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6 討伐大会編

1-0 魔獣活動期が始まった

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 魔獣の活動期が始まった。

 おかげで、厄介事専門の第六師団は今日も大忙しだ。

 第六師団が担当する巡回区域の他、他師団担当の区域からも応援要請が入る。

 魔物はともかく魔獣なら、第六師団のどの部隊も単独で倒すことができるため、全部隊が駆り出される。休む暇もない。

 ちなみに。

 私を含む、ラウ直属の幹部はお留守番組で、師団長室と執務室を往復するだけ。
 いざという時の重要な戦力なんだそうだけど、ちょっと身体を動かしたくもなる。

 魔獣の活動期は夏。七月から始まり、八月にピークを迎える。

 なんで魔獣に活動期があるのかは、一般的には公表されていないけど。どうやら、混沌の樹林の成長具合と混沌の気の放出量に原因があるらしい。
 混沌の樹林は、分類上は樹木に分類され、夏場が成長期に当たる。樹林の成長期が魔獣の活動期になるそうだ。

 成長期が終わる九月には、徐々に落ち着いてくるので、溢れかえる魔獣への対応は、この二ヶ月あまりの期間が勝負だった。




「それで、解析ならナルフェブルに任せればいいんじゃないか? 何も、僕を呼び出さなくてもさ」

 と、文句たらたらの言葉を投げつけるのは、赤種の一番目、創造の赤種であるテラだ。

 テラは、朱色に近い赤い色の目を持つ、私の同種。

 赤種は、何番目という順番だったり、権能だったりで区別される他、目の色で呼ばれることが多い。
 テラは朱色なので、バーミリオン。塔や師団の人たちは、たいてい、こっちで呼ぶ。

 本名は、リングテラ・クロエル。長いので、私はテラと縮めて呼んでいる。
 確か、国王もテラ君と呼んでいたよね。けっこう仲がいいのかも。

 テラは見かけは十歳くらいの少年。

 大神殿の神官見習いと同じ服を着ているので、初めて会ったときは、一番下っ端なのかと思ったほど。
 いやだって、普通は一番偉い人が出迎えや案内なんてしないよね。

 まぁ、それも私が赤種だったから、やった行動だと思いたい。

 テラのことだから、何も知らない人たちの様子を探るために、他でもやってそうな気がしないでもない。

 見た目が子どもだからと侮る人間はどこにでもいる。
 相手が大人でも役職を持っていても、精霊魔法の技能を持たない『技能なし』というだけで、相手の他の能力を無視して、蔑む人間がいるのと同じように。

 テラは、お菓子をかじる仕草こそ年相応だけど、口から出てくる言葉や口調はまるで違っていた。

 見た目のわりに中身はかなり老けている。

 以前、時空の狭間にあるデュク様の神殿で会ったときは、若者くらいの姿をしていたので、精神年齢もおそらくそのくらい。

 そんなテラが、開口一番、文句を言うのはもはや仕様。

 私は事も無げに言い返す。

「だって、テラもラウの新作のお菓子、食べたいでしょ?」

 新作のお菓子という言葉に、うっ、と一瞬、狼狽えるテラ。

 本人だって分かってるだろうに。

 控えめにではあるけど、目の前のテーブルに置かれている、焼き菓子の数々を。

「レストス特産のフルーツを使ったパイ、食べたいでしょ?」

 私は追い打ちをかけた。

 テラは降参したように両手をあげて、軽く頭を左右に振る。

「分かった分かった。第六師団の手伝いをちょっとするだけで、旨い菓子にありつけるのは願ってもないことだしな」

 ちょっとやそっとではなく、がっつり働かせようとしていた私たちは、静かにニコリと笑うだけ。

 そう、ここは第六師団。いつもなら師団長室でのやりとりを、今日は執務室の会議で行っていた。

 なにしろ、今日は人数が多い。

 ちょこんと座るテラの目の前に私とラウが陣取り、副師団長のミラマーさんとその副官さんたちが下座に座る。

 テラの隣の下座には、ラウ直属の副官エルヴェスさんと、もう一人の副官補佐のルミアーナ・エレバウトさん。
 エルヴェスさんの補佐、補佐一号さんと二号さんはお茶を入れたり、資料を配ったり、接待業務に徹している。

 もう一人の副官、カーネリウスさんはなぜか座らず、エルヴェスさんの後ろに控えていた。
 頭を使うことは補佐のルミアーナさんに任せるつもりだな、これ。

 ちらっとカーネリウスさんの方を見たとたん、ささっとカーネリウスさんは顔を伏せる。

 ルミアーナさんの方に視線をずらすと、それだけで言いたいことが通じたようで、ルミアーナさんは眉毛を下げて、肩をすくめた。
 カーネリウスさんの行動には困っているけど、ルミアーナさんが代わりになること自体は困るようなものでもない。そんなところか。

 私は視線をテラに戻した。

 今日人数が多いのは、第六師団の留守番組勢揃いしているせい。副官、補佐まで含めて全員が揃うことは滅多にない。

 滅多にないことが起きるくらい、今日の議題は重要なものだったのだ。

 私のヤバい夫で第六師団の師団長であるラウが口火を切る。

「最近の魔獣の発生件数についてだ」

 魔獣の活動期なので、魔獣の数がいつもより多いのは当たり前。

 ところがだ。ラウによると、例年の倍くらいの数になっていて、いつもより遥かに多いのだという。

「ナルフェブルにももちろん解析は依頼しているが、ナルフェブルでは知っていることに限界がある」

 ラウは言外に、テラなら知ってることがあるだろうと問い詰める。

「あぁ。それで、僕の意見も聞きたいってことか」

 ラウの言外の言葉を受けて、テラは朱色の目をキラリと光らせた。
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