが、もの凄い形相で睨んでるぞ。
そのうちお前、ベルンドゥアンに闇討ちされるんじゃないか?
ベルンドゥアンは普通種だが、あのカーシェイとも渡り合えるほどの騎士だ。
そのそばには、無言で腐れ魔種を睨みつけるメランド卿の姿もあった。表情はまったく読めない。
二人とも、絶え間なく襲ってくる魔狼の相手をしていた。相手をしながらも、腐れ魔種を睨んでいる。
突然、メランド卿がフッと消えた。と思ったら腐れ魔種の背後にフワッと現れる。
うおっと声を上げ、バランスを崩す腐れ魔種。
表情にはまったく出ていないが、挑発し返すあたり、メランド卿も機嫌が悪そうだ。
まぁ、二人とも、痛いところを付かれたものだからな。
メランド卿に背後を取られ、よろけながらも、腐れ魔種は挑発を止めない。
「夫も護衛もなしで混沌の樹林に放り出されるなんて。フェブキアに来れば、クロスフィアをそんな目に合わせないのにな」
その言葉に、俺も護衛の二人も、生意気な腐れ魔種に殺気を飛ばす。
バチバチと殺気のこもった視線が飛び交う中、俺たちの会話に口を挟んでくるやつがいた。
蓋を開けてみると、なぜか、腐れ魔種のやつと俺は対峙していた。
正確には、襲い来る魔狼と対峙しながら、腐れ魔種と話をしていることになる。
おかしい。
最終日は余裕を持って、ゆったり狩りをするはずで。俺の隣にはフィアがいて「ラウ、凄い!」って俺の腕に驚いたり喜んだり誉めてくれたりするはずだったんだ。
それなのに。
「クロスフィアはいないのかよ」
そう、フィアはいない。
「魔狼の襲撃にあって離されたんだ」
「はっ」
腐れ魔種のやつは鼻で笑ったが、俺は事実を告げただけ。笑われる筋合いは一切ない。
最終日の今日、魔狼の動きはさらに組織的になっていた。
昨日の今日でだいぶ慣れたとでもいうような感じに。
襲いかかってくる魔狼は、すべて漏れなく刈り尽くしている。群のボスみたいな存在もいない。
普通の狼ならまだしも、魔獣は集団行動などしない。そこからして、今回の魔狼の行動はかなり異常だ。
いつもとは違うことが起きている原因。
「推測ではあるが」
と、昨夜、前置きしてナルフェブルが語った内容。
「魔狼の行動パターンは、狼などの獣のものではなく、訓練された騎士や兵士に近いものだ。魔狼の行動は人間が操っている可能性が高い」
さすがのナルフェブルも、データ不足で操る手段までは解明できなかった。
「躯には目立った痕跡はなかったので、離れたところから魔法で操られていると考えるのが一番、無難だな」
「そんな魔法あるか?」
「ないなら作ればいい、と開発者なら考えると思う」
ナルフェブルは苦い顔で、そう締めくくった。
魔物召喚のメダルを作り出した開発者は、ナルフェブルの元同僚。
どれだけ接点があったかは窺いしれないが、ナルフェブルにも思うところがあるようだった。
俺が昨夜のことを振り返っている間にも、魔狼の襲撃は繰り返されていた。
目の前に迫る魔狼を一撃で斬り伏せ、腐れ魔種に視線を戻すと、
「黒竜といっても、大したことないな」
腐れ魔種のやつはあざ笑うかのような口調で、俺を挑発してくる。
「お前の奥さんでいるより、俺のお嫁さんになった方が、クロスフィアも幸せなんじゃないか?」
ムスッとしながら俺はもう一匹、斬り伏せた。ザシュッという音と血飛沫が辺りに散る。
「師団長。もっと丁寧に」
駆け寄ってきたのはデルストーム。
銀竜の副官を務めている真面目な男で、黒竜録の大ファンだとか。
どうりで、こいつをちょくちょく執務室で見かけるはずだ。
執務室には閲覧室なるものが付属されている。というか、なんというか、いつの間にかあったんだよな、あれ……。その閲覧室では国家機密でもある第六師団の貴重な記録を閲覧できる。
逆に言うと、第六師団の閲覧室以外では見ることのできない貴重な記録。
その記録が上位竜種の稀少な生態を記録した『黒竜録』だ。
黒竜録といえば聞こえはいいが、俺とフィアのプロポーズやらデートやら旅行やらを隠し録りして編集した代物。
なぜか、若い普通竜種の間で人気だそうだ。
その黒竜録ファンのデルストームは、真面目な顔で辺りの浄化を行っていた。
黒竜録ファンという以外、性格的には至って特徴もなく、戦闘能力的にはカーネリウスやドラグゼルンにやや劣る。
特技は浄化。この能力と竜種にしては当たり障りのない性格を買われて、第五師団の副官に抜擢されている。
「なるべく血飛沫はあげないようお願いします、師団長。それと、そっちの魔種の人も」
物怖じすることもなく、上位魔種をジロッと睨んだ。
「あいつ、リアル黒竜録の邪魔はしないでほしいなぁ」
どこまでも黒竜録に繋がるのか。
「ん? でも、愛に障害は付き物。ライバル対決ってことか。なるほど」
だから、現実に戻ってこい、デルストーム。
腐れ魔種は注意されて鼻白むも、辺りをチラッと見回し、ベルンドゥアンとメランド卿に目を付けた。
「だいたい、あの二人はクロスフィアの護衛だろ? 護衛が離れるなんて、なってないんじゃないか?」
おい、腐れ魔種。ベルンドゥアンが、もの凄い形相で睨んでるぞ。
そのうちお前、ベルンドゥアンに闇討ちされるんじゃないか?
