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6 討伐大会編
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「そうだ、私だけ名乗ってない!」
ラウもイリニも名乗ったんだから、次は私の番か。
コホンと軽く咳払いをしてから、私は口を開いた。自己紹介なんて久しぶりで、ちょっと緊張する。
「私はクロスフィア・クロエル・ドラグニール。エルメンティアの特級補佐官で、赤種の四番目」
赤種の威厳を保ちつつ、かといって、偉ぶり過ぎることなく。
それが私の目指すところ。
赤種なんだから好きにしていいんだ、とテラは言う。だとしても、し過ぎて良いことなんて、世の中に何一つない。
「ラウは私の夫なんだから、苛めないで」
その言葉も付け加えておいた。
「ドラグニール師団長。そこでドヤ顔しないでいただけます?」
「ァア? 別に良いだろうが、フィアに愛されてるのは俺なんだから」
「なんか、ムカつくんですよね」
ラウとジンクレストのこそこそ話(丸聞こえ)は聞こえないフリ。
イリニにも、こそこそ話は聞こえたようで、憮然とした顔をしている。
それでも、イリニはラウたちの会話には触れず、
「黒竜が夫だと? それより、赤種の四番目って破壊の赤種か。なるほど、それであの魔力圧」
私の自己紹介の方に興味を示した。
「どうりで違うわけだよな。あの突き刺さるような痛みは、普通ではありえない」
「誉めてるの? 貶してるの?」
ちょっと、イリニの興味の示すところがおかしい。
「そうか、分かるか。フィアのあの肌に突き刺さるような、心臓を抉られるような、魔力圧が」
ラウもおかしい。いや、おかしいのは元からだけど。
「当然だろう。あのうっとりするような痛み。他では絶対に味わえない」
「そうだろう、そうだろう。見る目はあるな、お前」
二人揃っておかしい。
「て、意気投合してるし」
「だが、これとそれとは別問題だ。俺はフィアを譲る気はない」
「安心しろ、譲られるつもりはない。お前から奪い取るだけだ」
「だから。夫は間に合ってるから」
私は二人に対してきっぱりと言い放った。
二人がいつまでも言い争っているものだから、辺りは人だかりだ。
恥ずかしい。
こんなことでこんなに目立つつもりはなかったのに。
エルメンティアとザイオン代表が集まっているだけかと思ったら、メイ群島国もいる。
他にも、黒マントで頭からフードをスッポリとかぶった怪しい人たちもいる。あれは、スヴェートか。
よくよく視ると、黒地に黒糸の刺繍でスヴェートの紋章が入っているわ。私の眼じゃなければ、絶対に気が付いてもらえないよ、あれ。
それと、なんとなく、カーシェイさんらしき魔力波動やスヴェート皇女らしき魔力波動も感じたような気もした。
なんとなく、それに、あまりにも僅かな物だったので、違うかもしれない。
他の人に魔力の痕跡が残っていたのを拾い上げただけな可能性もある。
まぁ、竜種で騎士のカーシェイさんがスヴェートチームとして来ていたとしても、不思議ではない。
ただ、スヴェート皇女は参加するだろうか。
うん、よく分からないけど。
私たちの周りはそんな感じの人だかりで、視線がもの凄く集中しているのに、イリニが気にしている様子はまったくなかった。
視線に慣れているのか、それとも、はなから気にしないのか。
イリニは変わらない口調で、いまさらなことを尋ねてくる。
「まさかとは思うが、クロスフィアは、黒竜みたいなのがタイプなのか?」
「うん。ラウって、懐いた熊みたいでかわいいから」
少なくとも嫌いなタイプだったら、結婚を破壊しているし。それに、ラウは意外とかわいいんだ。
だから、堂々と返事をすると、反応がこれだ。
「は? かわいい? これが?」
イリニに唖然とした顔をされる。
「気持ちは痛いほど分かります」
