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5 出張旅行編
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フィアと分断された俺たちは、さっきの場所まで戻り、左の通路を進んでいた。
こっちまで精霊王の暴走が影響していたらと不安に思うも、今のところとくに問題なく進めている。
問題があるとしたら、いっしょに進むパートナーだろう。
「まったく、なんで俺が、こんなやつといっしょに歩き回らないといけないんだ。俺の隣にいるのはフィアのはずなのに」
「それはこっちの台詞ですよ」
どうやら、向こうも俺とまったく同じことを考えていたらしい。ムカつくことに。
「まったく、なんでクロスフィア様の護衛の俺が、師団長なんかといっしょに行動しないといけないんですか」
「それこそ、俺の台詞だろ」
フィアが仲良くしろと言うので、仕方なく、無視したり決闘する程度でおさめているが、本来ならとっくに始末していたはずだ。
「クロスフィア様も、なんでこんな嫉妬深くて独占欲が強くて粘着質な竜種を相手に選んだんだか」
「ァア? フィアを伴侶に選んだのは俺だぞ?」
「まぁ、それはそうでしょうが」
俺たちはそれぞれ言いたいことを言いながら、どんとん進んでいった。
言い合いながらも、集中は切らさない。
幸運にも、通路は『いい状態』が続いている。それに通路自体には何の気配も感じられない。
床、壁、天井と石が組み合わされて作られているこの通路。
山の中腹を抉って奥深く入り込んでいる割に、どういう仕組みだか分からないが、外の光と空気を中まで取り込んでいる。
言ってみれば洞窟の奥深く。にも関わらず、明るくて空気は清涼。清々しさが感じられた。
しかし、通路の先の先のさらに奥からは複数の何ともいえない気配が漂ってくる。
俺もベルンドゥアンもその気配を気にしながら、会話を続けた。
「破壊の赤種は神をも壊す。だから、竜種の伴侶の契約くらい簡単に壊せますよね」
「まぁな」
「壊さず受け入れているってことは、クロスフィア様が師団長を選んだということですよ。忌々しいことに」
ベルンドゥアンは俺に反目しながらも、一応、フィアの夫だと認めている節がある。
結婚前はライバルだったこの男から、こういった台詞を聞かされると、なんだかこそばゆい。
「そうだな。俺はフィアに愛されてるからな」
「ムカつくので、頬を赤くしながら愛され発言するのは止めてくれませんか? 手がすべって、うっかり首を跳ねそうになります」
訂正する。やっぱりムカつく。
こいつなら、俺の首の一つや二つ、喜んで跳ねそうだ。
俺は眉を寄せ、知らず知らずのうちに痛くもない首筋に手を当てていた。
「お前、知らないのか? 俺を害したら、フィアにも衝撃がいくんだぞ」
「なんですか、それ。なおさら、ムカつきますね。クロスフィア様を人質にしないでください」
「竜種の夫婦は一心同体なんだよ」
「やっぱり、あの時。ネージュ様を止めておけば良かった。赤の樹林だって魔物が絶対出ないとは限らないと言って」
ベルンドゥアンが言うあの時とは、赤の樹林での一番初めの魔物討伐騒動のことだ。
あの時、あそこでフィアの前身であるネージュと出会っていなかったら、俺はどうなっていたんだろう。
分かるのは、今のような生活はできていなかったということだけ。
俺はあの時のことを思い出して、ふと、気になったことをベルンドゥアンに尋ねた。
「あの時のことだが。あの黒猫がいたって話だよな」
「はい。ただの猫ではないことは分かっていたんですが、まさか、赤種の三番目だったとは」
「つまりあの時点で、すでに、あの猫は小さいメダルで魔物を呼び出してた、というわけか」
「呼び出すところは確認できていませんが、本人の発言もありますから間違いないでしょう」
確かに、三番目自身がそう言っていた。自分が四番目を覚醒させたんだと。