ベルンドゥアンは普通種だが、あのカーシェイとも渡り合えるほどの騎士だ。
そのそばには、無言で腐れ魔種を睨みつけるメランド卿の姿もあった。表情はまったく読めない。
二人とも、絶え間なく襲ってくる魔狼の相手をしていた。相手をしながらも、腐れ魔種を睨んでいる。
突然、メランド卿がフッと消えた。と思ったら腐れ魔種の背後にフワッと現れる。
うおっと声を上げ、バランスを崩す腐れ魔種。
表情にはまったく出ていないが、挑発し返すあたり、メランド卿も機嫌が悪そうだ。
まぁ、二人とも、痛いところを付かれたものだからな。
メランド卿に背後を取られ、よろけながらも、腐れ魔種は挑発を止めない。
「夫も護衛もなしで混沌の樹林に放り出されるなんて。フェブキアに来れば、クロスフィアをそんな目に合わせないのにな」
その言葉に、俺も護衛の二人も、生意気な腐れ魔種に殺気を飛ばす。
バチバチと殺気のこもった視線が飛び交う中、俺たちの会話に口を挟んでくるやつがいた。
0
お気に入りに追加
229
あなたにおすすめの小説
【完結】お飾りではなかった王妃の実力
鏑木 うりこ
恋愛
王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。
「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」
しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。
完結致しました(2022/06/28完結表記)
GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。
★お礼★
たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます!
中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!
【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました
桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて…
小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。
この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。
そして小さな治療院で働く普通の女性だ。
ただ普通ではなかったのは「性欲」
前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは…
その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。
こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。
もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。
特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。
アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。
捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!!
承諾してしまった真名に
「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。
ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)
三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。
各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。
第?章は前知識不要。
基本的にエロエロ。
本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。
一旦中断!詳細は近況を!
【完結】呪いを解いて欲しいとお願いしただけなのに、なぜか超絶美形の魔術師に溺愛されました!
藤原ライラ
恋愛
ルイーゼ=アーベントロートはとある国の末の王女。複雑な呪いにかかっており、訳あって離宮で暮らしている。
ある日、彼女は不思議な夢を見る。それは、とても美しい男が女を抱いている夢だった。その夜、夢で見た通りの男はルイーゼの目の前に現れ、自分は魔術師のハーディだと名乗る。咄嗟に呪いを解いてと頼むルイーゼだったが、魔術師はタダでは願いを叶えてはくれない。当然のようにハーディは対価を要求してくるのだった。
解呪の過程でハーディに恋心を抱くルイーゼだったが、呪いが解けてしまえばもう彼に会うことはできないかもしれないと思い悩み……。
「君は、おれに、一体何をくれる?」
呪いを解く代わりにハーディが求める対価とは?
強情な王女とちょっと性悪な魔術師のお話。
※ほぼ同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※
神子召喚に巻き込まれた俺はイベントクラッシャーでした
えの
BL
目が覚めると知らない場所でした。隣の高校生君がBLゲーム?ハーレムエンドとか呟いてるけど…。いや、俺、寝落ち前までプレイしてたVRMMORPGのゲームキャラなんですけど…神子召喚?俺、巻き込まれた感じですか?脇役ですか?相場はモブレとか…奴隷落ちとか…絶対無理!!全力で逃げさせていただきます!!
*キーワードは都度更新していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる