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5 出張旅行編

6-0 解決には程遠くても

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 レストス旅行から戻ってきて、二週間が経った。

 三番目や開発者についての案件は解決の目処が立たないまま、季節は夏になり、魔獣の活動期へと入ってしまっている。

 この二週間は今までにないほど、多忙を極めた。

 レストス旅行の休暇で溜まった分に加えて、迎えた魔獣の活動期。

 第六師団は非常事態専門なこともあるのか、魔獣や魔物専門だと思われているせいか、他師団担当の場所からも平気で応援要請が入る。

 忙しくない方がおかしい。

 でも、二週間も経つと忙しさに身体が慣れるのか、忙しさのコツが掴めるのか、普段と変わらなくなってくる。

 そしてようやく明日は待望のお休み。

 この二週間、私もラウも休みなしでの働き詰めだったので、やっと息抜きができる。

 しかも!

 ラウがシュタム百貨店に連れて行ってくれるのだ!

 前に約束してくれたんだよね、お店の中を見て歩くやつ。
 安全の問題もあるので、警備のしやすい貸し切りにはなってしまったけど。

 来週から始まるレストスフェア、これのプレオープン前に丸ごと貸し切ったので、フェア一番乗りを味わえる。

 本物のレストスに行ってきたばかり。だけど、フェアはフェアで楽しめるはずだ。

 なにせ、今回のフェアは、エルヴェスさん会心の出来。選りすぐりのレストスが待ちかまえているに違いない。

 明日がとても楽しみだ。

「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 と、突然、テラが叫び声をあげた。

「いきなり、何なの?」

「なんで、僕が呼び出されてまで、君と黒竜のデートの話を聞かされないといけないんだよ!」

 なんだ、そんなことか。

「他に話せる人、いないし」

「しかも、行くのは明日だろ! 明日!」

「楽しみすぎて」

 そう。ここは師団長室。

 明日のお休みに備え、テラをお菓子で誘い出し、いろいろ語ってあげたのだ。

「行く前から惚気話はやめてくれよ!」

「大丈夫。ちゃんと行った後も報告するから」

「違う! デートの報告が聞きたいんじゃない! デートの話そのものを聞きたくないんだ!」

 文句をギャーギャー言う割には、しっかりお菓子を握りしめてるんだよね。
 なんだかんだ言っても、テラはお菓子の誘惑に勝てないんだから。嫌ならこっちの誘いに乗らなければいいだけなのに。

「はぁ。まったくテラは我が儘だなぁ」

「君が言うか?!」

「とにかく明日はお休みするから」

「勝手に行け、バカ夫婦!」

 プンプン怒りながらも、テラはお菓子を食べる手を止めなかった。




 そうして迎えた、シュタム百貨店貸し切り日。

 正面入り口の前に、ずらーっと従業員が勢揃いして、私たちを出迎えてくれた。
 なんだか、師団の騎士が一列に揃って敬礼する様にも似た何かを感じて、ちょっと圧倒される。
 百貨店の従業員なら、非戦闘員のはずなのに。なんだろう、この圧は。

「レストスホテルの従業員さんたちも凄かったけど、シュタム百貨店の従業員さんたちも凄いね」

「あぁ、どう見ても非戦闘員に見えんな」

 ラウも同じことを感じていたようだ。

 そして中に案内され、念願の見て歩きながらのショッピングが開始となった。

 さすがはシュタム百貨店。

 どこまでもレストス尽くしだ。

「エルヴェスの目的は元々、このレストスフェアだったからな。俺たちの旅行に協力的なはずだよな」

 と、大きく頷きっぱなしのラウ。

「見て見て、ラウ。レストスでいっしょに食べたフルーツがあるよ」

 これ、最初にラウと食べたよね。
 あーんて食べさせてあげたら、ラウ、すごく喜んでたよね。

「見て見て、ラウ。レストスでいっしょに食べたスイーツもあるよ」

 これ、ユクレーナさんも初めて食べたって言ってたやつ。
 これもラウにあーんてしてあげたんだったな。ラウ、すごくすごく喜んでたよね。

「見て見て、ラウ。レストスでいっしょに食べた料理もあるよ」

 て、あれ?

「さっきから、俺たちがいっしょに食べた物しか、見当たらないような気がするんだが」

「うん、そんな気がする」

 ふと、レストスフェアの宣伝の横断幕が目に入った。

「見て見て、ラウ」

 思わず指をさす。

「荒竜と破壊のお姫さまが巡ったレストスフェア、て書いてある」

「あーーいーーつーーー!」

 『荒竜と破壊のお姫さま』とは、シュタム劇場で上演されている大人気の劇だ。人気過ぎて、いまだにキャンセル待ちが続いているらしい。

 シュタム劇場もシュタムグループの傘下。話題の劇はエルヴェスさんのプロデュースだという。

 私とラウは、一時期、この劇のモデルじゃないかとも噂されていた。

 そんな噂がある私たちが、レストス旅行で巡った場所や食べた物が、堂々と紹介されていて、しかも、宣伝文句がこうなってくると、考えられるのはひとつしかない。

 人気の劇と絡めて百貨店でフェアを開催し、大儲けする。

 劇場も百貨店も繁盛するし、なんなら、レストスのホテルも予約で賑わいそうだ。

「エルヴェスさんの本当の目的は、これだったんだね」

 普通のレストスフェアよりもこっちの方が話題性があるし、なにより儲かるよね。

 おっと。のんびりしている場合ではなかった。

 ラウが荒ぶりすぎて、本物の荒竜になる前に宥めておかないと。

 私の隣で、ぐむむむとうなり声をあげるラウ。その手をギュッと握って、私はラウの腕を引っ張った。

「ラウ、旅行の思い出巡りみたいで、楽しいね」

「そうか? まぁ、フィアがそう言うのなら、いいか」

 納得がいかなそうな顔をしていたラウも、私から手をギュッと握ったのが嬉しかったのか、目尻を緩めた。

「それじゃあ、どこから行く?」

「そうだねぇ」

 私は首を傾げる。
 どのお店もラウとの思い出がいっぱい。

 レストスで巡った順番で回るのが、一番かな。

 正直、レストス旅行の『仕事』の部分は失敗だらけだった、と思っている。

 開発者は確保できず、三番目は姿をくらまし、スヴェート側の動きも分からないまま。
 感情の神の関与と目的が分かったくらいで、解決には程遠い。

 それでも。

 心強い夫や仲間といっしょなら、不思議と自信がわいてきて、なんとかなりそうな気分になってくる。

「あそこから行こうよ」

 私はラウの手を握りしめ、シュタム百貨店のフェアを楽しんだのだった。
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