「お前、どっちの味方だよ」
ラウとジンクレストも何か言い合っているのが聞こえるけど。そんなことよりも、夫をこれ扱いされた方が問題だ。
「過保護で粘着質で独占欲が強くて愛情が重くて距離感がおかしく変質者で執着が過ぎるところがなければ、ラウはいい夫なんだから」
「問題部分が多すぎませんか?」
「俺に問題なんて何一つないぞ」
「破壊の赤種ともなると、好む男性のタイプも独特なんだな」
「誉めてないよね? 貶してるよね?」
さっきから酷いことばかり言ってくるよ、こいつ。
やっぱり、イリニとは合いそうもない。
「お前はフィアの好むタイプじゃないんだ。さっさと、自分のチームの戻るんだな。そして、独りで国に帰れ」
「トカゲは引っ込んでろよ。だいたい、こんな素敵な女性を、簡単に諦めるわけがないだろう」
こうして、ラウとイリニの言い争いは続く。
ラウの言い分はもっともだから、私としても止めるつもりはサラサラないし。
だから、言い争いは終わらない。
「まったく、クロスフィア様も歩くそばから、粘着質を引き寄せますよね」
「私のせいじゃないっ…………て」
粘着質で思い出した。
「何か心当たりあるんですか?」
「いや、別に」
ジンクレストには否定したけど、心当たりはばっちりあった。
よく当たると有名な占い師の占い。
男運が悪いって言われてたわ。
「それなら結構です。クロスフィア様には、嫉妬深くて粘着質だけれど力だけは最強の夫と、頼もしい専属護衛がいれば十分ですから」
「さりげなく、ラウの解説と自分アピールしないでくれる?」
占い結果をジンクレストにナイショにするとして、この二人の言い合いをどう終わらせようか。
イリニのことが気にくわなくても、いつまでも、こうしているわけにはいかないよね。
次のことを考える私の背に、甲高い声がかけられた。
「クロスフィアさん、連れてきましたわ、捨て石を!」
この際だ。捨て石でもなんでも、投じてみるとしよう。
ルミアーナさんが連れてきた捨て石は、予想通りの人物だった。
ラウもイリニも名乗ったんだから、次は私の番か。
コホンと軽く咳払いをしてから、私は口を開いた。自己紹介なんて久しぶりで、ちょっと緊張する。
「私はクロスフィア・クロエル・ドラグニール。エルメンティアの特級補佐官で、赤種の四番目」
赤種の威厳を保ちつつ、かといって、偉ぶり過ぎることなく。
それが私の目指すところ。
赤種なんだから好きにしていいんだ、とテラは言う。だとしても、し過ぎて良いことなんて、世の中に何一つない。
「ラウは私の夫なんだから、苛めないで」
その言葉も付け加えておいた。
「ドラグニール師団長。そこでドヤ顔しないでいただけます?」
「ァア? 別に良いだろうが、フィアに愛されてるのは俺なんだから」
「なんか、ムカつくんですよね」
ラウとジンクレストのこそこそ話(丸聞こえ)は聞こえないフリ。
イリニにも、こそこそ話は聞こえたようで、憮然とした顔をしている。
それでも、イリニはラウたちの会話には触れず、
「黒竜が夫だと? それより、赤種の四番目って破壊の赤種か。なるほど、それであの魔力圧」
私の自己紹介の方に興味を示した。
「どうりで違うわけだよな。あの突き刺さるような痛みは、普通ではありえない」
「誉めてるの? 貶してるの?」
ちょっと、イリニの興味の示すところがおかしい。
「そうか、分かるか。フィアのあの肌に突き刺さるような、心臓を抉られるような、魔力圧が」
ラウもおかしい。いや、おかしいのは元からだけど。
「当然だろう。あのうっとりするような痛み。他では絶対に味わえない」
「そうだろう、そうだろう。見る目はあるな、お前」
二人揃っておかしい。
「て、意気投合してるし」
「だが、これとそれとは別問題だ。俺はフィアを譲る気はない」
「安心しろ、譲られるつもりはない。お前から奪い取るだけだ」
「だから。夫は間に合ってるから」
