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5 出張旅行編

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 だいぶ、繋がりが見えてきた。

 というか、

「前提がだいぶ違っていた、と言った方が正しいな」

 テラが珍しく硬い表情だ。

 まぁ、それも仕方ないだろうな。

「まさか三番目が、デュク様を裏切るだなんてな」

 赤種が加護を与えてもらった神を裏切る。

 あり得ないこと、あってはならないことだったのに、起きてしまったのだから。




 今回の収穫は、私が聞いた小さいメダルの開発者エルシュミットの話と、ラウが遭遇した赤種の三番目とカーシェイさんの話。

 ラウとジンクレストが三番目と対峙して交戦した話は聞いていたんだけれど。

 そこにカーシェイさんと元第四師団の騎士たちまでいて、乱戦になったという話を知ったのは、王都に帰ってきてから。

「なんで、カーシェイさんの話を教えてくれなかったの?」

 という、もっともな質問に対して、

「フィアが俺以外の男に興味を持つのが気に入らない」

 という、なんとも竜種らしい言葉が返ってきた。これで納得してしまった私も私だけど。

 けっきょく、ラウの詳細が分かったのは報告書のおかげだったので、私も文句を引っ込めて報告書作成に協力してあげたのだ。

 その結果、導き出されたのがテラが語った内容だ。

「赤種の三番目、ディアドレッド・クロエルは感情の神に協力して、赤種の四番目を狙っている」

 もっとハッキリと言葉にした、緊急会議に集まった皆の目の前で。
 それはテラが初めて口にする、三番目との敵対宣言でもあった。




「ちょっと待ってくれ。理解が追いつかない。ひとつひとつ、確認しながらにしたいんだが、構わないな?」

「これだから、オッサンは」

 総師団長の待ったに対して、テラが呆れたような顔を見せる。

「報告書を読めよ」

 今日の会議は、小さいメダル開発者の動向報告。私とラウの他、塔長やテラだけでなく、第七師団からはわざわざ金竜さんもやってきていた。

 そして、内容が内容だけに、本部から総師団長もやってきていたのだ。

「仕方ないだろう。実際に見聞きしたわけでもなく、報告書をポンと渡されただけなんだから」

「あー、分かった分かった。で、何が聞きたいんだ?」

 せっかく本題から入りたいのに、テラと総師団長の話から始まってしまって、ちょっとイラッとする。

 まぁ、総師団長は直接関わっていないので、他の人と理解が違うのは仕方ないか。

 にしても、

「応対が雑」

 テラがまるで子どもでも扱うように、総師団長に応対している。同種とはいえ、さすがに肩を持つ気にもなれない。

「フィアが心配するようなことじゃない」

 隣に座るラウが私の頭をポンポンと叩く。
 そして、もう片方の空いている手が懐から何かを取り出した。さっと私の目の前に差し出す。

「フィアはこれでも見ていればいいから」

「むぅ、これは…………」

 差し出されたのは、レストス旅行の思い出の記録画。

 それが、何枚も。

 いつ撮ったんだ、これ。

 記録班がどんどん諜報班化している様な気がするんだけど。

 私がラウから渡された記録画を見ている間にも、テラと総師団長の話は進んでいた。

「まず、名もなき混乱と感情の神は一柱ではなく、双子神、つまり二柱なのか?」

「はぁぁ? そこからか?」

「大神殿の話と違うだろう。わざと偽りを広めてたのか?」

「はぁぁ? そこもか? いちいち説明しないといけないのか? 面倒だなぁ」

 テラは、突っ込んだ質問をする総師団長に向けて、嫌な顔をした。
 総師団長はテラの嫌な顔を見ても、まったく気にせず、答えを求めた。

 はぁぁぁ。

 テラのため息が漏れる。

 しばらくは、テラがお菓子をかじる音しか聞こえなかったが、一つ食べ終えるとテラが口を開いた。

 そして、テラの語った内容は予想もしないものだった。

「名もなき混乱と感情の神に、人格が二つあるのは事実だが、実態が分かっていない」

「はん? 実態とはどういう意味だ?」

 それより、『人格が二つある』ことが『事実』だと断言したことに、ビックリする。
 テラや大神殿はそのことを知っていたってことだ。

 私も記録画を見るのをやめて、テラと総師団長の話に注目した。
 塔長は何事もなかったかのように、優雅にお茶を飲んでいるけど、ラウも金竜さんも、二人に注目している。

「神体が二つあって、それぞれに意志を持つ人格があれば双子神。
 しかし、一つの神体に二つの人格があるのなら、双子とは言わないだろ?」

「それはそうだ。で、どっちなんだ?」

「どっちでもないんだよ」

「もっと分からないんだが」

 総師団長の声が強くなった。テラの惑わすような言い方に、苛ついてきたようだ。

 テラは総師団長の態度を気にもせず、話を続ける。

「名もなき混乱と感情の神は、神体を成していない。身体がないんだ。二つの思念が一つの塊となったものだったんだよ」

 場が静まり返る。

 テラはお菓子に手を伸ばした。手にしたお菓子を一口かじって、また話が始まる。

「もしくは、一つの思念の塊に二つの人格があるか。とにかく、その辺の実態が不明なんだ」

 私もお茶を一口飲んだ。のどが渇く。

「神体がない。一つの思念体。二つの人格がある。それが分かっていることのすべてだ」

「だから、大神殿は『名もなき混乱と感情の神』と一括りにしたのか」

「そういうことだな」

 総師団長が静かに口を挟んだ。

 テラは総師団長を見て、やっと分かったか、と言いたげな顔をしているけど、まさしく知る人ぞ知る的な話じゃないの。

「なら、『名もなき』なのに、名前があるのは? 向こうの主張だと奪われたと言ってるようだが」

 総師団長はさらに疑問を投げかける。この際だから、いろいろ聞いてしまおうという魂胆だろう。

 テラは隠すのを諦めたのか、素直に応じた。

「神体がないんだ。神としての名前、神名もない」

「じゃあ」

「でも、乗っ取った身体の持ち主には、とうぜん、名前があった」

「ちょっと待ってくれ。名もなき混乱と感情の神が人間の身体を乗っ取ったってことか?」

「そうだ」

「そんな話は聞いたことがないぞ!」

「神体がないからな。人間の身体を乗っ取って、人間の中に入り込み、混乱を引き起こしたんだよ」

 あぁ、そこから先の話は知っている。

 混乱を治めるために、神は人を作ったけど、人は混乱に飲みこまれ。さらに神は赤種を作って、赤種は混乱を終わらせた。

「最後は破壊の赤種が、神が宿った身体を破壊して、終焉の赤種がその身体に終わりを与えたんだ」

「身体と名前を奪われたというのは……」

「言いがかりだな。乗っ取られた人間の身体と名前を、正しい状態に戻しただけさ」

「な、なら次は…………」

 けっきょく、総師団長の質問攻めと、テラの裏情報の吐き出しはしばらくの間、続いた。
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