となるの、やはり腑に落ちない。
「ずいぶんと計画的だが、それにしてはおかしい部分があるんだよな」
「え?」
「だって、そうだろう。わざわざ破壊の赤種を覚醒させてから、連れて行こうだなんて」
「確かにそうですね。連れ去りが目的なら覚醒前の方が楽ですし。覚醒が目的なら連れ去る必要はありませんし」
連れて行ってから覚醒させた方が楽だったろうに。なぜ、わざわざ楽ではない方にしたのか。しかも、計画的に。
ベルンドゥアンもようやく、おかしさに思い至ったようだ。
「つまり、なんらかの理由があって、ネージュ様ではダメで、クロスフィア様を連れて行く必要があったということでしょうか」
「おそらくな。理由は分からんがな。だから、人間に対する悪感情を植え付けて覚醒させ、連れて行こうとした」
「そのために、周囲の人間を操り、必要な道具も作らせたんですか。手が込んでいますね」
話に夢中になっているうちに、だいぶ奥まで進んできたようだ。空気が冷たくなってきた。通路も少し湿った土の臭いがする。
だいぶ奥まで来たというのに、まだ目的とする場所の半分くらいのようだ。手元の地図に目を落とした。
「グランフレイムのバカどもはネージュと接点があるから、利用されたんだろう。だが、あの猫と開発者がどうして繋がったんだか」
「接点がないということですね」
「接点もないし、そもそも、あのメダルを魔物召喚に応用する知識は、双方ともにないはずだ」
「バーミリオン様や第一塔長が、頭を抱えるのも仕方ありませんね」
「だな」
レクスも未だ接点が見つけられないらしい。たまたま出会ったにしては都合が良すぎる。
「だから直接、本人に聞いてみようかってことだ」
俺は地図から目を離し、暗くなっている通路の先に目を向けた。
ベルンドゥアンもオレに習って、暗がりを見つめる。
自然と足は止まっていた。
「なるほど。クロスフィア様に対する害悪も取り除けますしね」
暗がりを見て、ベルンドゥアンが俺の意見に同意する。
「あぁ、そういうことだ」
俺は大きく頷いた。暗がりに潜む闇を前にして。
こっちまで精霊王の暴走が影響していたらと不安に思うも、今のところとくに問題なく進めている。
問題があるとしたら、いっしょに進むパートナーだろう。
「まったく、なんで俺が、こんなやつといっしょに歩き回らないといけないんだ。俺の隣にいるのはフィアのはずなのに」
「それはこっちの台詞ですよ」
どうやら、向こうも俺とまったく同じことを考えていたらしい。ムカつくことに。
「まったく、なんでクロスフィア様の護衛の俺が、師団長なんかといっしょに行動しないといけないんですか」
「それこそ、俺の台詞だろ」
フィアが仲良くしろと言うので、仕方なく、無視したり決闘する程度でおさめているが、本来ならとっくに始末していたはずだ。
「クロスフィア様も、なんでこんな嫉妬深くて独占欲が強くて粘着質な竜種を相手に選んだんだか」
「ァア? フィアを伴侶に選んだのは俺だぞ?」
「まぁ、それはそうでしょうが」
俺たちはそれぞれ言いたいことを言いながら、どんとん進んでいった。
言い合いながらも、集中は切らさない。
幸運にも、通路は『いい状態』が続いている。それに通路自体には何の気配も感じられない。
床、壁、天井と石が組み合わされて作られているこの通路。
山の中腹を抉って奥深く入り込んでいる割に、どういう仕組みだか分からないが、外の光と空気を中まで取り込んでいる。
言ってみれば洞窟の奥深く。にも関わらず、明るくて空気は清涼。清々しさが感じられた。
しかし、通路の先の先のさらに奥からは複数の何ともいえない気配が漂ってくる。
俺もベルンドゥアンもその気配を気にしながら、会話を続けた。
「破壊の赤種は神をも壊す。だから、竜種の伴侶の契約くらい簡単に壊せますよね」
「まぁな」
「壊さず受け入れているってことは、クロスフィア様が師団長を選んだということですよ。忌々しいことに」