私は二人に対してきっぱりと言い放った。
二人がいつまでも言い争っているものだから、辺りは人だかりだ。
恥ずかしい。
こんなことでこんなに目立つつもりはなかったのに。
エルメンティアとザイオン代表が集まっているだけかと思ったら、メイ群島国もいる。
他にも、黒マントで頭からフードをスッポリとかぶった怪しい人たちもいる。あれは、スヴェートか。
よくよく視ると、黒地に黒糸の刺繍でスヴェートの紋章が入っているわ。私の眼じゃなければ、絶対に気が付いてもらえないよ、あれ。
それと、なんとなく、カーシェイさんらしき魔力波動やスヴェート皇女らしき魔力波動も感じたような気もした。
なんとなく、それに、あまりにも僅かな物だったので、違うかもしれない。
他の人に魔力の痕跡が残っていたのを拾い上げただけな可能性もある。
まぁ、竜種で騎士のカーシェイさんがスヴェートチームとして来ていたとしても、不思議ではない。
ただ、スヴェート皇女は参加するだろうか。
うん、よく分からないけど。
私たちの周りはそんな感じの人だかりで、視線がもの凄く集中しているのに、イリニが気にしている様子はまったくなかった。
視線に慣れているのか、それとも、はなから気にしないのか。
イリニは変わらない口調で、いまさらなことを尋ねてくる。
「まさかとは思うが、クロスフィアは、黒竜みたいなのがタイプなのか?」
「うん。ラウって、懐いた熊みたいでかわいいから」
少なくとも嫌いなタイプだったら、結婚を破壊しているし。それに、ラウは意外とかわいいんだ。
だから、堂々と返事をすると、反応がこれだ。
「は? かわいい? これが?」
イリニに唖然とした顔をされる。
「気持ちは痛いほど分かります」
「お前、どっちの味方だよ」
ラウとジンクレストも何か言い合っているのが聞こえるけど。そんなことよりも、夫をこれ扱いされた方が問題だ。
「過保護で粘着質で独占欲が強くて愛情が重くて距離感がおかしく変質者で執着が過ぎるところがなければ、ラウはいい夫なんだから」
「問題部分が多すぎませんか?」
「俺に問題なんて何一つないぞ」
「破壊の赤種ともなると、好む男性のタイプも独特なんだな」
「誉めてないよね? 貶してるよね?」
さっきから酷いことばかり言ってくるよ、こいつ。
やっぱり、イリニとは合いそうもない。
「お前はフィアの好むタイプじゃないんだ。さっさと、自分のチームの戻るんだな。そして、独りで国に帰れ」
「トカゲは引っ込んでろよ。だいたい、こんな素敵な女性を、簡単に諦めるわけがないだろう」
こうして、ラウとイリニの言い争いは続く。
ラウの言い分はもっともだから、私としても止めるつもりはサラサラないし。
だから、言い争いは終わらない。
「まったく、クロスフィア様も歩くそばから、粘着質を引き寄せますよね」
「私のせいじゃないっ…………て」
粘着質で思い出した。
「何か心当たりあるんですか?」
「いや、別に」
ジンクレストには否定したけど、心当たりはばっちりあった。
よく当たると有名な占い師の占い。
男運が悪いって言われてたわ。
「それなら結構です。クロスフィア様には、嫉妬深くて粘着質だけれど力だけは最強の夫と、頼もしい専属護衛がいれば十分ですから」
「さりげなく、ラウの解説と自分アピールしないでくれる?」
占い結果をジンクレストにナイショにするとして、この二人の言い合いをどう終わらせようか。
イリニのことが気にくわなくても、いつまでも、こうしているわけにはいかないよね。
次のことを考える私の背に、甲高い声がかけられた。
「クロスフィアさん、連れてきましたわ、捨て石を!」
この際だ。捨て石でもなんでも、投じてみるとしよう。
ルミアーナさんが連れてきた捨て石は、予想通りの人物だった。
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