ベルンドゥアンは俺に反目しながらも、一応、フィアの夫だと認めている節がある。
結婚前はライバルだったこの男から、こういった台詞を聞かされると、なんだかこそばゆい。
「そうだな。俺はフィアに愛されてるからな」
「ムカつくので、頬を赤くしながら愛され発言するのは止めてくれませんか? 手がすべって、うっかり首を跳ねそうになります」
訂正する。やっぱりムカつく。
こいつなら、俺の首の一つや二つ、喜んで跳ねそうだ。
俺は眉を寄せ、知らず知らずのうちに痛くもない首筋に手を当てていた。
「お前、知らないのか? 俺を害したら、フィアにも衝撃がいくんだぞ」
「なんですか、それ。なおさら、ムカつきますね。クロスフィア様を人質にしないでください」
「竜種の夫婦は一心同体なんだよ」
「やっぱり、あの時。ネージュ様を止めておけば良かった。赤の樹林だって魔物が絶対出ないとは限らないと言って」
ベルンドゥアンが言うあの時とは、赤の樹林での一番初めの魔物討伐騒動のことだ。
あの時、あそこでフィアの前身であるネージュと出会っていなかったら、俺はどうなっていたんだろう。
分かるのは、今のような生活はできていなかったということだけ。
俺はあの時のことを思い出して、ふと、気になったことをベルンドゥアンに尋ねた。
「あの時のことだが。あの黒猫がいたって話だよな」
「はい。ただの猫ではないことは分かっていたんですが、まさか、赤種の三番目だったとは」
「つまりあの時点で、すでに、あの猫は小さいメダルで魔物を呼び出してた、というわけか」
「呼び出すところは確認できていませんが、本人の発言もありますから間違いないでしょう」
確かに、三番目自身がそう言っていた。自分が四番目を覚醒させたんだと。
となるの、やはり腑に落ちない。
「ずいぶんと計画的だが、それにしてはおかしい部分があるんだよな」
「え?」
「だって、そうだろう。わざわざ破壊の赤種を覚醒させてから、連れて行こうだなんて」
「確かにそうですね。連れ去りが目的なら覚醒前の方が楽ですし。覚醒が目的なら連れ去る必要はありませんし」
連れて行ってから覚醒させた方が楽だったろうに。なぜ、わざわざ楽ではない方にしたのか。しかも、計画的に。
ベルンドゥアンもようやく、おかしさに思い至ったようだ。
「つまり、なんらかの理由があって、ネージュ様ではダメで、クロスフィア様を連れて行く必要があったということでしょうか」
「おそらくな。理由は分からんがな。だから、人間に対する悪感情を植え付けて覚醒させ、連れて行こうとした」
「そのために、周囲の人間を操り、必要な道具も作らせたんですか。手が込んでいますね」
話に夢中になっているうちに、だいぶ奥まで進んできたようだ。空気が冷たくなってきた。通路も少し湿った土の臭いがする。
だいぶ奥まで来たというのに、まだ目的とする場所の半分くらいのようだ。手元の地図に目を落とした。
「グランフレイムのバカどもはネージュと接点があるから、利用されたんだろう。だが、あの猫と開発者がどうして繋がったんだか」
「接点がないということですね」
「接点もないし、そもそも、あのメダルを魔物召喚に応用する知識は、双方ともにないはずだ」
「バーミリオン様や第一塔長が、頭を抱えるのも仕方ありませんね」
「だな」
レクスも未だ接点が見つけられないらしい。たまたま出会ったにしては都合が良すぎる。
「だから直接、本人に聞いてみようかってことだ」
俺は地図から目を離し、暗くなっている通路の先に目を向けた。
ベルンドゥアンもオレに習って、暗がりを見つめる。
自然と足は止まっていた。
「なるほど。クロスフィア様に対する害悪も取り除けますしね」
暗がりを見て、ベルンドゥアンが俺の意見に同意する。
「あぁ、そういうことだ」
俺は大きく頷いた。暗がりに潜む闇を前にして。
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